秋季リーグ戦開幕Ⅴ~命運握る絶対エース――神巧也~

意外にも「エリート」という言葉とは無縁だ。名門・青森山田中・高出身だが、入学当初は無名の選手。しかし、ここでの多くの人との出会いが神の成長の糧になった。「青森山田に入った当初、僕は全然強くなかったので周りの人から少しでも何か教えてもらおうと思っていました」。青森山田には後に日本代表に名を連ねる、松平賢二(協和発酵キリン)・健太(早大)兄弟や上田仁(青森大)、そして全日本チャンピオン・水谷隼選手(平24政経卒・スヴェンソン)がいた。「(松平)賢二さんや上田さんは不器用なんですけど、すごく練習量をこなして努力して強くなって日本代表になったので、“やればできるんだ”ということを教わりました」。そして、松平健太(早大)には一から技術をたたき込まれたという。「それが、今の僕のプレーの一番の基本になっています」。そして忘れてはならないのが、大学の先輩でもある水谷選手の存在。4つ歳が離れた2人は大学で初めて団体戦を共に戦った。「水谷さんから教わったのは、勝負の厳しさとかプロフェッショナルな部分。本当に勝負に厳しいんですよ。試合で負けた時は厳しく言われますし、勝っても内容のことは厳しく言われます」。だが、厳しい言葉は大きな期待の裏返し。自分が卒業した後のエースを任せたいという思いが水谷選手にもあったはずだ。それは神自身も分かっていた。「(厳しく)言われている時はちょっと落ち込むんですけど後々考えてみるとすごい自分のためになっているなと。そうやって言ってくれる人がいないと自分自身も成長できないと思います」。こうして周囲の環境にも恵まれながら、今の自分を築き上げていった。

だが、今までとは違う苦しみも待っていた。追われる立場になったプレッシャーから一時は自分の戦い方を見失った。期待された今年1月の全日本選手権では早々に敗退。しかし、何年もの努力によって手にした強さや自信は簡単には崩れなかった。さらに「毎日進歩しているように感じる」(田崎俊雄監督)と言われる質の高い練習を絶やさずに積んだ。そうして、3月の東京選手権では本来のプレーを取り戻した神の姿があった。準々決勝では、日本代表経験もある張一博(東京アート)から持ち前の粘りのプレーで大金星を挙げた。
今シーズンに入ってからも春季リーグ戦やインカレと、正真正銘の明大のエースとしてチームをけん引。さらに、秋季リーグ戦では7日に節目の春秋通算20勝目を挙げ、順調に勝ち星を伸ばしている。「負けることなんか考えてる場合じゃない。優勝しか見てないので必ず勝ち取りたいです」。壁を乗り越え、強くたくましく成長したエースが明大を優勝に導く。
◆神巧也 じんたくや 政経2 青森山田高出 168㎝・60㎏
関東大学リーグ戦16勝1敗(11年春・秋、12年春通算)。
関東学生選手権では、12年シングルス3位、11・12年ダブルス優勝。
11年全日本学生選手権シングルス・ダブルス優勝。
11年全日本学生選抜選手権優勝。
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