『言の葉(6)』梶田健登「記録より記憶に残る選手に」

 意を決し大一番に挑んだ。今シーズンの梶田健登(政経4=明大中野)は成績が振るわず、全日本選手権、インカレの出場が絶望的に。引退シーズンを締めくくる国体出場に向け、都民体育大会優勝を目指した。

 自力で出場できる大舞台は国体のみ。「絶対に負けてたまるか」。国体の出場を懸けた都民大会当日。背水の陣でリンクに立った。だが演技直前いつも以上に大きな声援を浴びると「みんなの前で滑るのは最後だと思って誠心誠意滑る、それがやるべきこと」。気持ちが一気に変わった。結果は総合3位。国体は補欠に回ったが、心のこもったスケートと演技後に観客席の全方向にした深いお辞儀で、16年分の感謝を伝えた。

 仲間の存在が大きかった。同期の佐上凌主将(商4=武蔵野)と鎌田英嗣(営4=獨協)は小学生の時からの幼なじみ。同じ地域で切磋琢磨(せっさたくま)してきた。「一緒に明大に入れたらいいね」。いつからかそう語り合った。そして誰も離脱することなく、全員で明大へ。だが2年次のインカレ。男子出場メンバーが全員2年生以下という状況に。インカレへ出場する側としない側で対立が起こった。「部としてどうあるべきか」。フィギュアは個人競技。団体戦は大学が初めてだった。大会期間中、夜通し話し合う日々。部を引っ張る大変さを、下級生の頃に身に染みて感じた。衝突を乗り越えたからこそ、3人がより団結。「最後までやり切れたのは、この3人だったから。本当に凌(佐上)とヒデ(鎌田英)が同期で良かった」。今は胸を張って言える。「記録に残る選手よりも記憶に残る選手になる」。最初に師事した川越正大コーチにもらった言葉だ。都民大会では涙と拍手に包まれる観客席に見守られた。試合後、控え室には同期の姿が。「結果にかかわらず、みんな泣いてくれた。寂しい気持ちもあったがよかった」。座右の銘としていたその言葉を体現してみせた。氷の上から離れても〝スケーター・梶田健登〟の姿はファンの記憶に刻まれ続ける。

【上代梨加】


◆梶田健登(かじた・けんと)東京都出身。169㌢・51㌔