悔しさばねに1部復帰/全日本大学対抗選手権

 インカレは各階級のスナッチ順位、ジャーク順位、そして総合順位のそれぞれ1~8位までに点数が与えられ(1位8点、2位7点……8位1点)、それがチームの得点となる。最後までチームを信じ、仲間を信じた。昨年の2部降格という悔しさをばねに、目標通り優勝で1部復帰。明大勢は吾郷英之主将(農4=出雲農林)、高原康幸(政経3=天草高天草西)、原亮太(法2=須磨友が丘)が優勝を果たし、出場した8人中6人が表彰台に上った。

出場選手

<1日目>
 大会初日、トップバッターとして登場した谷中洋登(政経4=須磨友が丘)は準優勝を果たした。

 「絶対に勝たなきゃいけない」。プレッシャーと緊張を抱える一方で、最後の試合を「笑顔で終わろう」と心に決めプラットに立った。しかし「気持ちが空回ってしまった」とスナッチの1本目を落としてしまう。再挑戦した2本目で成功するも、最後の95㎏のバーベルはあと一歩のところで手から離れてしまった。それでも、何とかスナッチ3位につけ、挽回を図るべくジャークに臨んだ。1本目の115㎏では応援席から「軽い」という声が飛び出すほど安定した試技を見せ、続く120㎏も成功させる。だが、最後の122㎏は失敗に終わりトータル2位。目標としていた優勝には手が届かなかったものの「終わった瞬間、ホッとしてやり切った感を感じた。悔いはない」と、4年間を笑顔で締めくくった。

 「周りの人が支えてくれるからウエイトを続けられる」。以前から感謝の気持ちを大事にしたいと話していた谷中。試合後、仲間の元に駆け寄り「応援ありがとうございました」と一礼。自分を支えてくれた全ての人へ、これまでの感謝の気持ちが詰まった一言だった。

<2日目>
 大会2日目は原の完全優勝で流れに乗り、吾郷主将が優勝、高原、西岡翔吾(政経1=洲本実)も同階級で1位、2位と表彰台入りする選手が続出した。

 62㎏級の原が大学初の優勝を決めた。1年次から結果を残し、エースの存在感を出してきた原。今年は「62㎏級では自分しかいない、やらなきゃいけない」と自らを追い込んできた。今大会も「最低1位」と自分自身にプレッシャーをかけ、チームのためにシャフトを握った。

 「いつもより緊張していた」とプラットに上がる表情は強張っていた。だが、プレッシャーを力に変えるのが原の強み。スナッチの3本目で107㎏の自己新記録をたたき出し、接戦のスナッチをものにした。これにはセコンドの谷中も「よっしゃ」と喜びの声。腰を痛めて不調続きだったというジャークだが、落ち着いて1本目を成功させると、次の138㎏も力強く決めてみせた。既に優勝が確定した3本目は141㎏に挑戦。クリーンすることができず、惜しくも失敗に終わったが、ジャークでも1位をマークし、トータル245㎏の試合自己新記録。有言実行を守った2年生エースは表彰台の真ん中で満面の笑みを浮かべた。

 「スナッチが弱い」と以前から課題にしてきた種目での記録更新、高校2年生以来の完全優勝(スナッチ、ジャーク、トータル全てで1位を取ること)、そして大学初タイトル。「1、2本目はチームのために。3本目は自分のために」。高校時代の恩師から教えられた言葉を見事体現する結果となった。

 軽量級で完全に流れに乗った明大。69㎏級でも吾郷主将が優勝に輝いた。

 吾郷主将にとって最後の大会。「今の自分にできる最高の試技を」。それだけを考え、プラットへ向かった。普段からおとなしい性格の吾郷主将だが、この日だけは「失敗したくなかったから気合いを入れた」と大声を出しながら試技に臨んだ。3本目のスナッチ120㎏は失敗に終わったものの、115㎏で2位につける。「自信持って」。セコンドの加藤駿(営4=柴田)の言葉で送り出されたジャークでは、2本目の136kgまで丁寧に挙げていく。そして最後の140㎏。「リラックスできた」とクリーンを成功させると、どのチームよりも大きな明大の声援が会場に響いた。「これで終わりなんだっていうのがずっと頭にあった」。4年間の思いとともに差し上げた最後のバーベルは頭上でぴたりと止まった。「純粋にうれしかった」。今まで何百、何千ものシャフトを握ってきた吾郷主将の手は拳となって高く突き上げられた。「吾郷先輩のあんな姿は初めて見た」(奥山俊平・法3=常翔学園)。試合で感情を表に出すことはなかった吾郷主将だが、この時ばかりは喜びを爆発させた。笑顔でプラットを後にすると、これまでずっと吾郷主将のセコンドについていたという加藤とハイタッチ。さらに奥山とも握手を交わし、最後の試合を最高のかたちで終えた。

