『言の葉(5)』前田隆昭「負けを生かす考え方を学べた」

2018.11.28

 「いい試合やった!」。前田は笑顔でグラウンドを去った。激闘の末、落とした引退試合と今季初のタイトル。それでも後悔はない。重ねた挫折は男を少し、大人に変えた。

 ホッケー王国・福井に生まれ、当然のように始まった競技人生。小中で全国制覇を経験し、丹生高では選抜、インターハイ、国体の高校3冠を達成した。負け知らずの少年時代は「修学旅行より大会が楽しい」。勝利の喜びがあれば、厳しい練習にも耐えられた。しかし大学では一転、タイトルが遠ざかる。主将として挑んだ今季は2度の全国大会で初戦敗退。負けて悔しい――。今まで味わったことのない感情に苦しんだ。

 それでもリーダーとして前を向かなければいけない。理想と現実との葛藤の中で、支えとなったのは仲間の存在だった。平井とMF舘亮佑(政経3=丹生)の2人の副主将はもがく前田を何度も鼓舞。「切り替えよう。次は勝つために練習しよう」。保育所からの親友であるMF松山隼也(政経4=丹生)も一番近くから助言を送った。周囲のサポートを受け、主将としての1年間を全う。右も左も分からなかった新チーム当初から、同期も後輩も指導者も、誰もが認める主将に成長した。

 最後の大会でも優勝を逃した。だが、敗戦から得るものがあることを22歳になった今は知っている。「負けを生かす考え方を学べた」。卒業後は地元のクラブチームに加入。根本にある競技愛は初めてスティックを握った日のままだ。「ホッケー人生は終わりません!」。山あり谷ありでもホッケーは、やめられない。

【楠大輝】

◆前田隆昭(まえだ・たかあき)福井県出身。176㌢・64㌔