コックス特集(4)

2014.08.08
 今年こそ悲願を達成する。8月21~24日に戸田ボートコースで開催されるボートの全国大学選手権(インカレ)で、明大は男女総合優勝を目指す。昨年まで3年連続で男女ともに総合2位。その悔しさを胸に、1年間勝てるチーム作りをしてきた。ここでは全8回にわたってインカレに挑む端艇部を特集する。

 4回目はコックスの菅康行(法4=熊本学園大付)、里村杏香(農2=青森)の2人を特集します。コックスとしてクルーを支える2人の思いに迫ります。

菅康行(法4=熊本学園大付)

 「絶対こいでいてもここには来られなかった」。高校1年時の9月に漕手からコックスに転向。もともと小柄でケガもしやすく、体格の大きな選手を見て限界を感じていた。「それならコックスになって結果残した方がいいかな」。以来、舵取りとしてメンバーに声を掛け、クルーに貢献してきた。
 技術面の指導もコックスの役割の一つだ。自分が乗るクルーだけでなく、男子部全員のこぎを見てアドバイスを送る。実際にこがない分、エルゴを使って確認し速い人のビデオを見て研究してきた。そしてこぎに変化が見られ「お前の言う通りになった」と漕手に言われることがコックスとしての最高の喜びだという。「結局自分が言ったことは他の人に影響しないと意味がない 」。伝えることに難しさを感じながらも、漕手のために研究を怠らない。
 悔しさを力に変えた。昨年のインカレは舵手付きフォアに出場したが、残り50mまでリードしながら最後に中大に抜かれ2位。その差はわずか0秒2だった。「自分が冷静でいられず、引っ張ることができなかった」と振り返る。今でも練習していると、負けた時の瞬間がよみがえることがあるという。そしてそれがきついときに自分を奮い立たせる原動力になってきた。
 今年も舵手付きフォアに乗る。まずは昨年のリベンジを果たし優勝。そしてチームで目指す総合優勝がその先にある。コックスとしてメニューについても口を出し、冬季練習でもみんなを追い込ませてきた。だから「自分のクルーだけでなく他のクルーにも自分に責任がある」。陰でチームを支えてきた菅が最後のインカレに臨む。

里村杏香(農2=青森)

 最高のタイミングだった。「ラストスパート楽しんでいこう、さあ行こう」。東日本選手権の決勝最終クォーター、クルーの疲労がピークに達するタイミングでのコックス・里村の一声。日頃の練習から楽しんでこぐことをモットーにしていたクルーにとって、楽しさより苦しさが勝る終盤にかかったコールにはっとさせられた。松岡結(文4=浦和一女)は「このコールに鳥肌がたった」と称賛したという。まさにコックスとしての役割を体現した瞬間だった。今季からコックスとして舵手付きクォドルプルに乗る里村は東日本選手権での優勝を「やっとクルーの一員として貢献できた」と笑顔で振り返った。
 物足りなさが背中を押した。マネジャーとして送る日々に充実感は感じていたが「もっと部とのつながりがほしい」と自らコックスに志願。3人の候補者の中から何度かの乗艇を経て見事抜てきされた。しかし初めは右も左もわからなかった。「テンプレみたいなコールしかできず、自分が乗ってる意味はあるのかなと思った」と里村。競技についても詳しくは知らないまま、ひたすら乗ることで経験を重ねた。コックスの先輩である菅、大竹結(情コミ4=明大中野八王子)に積極的にアドバイスをもらい競技への理解を深めた。また、普段のマネジャーとしての仕事中の意識も変えた。他のクルーのモーションビデオを撮る際にささいなことに目を向けた。「他大のコックスがどんなコールをしているか見るようになった」と早大の男子のコールを取り入れたこともあった。毎回乗艇するたびに新しいことを教わり、精一杯の日々が続いた。
 慣れが余裕をもたらした。練習を重ねていくうちに少しずつ心境が変わった。「できなくて落ち込むよりも、教えていただいたことを確実に生かしていかないと」と心機一転。モーション後のストレッチをクルーと一緒に行うようにした。クルーとの時間を少しでも多く共有し、クルーのことをより深く知るためだ。水上での反省では技術的なことに触れられるようになった。船の伸びや方向に関する感覚を感じ取れるようになり、クルーミーティングの質も上がった。練習での声掛けに対するクルーの反応の良さにも手応えを感じている。
 もう一度表彰台の頂上へ。マネジャーとして臨んだ昨年とは違う立場で臨む2度目のインカレ。「昨年感じた、もっともっと端艇部を知りたい、貢献したいという思いが叶えられる」とレースへ意気込む。最高の瞬間を迎えるために。クルーと一体となり、的確なコールでクルーをアシストする。「自分のコールで船を変える」。インカレに向けて、里村の戦いは始まっている。