 吾郷主将だけではない。佐藤光(政経2=宮城県立農)もチームに貢献した。本来出場するはずだった中田健太郎(政経3=常翔学園)が大会直前に腰を痛め、急きょ補欠だった佐藤の出場が決まった。「正直調子も何もなかった」とまともな調整もできないまま試合に出場。「プラットに上がるまではガクガクだった」。インカレ初出場の緊張と、先輩の代役を務めるという大きなプレッシャーを背負いながらの試技。中田はケガを負いながらも、自分の代わりに出場する佐藤をサポートしたいと自らセコンドに名乗り出た。「絶対やるぞ、できるぞ」(中田)。佐藤にもチームにも申し訳なさを感じながら「頼む」と思いを込めて、中田は大声を出し続けた。そんなセコンドのサポートもあり、佐藤はスナッチ、ジャーク合わせて5本を成功させる好試技を見せた。これまでの試合では思うように実力を発揮できていなかった佐藤。今回も緊張とプレッシャーと戦いながらの試合だったが「意地でも挙げようと思った」と、チームを思う気持ちが力となって現れた。「よく頑張った。100点に近い試技を見せてくれた」(中田)「ほぼ無調整で出場で、正直期待はしてなかったけど頑張った」(徐文平・政経4=北海道朝鮮)。試合後、セコンドの2人は佐藤の背中をたたき、温かく迎えた。

 原の優勝で団体1位に躍り出た明大。69㎏級でも吾郷主将が23点、佐藤が12点を獲得し1位をキープ。この日最後の85㎏級には高原と西岡が出場し、1、2位を独占した。

 大会前から2人の1、2位が期待されていた中で、それぞれが役割を果たした。高原は「大事な試合は77㎏級で出場する」と今年の始めに宣言するも「点数を取ることが自分たちの仕事」とチームのことを最優先に考え、点数の取りやすい85㎏級での出場を決意。仲間の声援一つ一つをかみ締めるかのように、うなずきながらプラットに立った。高原もまたケガに悩まされ、十分な練習ができなかったという。そのためスナッチ、ジャークともにスタート重量を下げ「記録よりも点数」と確実な試技を選んだ。スナッチでは1本の失敗を許すも、121㎏を成功させ1位。一方、1年生で唯一の出場となった西岡は「緊張でガチガチだった」とスナッチの1、2本目を失敗してしまう。セコンドの徐が「落ち着いていけ」と声を掛け、3本目で115㎏に成功し、2位。ジャークは2人の独壇場だった。お互い1本目の144㎏を成功させると、2本目は高原が154㎏、西岡は153㎏と大幅な重量増加も難なくクリア。3本目ではそれぞれ164㎏、162㎏に挑戦。両者気合いを入れて挑むも引き上げ切れず失敗。しかし、高原がトータル275㎏で優勝、西岡は268㎏で準優勝を果たし、作戦通りの展開となった。

 完全優勝を果たした高原だったが、ケガの影響で本調子ではなかった。また、試合前には2部で戦う恥ずかしさも感じていたという。それでも「気持ちでどうにかなった」。一本一本を挙げていくうちに「4年生に対して思うこととか、今までお世話になった恩を試技で表すのは1部と何も変わらない」と最後はチーム、そして4年生への思いを込めた試技になった。

<3日目>
 2日目だけで104点を獲得した明大。大会最終日も勢いは止まらなかった。105㎏級の大嶋虎太朗(政経4=鎮西)が3位で表彰台に上り、団体優勝が確定。最後の+105㎏級に出場した畠山桂(政経2=能代工)もインカレ初出場ながら4位と健闘した。

