TBSアナウンサー山本恵里伽さんインタビュー拡大版

明大スポーツ新聞
2023.03.29

 4月1日発行の明大スポーツ第527号の1面で明大での生活や新入生へのメッセージを送ってくださったTBSアナウンサーの山本恵里伽さん(平28文卒)。快く取材を受けてくださった山本アナはインタビュー中も、にこやかに落ち着いた声で答えてくださいました。今回は文字数の関係で紙面ではやむを得ず割愛したインタビューの拡大版を掲載いたします。

(この取材は3月16日におこなわれたものです)

 

――どうして明大に入られたのですか。

 「東京に行きたかったからです(笑)。出身が熊本で、中学と高校で放送部に入っていたので原稿を読んだり番組を作ったりしていたんですよね。漠然とテレビ局やメディアに興味を持って、そのようなお仕事に就きたいなと何となく思っていました。(地元の)熊本よりも東京の方がチャンスがあるのではないかというところから、大学進学は東京の大学に行こうと決めていました。私は映画や演劇、舞台芸術などを見るのが好きで、ちょうど明大にも文学部演劇専攻がありいいなと思って入学しました」

 

――映画を見るのが好きということでしたが、制作側に行かなかったのはなぜですか。

 「やはり見るのが好きだったんですよね。(大学時代は)作るのも興味があり映画制作のサークルに入っていましたし、放送部時代から映像作品を作ることはやっていたので、作る面白さはもちろん分かります。でも、それを職にしようとは思わなかったですね。好きなものは娯楽のままでいようと思ったのと、本気で映画監督や役者を目指している友人がサークルでたくさんでき『そこまでの本気度は自分にはないな』と正直感じた部分はありますね」

 

――大学時代の趣味は、やはり映画鑑賞や舞台鑑賞だったのですか。

 「映画はかなり見ていました。(大学時代はやった映画はありますか)私が学生時代に見ていた映画は、そこまでメジャーではないものの方が多かったかもしれないです。本当に好きな人からすると私はまだにわかでしたが、監督の名前で言うと岩井俊二さんなど映画好きの中で巨匠とされている方の作品を割と見たかな」

 

――大学時代に影響を受けた人物はいらっしゃいますか。

 「舞台芸術に触れる機会をつくってくれた場所なので、どの先生方にも良い影響を与えていただいたなと思いますね。4年生の時に入ったゼミはものすごく寛容な先生で、好きなものを追求して(卒論を)書くのを許してくれました。そのような寛容な先生が多かったのはすごくありがたかったなと思います。演劇学専攻は特にとても自由でした。映画や舞台芸術が好きな理由として、日常生活では味わえない感情を経験できるところがあります。あくまでも、日常生活の喜怒哀楽には上限があるような気がしますが、映画や舞台を見た後のなんだか悲しいけれどでもなんだかうれしいみたいな、よく分からず整理が付かない感情を感じたくて見にいくんですよね。それが私の(映画や舞台が)好きな理由です。なかなか味わえない感情を経験することができます」

 

――アナウンサーは言葉のレパートリーが豊富だなと感じます。

 「経験ですよね。あと、私が担当している『news23』は番組の時間も約1時間と決まっている中で、そこまでフリートークの枠がありません。一番の目的は視聴者に共感や理解をしてもらうことなので、コメンテーターの人と事前の打ち合わせももちろんあります。全くのフリーハンドはあまりなく、みなさんが思っている以上に準備していますよ」

 

――アナウンススクールと学業の両立は大変でしたか。

 「そこまで大変ではなかったと思います。大学に毎日行きながら、アナウンススクールは確か土曜日でした。(どれくらいの期間通われていたのですか)基礎3カ月、研究3カ月だった気がします。研究科に在籍していた時に、学生キャスターのお話をいただきました。(アナウンススクールはピリピリした世界でしたか)いや、全くでした。特に私がいたクラスが良かったのかもしれません。お話しするスキルを身に付けたいという思いで来ている人もいれば、伝え方を学びたいという人もいたので、講師として来てくださるアナウンサーの人たちもより一層いろいろな教え方をしてくれました。社会人としての話し方を学べる授業もあったので、すごく勉強になりましたね。空気はすごく穏やかでした。徐々に採用試験が近づいてくると若干緊張感は走るのですが、みんなでエントリーシートを見せ合ったりしました。アナウンサーは写真が命なんですよ(笑)いろいろな表情の写真を10枚くらい貼るんです。『この写真の方がかわいいよね』とか。採用試験の時はそこでできた仲間がすごく大きかったです」

 

