映画『花束みたいな恋をした』土井裕泰監督インタビュー・拡大版②

 4月1日発行の明大スポーツ第518号の企画面では、映画『花束みたいな恋をした』の撮影の裏話などを語ってくださった土井裕泰さん。新聞内ではやむを得ず割愛したインタビュー部分を掲載いたします。

(この取材は2月7日に行われたものです)

 

――テレビドラマと映画の違いはありますか。 

 「それは必ず聞かれる質問なのですが、難しいんですよね(笑)。やはり映画の方が、見ている人が多少テレビよりも能動的に観るものだと思っているので。全てを分かりやすく説明しすぎないこと、むしろ観客の想像力に委ねる余地をなるべく作るべきだと考えています。映画をやるということは、自分にとっては少し特別なことなんですよね。非日常であるというか、単純に憧れでもあり肩に力も入る。ただ今回はテレビドラマの世界で一緒にやってきた坂元さんとの仕事でもありましたし、あまり余計なことを考えずに純粋にこの脚本と、そして映画と向き合えたのではないかと思っています」

 

――今回の作品はこれまで手がけてきた作品の中でどのような作品になりましたか。

 「僕がディレクターを始めた1990年代から2000年代の最初の頃は、恋愛ドラマが連ドラの主流だったんですよ。なので今回、久しぶりにど真ん中の恋愛ドラマをやるということが逆に新鮮に感じられました。ちょうどドラマの仕事を始めて30年くらい経っていた時だったのですが、何周か回ってすごく新しい気持ちでできました。そういう作品になりましたね」 

 

――今後の作品に影響はありますか。 

 「やはり『オリジナルドラマって面白いな、楽しいな』と思いました。 やりながらどこにいくのか自分たちも分からないという感覚というか。一からこの人はどこに住み、何を食べ、何を着て普段何を考えて生きているのかということを、手探りでやりながら作っていくような。実際にいない人間たちを僕たちがいろんな形で、役者もスタッフも含めて作っていき、でもできた世界はどこかにいる誰かにちゃんとなっているという、そういうオリジナルの世界を作る楽しさみたいなものをやっぱり今回感じました。今少し増えてきているんですよね、オリジナルドラマが。そういう時代が戻りつつあることは少しうれしいですよね」

 

――映画を製作するにあたり意識されたことを教えてください。

 「僕なんかは常に恋愛ものをやっているわけではなくて、例えば『罪の声』みたいなサスペンスであったり、職業ものであったり、まあ毎回いろんなことをやっています。『いろんなジャンルのものをやるのは難しくないんですか』と聞かれることがあります。でも、人間の話だと思えば、リアルに私たちの社会で生きている人間に起きたこと、人間がやったことの話だと思えばそんなに違わないんじゃないかなと思っています。さっき『花束』について、20代の若者たちの5年間を僕は観察していればいいと思ったと言いましたけど、生活の細部をちゃんと観察すれば、そこに必ずドラマが見えてくるんじゃないかと思っています。この『花束みたいな恋をした』という作品の面白さはまさにそこなんじゃないかな。誰も不治の病を抱えていたりとか、どこかにタイムスリップをしたりとかするわけではない。でもちゃんと主人公になれるドラマを抱えているんです。恋愛ものといってもただ恋愛だけを描いているのではありません。登場人物たちをちゃんと描けば、その向こうに私たちが生きている社会は同時に描けるんですよね」

 

――印象的なシーン、または思い出に残っているシーンはありますか。

 「まぁどれも思い出に残ってはいますが、2人で初めてちょっと遠出をして海に行くシーンですね。物語上も彼らが本当に付き合い始めて、一番ハッピーなというか、一番盛り上がっている時なのですが、実は絹の方は『恋愛はパーティーのようにいつか終わるもので、始まりは終わりの始まりなんだ』ということ思っているんです。映っている海の色合いも含めていろんなことを予感させるとても好きなシーンですよね。あと、さっきも言いましたが彼らの何年間かを一緒に体験してきたかのような撮影であったので、2日がかりで撮った最後の長い長いあのファミレスのシーンは非常に忘れがたいものになりました」

(撮影に使われた静岡県牧之原市の海)

 

――映画の主人公は大学生、そして就職活動をして社会人になります。大学生活の恋愛に焦点を当てなかったのはなぜでしょうか。

 「先程も言いましたが、これはただ一つの恋愛を描いているようでいて人生の誰もが通り過ぎる、モラトリアムの時期から社会に出て自分が本当に社会の中でどういう存在であるのかっていうことを突きつけられる20代の数年間の話なんですよ。この映画はやはり有村さんや菅田君と同世代の人たちが見て共感するだけのものではなく、それを通り過ぎていった30、40、50 代の人たちが見ても何かを感じてもらえる映画だと思っています。それがこの映画が本当にたくさんの人に見てもらえた理由だと思います。単純に一つの恋愛を描いたわけではない、誰もが通り過ぎた 20代という、とても楽しく、切なく、つらい時間というものを同時に描いているということがこの映画の魅力なのかと思います」 

 

――最後に、土井監督のおすすめの映画を教えてください。

 「最近本当にこの一か月で見た映画では今アカデミー賞の『ドライブマイカー』の濱口竜介監督の『偶然と想像』っていう映画が非常に面白かったです。ミニマムだけど非常に内容の濃い、スリリングな会話劇でした。静かに興奮しましたね」

 

――ありがとうございました。

 

[堀之内萌乃・菊地秋斗]