 「自分の点数で優勝が決まる」。試合前日は緊張とプレッシャーから眠れなかったという大嶋。「とにかく1本目」と意識して臨んだスナッチでは126㎏をしっかり決めると、次の128㎏も順調に挙げていく。3本目はスナッチ1位を懸けて131㎏を挙げるも「詰めが甘かった」と肘が完全に伸びず、失敗の判定で2位。ジャークでは落ち着いて切り替え、1本目を成功させる。2本目の159㎏は惜しくも失敗。最後の1本は160㎏。慎重にシャフトを握る大嶋に「最後だぞ、やるぞ」と大きな声援が送られた。「絶対に点数を取ろう」。チームの運命を背負い、差し上げたバーベルはきれいに静止。見事ジャーク3位をマークし、トータル3位で19点を獲得した。応援席からは「合宿所長おめでとう」と祝福の言葉が送られ、大嶋は表彰台の上から「ありがとうございます」と照れながらも大きな声で仲間に感謝の言葉を伝えた。

 表彰台の上では涙を見せなかった大嶋だが、仲間の元へ帰る時には涙がこぼれた。「自分で団体優勝を決められた」喜びと大きなプレッシャーから解き放たれた安心感、そして仲間への感謝。さまざまな思いが入り混じった涙だったはずだ。

 大会最後は+105㎏級。初めてのインカレ出場となった畠山だったが「先輩方が点数を取ってくれていたから、精一杯やるだけだった」とプレッシャーはなかった。試技前にはセコンドの三原に背中をたたかれて送り出され、気合は十分。スナッチを危なげなく2本成功させ、ジャークでは1本目を確実に決めると、2本目で一瞬苦しげな表情を見せるもしっかりと立て直し156㎏を挙げてみせた。最後は表彰台を懸け、162㎏に挑んだが「少し重かった」とクリーンは成功するも差し上げに失敗しトータル274㎏で4位。「162㎏を挙げていたら3位だったから悔しい」と最後の1本が悔やまれるが、それでもしっかり点数を稼ぎ、チームに貢献した。

 最終的に明大は157点を獲得。「みんな普段以上の成績が出せて、満足できる内容で終われた」(吾郷主将)と2位の大阪商大に26点差を付けダントツ優勝を果たし、1部復帰を決めた。今大会、敦見、中田、三原の3年主力メンバーがケガにより出場できなくなるハプニングもあったが「全員がレギュラーのつもりで戦ってくれた」(本多達雄監督)と、下級生メンバーも精一杯の試技を見せた。「応援してもらって助けられた」(西岡)と選手を支える仲間の存在も大きかった。まさにチーム全員の力でつかみ取った1部復帰だ。

 この1年、誰もが復帰の瞬間を待ち望んだ。昨年「インカレで表彰台を狙えるのは今年しかない」と言われる中、創部以来2度目の2部降格。1部で戦い続けることが選手にとっては当たり前だった。想像もしなかった結果に選手たちは肩を落とし、競技に打ち込むことも難しかったという。だが、その悔しさが選手を奮い立たせた。「1部は自分たちが戦うべき場所」(吾郷主将)。今まで以上に一人一人が真剣に強くなることを考え、努力を重ねてきた。4年生が中心になり、チーム改革にも励んだ。「4年生が決めることが全てじゃない」。下級生の意見にも耳を傾け、練習内容も下級生に決めさせた。対立もあった。意見もぶつかった。だが「妥協だけはしなかった」(谷中)。自分の考えをぶつけ、お互いに言い合うことでまとまりが生まれ、それが団結力につながった。

 結果で引っ張るだけでなく、必死にチームをつくる姿勢を見せてきた4年生。その背中を追いかけてきた下級生。競技、そしてチームに一人一人が向き合い、全員で積み重ねてきたものがやっと形になった。

 ここが一つのゴールであり新しいスタートだ。インカレ後に行われた幹部交代で新体制が発表された。新主将としてチームの先頭に立つのは高原。「1部でしっかり戦えるチームをつくるのが残された者としてやるべきこと」(高原)。目指すものは先にある。明大ウエイトリフティング部が今、新たなスタートラインに立った。

[竹田絵美]