――WBCが盛り上がっていますが、取材には行かれましたか。

 「(WBCの)放送権が先週の木曜日と金曜日はTBSということだったので、練習を見にいきました。試合自体はどうしても生放送の準備があるので難しかったのですが、生の大谷(翔平)選手やダルビッシュ(有)選手を拝見しました。圧巻でしたね。打撃練習でも、打球の飛び方、身体の大きさ、オーラなど、世界を舞台に戦って活躍しているアスリートはただならぬ存在感を放っているなと思いました」

 

――今までいろいろな方に取材してきたと思うのですが、意識していること、気をつけていることはありますか。

 「相手のことを知ることですね。VTRを作るディレクターがどのようなVTRを作りたいのか、どのような話を聞き出してほしいのかというのをまず聞いて、その上でいろいろな角度から考えて言葉を選ぶようにしていますね。過去のインタビューではこう答えているからこの質問をしたらこういう答えが返ってくるのではないかと、自分の中である程度シミュレーションを立てるようにしています。初めて会う方にかなり込み入ったお話も聞くことが多いので、最低限は失礼のないように『これだけこちらも準備した上でお話を伺っています』という姿勢は示すようにしています。(シミュレーションとは違った答えが返ってきた時はどのようにしているのですか)そのときが私は面白いなと思うので、予想外の答えが来ると『それってどういうことですか』とさらに問いかけるようにします。自分があまりにもレールを作り過ぎると、脱線していったときにパニックになるじゃないですか。あくまでも固めすぎず、絶対に聞きたいというポイントは決めて、脱線したときにも柔軟に対応できるように頭の体操はしておかないといけないなと思っています」

 

――バラエティーなど他のジャンルに出たいとは思いますか。

 「出たいと思いますよ。経験を積んでから、よりさまざまな仕事をしてみたいなと思うようになりました。報道だけだと見える世界があまりにも狭くなりすぎてしまうので。時折特番でMCをさせていただくことはあるのですが、私は生放送しかほとんど経験したことがなくて、生放送って全部一発勝負のような仕事なんですよ。ですがバラエティー番組の収録は放送時間の倍くらいの時間カメラを回すんですよね。ずっと収録して、本当にちょっとした話題のタネからそれを無限に広げていくという作業を何度も繰り返すんです。それが生放送で尺にきっちりと収めないといけないという世界で生きてきた人間からすると、収録番組というのは新鮮でした。そのような意味でもあまり経験したことのないバラエティー番組は機会があればたくさんやっていきたいなと思います。どうしても報道のカラーが付いてしまっているので、他のアナウンサーのようにいろいろなお声がけをいただく機会は減ってしまっているのですが、それでもお話がきたら前向きに取り組んでいきたいと思っています」

 

――以前他のインタビューで『アナウンサーはゴールがない仕事』だと仰っていましたが、これからの目標はありますか。

 「報道の仕事はずっと続けていきたいです。なぜかというと、このアナウンサーの仕事の中で唯一直接的に人の命を救うことができるジャンルなんですよね。災害が起きたときに私の『逃げてください』『命を守ってください』という一言で行動に移してくれて命を守ることにつながるという可能性がありますよね。そういう役割は今後も担っていきたいと思っています。けれどもそれだけではアナウンサー人生として十分とは言えないかなとも思います。バラエティーのお仕事、ラジオのお仕事をさせていただいていて、すごく楽しいんですよね。軸は報道に置きながらもさまざまなジャンルのお仕事を少しずつやらせていただいて、その後新しい自分を発見していけたらいいなと今は思っています」

 

――憧れの先輩はいらっしゃいますか。

 「先輩はみんな憧れで尊敬しています。それぞれにそれぞれの良さがあり駄目さがある、それがすごく人間味があっていいなと思います。本当に完璧な人間というのはあまりいないと思います。先輩方も失敗をたくさん見せてくれますね。恥ずかしがらずに『自分はこういう失敗をしたんだよ』と実際に教えてくれて『お前はこういう失敗するなよ』と諭してくれたりするので、どの先輩方も大好きですし尊敬しています」

 

――ご自身のアナウンサーとしての良い点、改善したい点はありますか。

 「良い点は、落ち着いているところですかね。それは入社した時からずっと言われていますね。声のトーンやしゃべり方もあると思うのですが、それが多分報道にマッチしていると思います。何があってもパニックにならない、動じない方だと思うので、そこはアナウンサーとして良い部分なのかなと思います。ただ、あまりにも報道のお仕事しかしてきていないので、柔軟性みたいなものには欠けると思いますね。もっと感情豊かに、好きなことを何か熱を持って伝えなければいけない時に、どうしても落ち着いてしまうんです。自分の中では盛り上がっているつもりなのに客観的に見ると全然足りないと言われることがあるので、その感情表現があまり私はうまくないのかなと思います。ラジオは全てがその連続です。自分のしゃべりで構成されていくので。今、爆笑問題さんとの『日曜サンデー』というラジオ番組を日曜日のお昼に4時間やっています。4時間しゃべりで埋めなければならないわけです。感情の揺れ動きをエピソードとして話さないといけないので、ラジオのお仕事をすることによってより自分の感情に素直になれるようになったなと思います。少しずつ改善されつつあるのかなと思っています」

 

――仕事の幅が広がれば広がるほど成長できるのですね。

 「本当にそうなんですよ。『あ、これ1、2年前の私だったら語れなかっただろうな』という話だったり、どこまでしゃべったらいいか分からないなという線引きなどもだんだんと自然にできるようになっていって、話にオチを付けたりできるようになりました。報道ではオチなんて考えられないですから。そのようなことをラジオという別のジャンルで学んでいます」

 

――就活をしていく上で大切にしてきたことを教えてください。

 「好きなことを学生時代にたくさんやることですね。就活で私が学生時代の経験が生きているなと思ったのは、本当に好きなことしかやっていなかったということです。好きなことを話す人の姿はすごくはつらつとして生き生きとしているじゃないですか。大学の話をしているだけで生き生き、きらきらしている自分を見せることができるんですよね。好きなことを見つけてそれに打ち込むということが学生時代は一番大事だと私は思います。それがあったから今の自分があると思います」

 

――アナウンサーは狭き門ですが、不安はなかったのですか。

 「ありました。テレビ局、メディア業界に入りたいというのがあって、一番がアナウンサーだったのですが、並行して総合職も受けていましたし、それが駄目だったら別の業種も受けようと思っていたので、そこまでアナウンサーにとらわれてはいなかったです。狭き門だし、私は内定をもらえないだろうなと思っていたので他のジャンルも視野に入れてやっていました」

 

――以前、村上宗隆選手(東京ヤクルトスワローズ)が熊本県民栄誉賞を取られた時にインタビューで熊本弁を話されていましたが、好きな熊本弁はありますか。

 「なんだろう、少し考えますね(笑)。好きとは少し違うかもしれませんが、よく使う熊本弁は『だご』という熊本弁です。すごく、とてもという意味です。さまざまな形容詞などに付けて使うんですよね。『だごかわいい』とか『だごうまい』。逆にマイナスな言葉にも『だごむかつく』とか使うのですが、これはすごく汎用性があって、感情も強く込めたいときに使いますね」

 

――新生活を送る人にメッセージはありますか。

 「そんなに怖がる必要はないよということを伝えたいですね。ワクワクドキドキ、楽しみにしてきた方がいいと思います。もちろん不安もあると思いますが、ホームシックになったり家族が恋しくなったりしたら頻繁に実家に電話を掛ければいいし、帰ってもいいのですから。帰れる場所があるということはすごく大きいです。ご実家が東京や近所となると故郷に帰るという感覚があまり分からないと思うのですが、故郷というのは、社会人になって離れたところで働いているとすごく大きな存在なんですね。熊本に足を踏み入れるだけで体がリセットされて、特別な場所になります。親元を離れて遠くから上京するのは不安があるけれどそれだけ故郷が大切なものになるよというのは伝えてあげたいですね。熊本の風を感じるだけで浄化されます。『ああ帰ってきた』と感じます。その感覚は地方出身の人間でないと分からないかなと思います」

 

――実家から何か持っていくといいものなどはありますか。

 「私は高校がすごく好きだったので高校の制服は持ってきました。もうずっとクローゼットの奥に閉まっているのですが、何かふとした時に手に取るとその時の楽しい記憶が蘇ってきて、穏やかな気持ちになれます。グレーのセーラー服で白いリボンで、アニメに登場するような制服なのですが、高校も、その制服自体もすごく好きだったんですよね。思い出したい記憶、思い出に付随する何かは持ってくるといいですね。写真とかでもいいと思います」

 

――最後に新入生へのメッセージをお願いします。

 「まず、入学おめでとうございます。これまでコロナ禍で高校生活を歩んできた皆さんはいろいろな制限があって苦しい思いがたくさんあったと思いますが、これからの大学生活は解き放たれてください、羽ばたいてください。コロナとの付き合い方というのはこれから先も考えていかないといけないですが、少しずつコロナ前の生活に戻ってくると思うので、皆さんが入学してからの4年間はこれまで歩んできた道のりよりずっと明るいものだと思います。だから希望を持って、4年間とにかく楽しんでほしいです。好きなことを見つけてそれにまい進してください」

(写真:笑顔を見せる山本アナ)

 

――ありがとうございました。

 

[佐野悠太、新村百華、井垣友希]

 

◆山本 恵里伽(やまもと・えりか)1993年生まれ。熊本県出身。平28文卒。 2016年TBSテレビに入社。現在は『news23』のキャスターを務める。ラジオ『爆笑問題の日曜サンデー』出演中。