前回覇者に競り勝ち49年ぶり総合3位/第88回東京箱根間往復大学駅伝競走

2012.01.04
 「どこが良かったというよりも、全員が良かった」(西駅伝監督)。ミスのない駅伝を常に口にしてきた西駅伝監督。今大会はそれが現実となった。ブレーキとなった選手もなく、だからと言って特別に速い選手もいたわけではない。それぞれの選手がそれぞれの持ち味を出し切った結果だった。4位以上の成績を残したのは1963年の第39回大会の総合2位以来、実に49年ぶり。さらに、箱根路では48年間勝てなかった早大を下しての総合3位。ゴール直前の鎧坂主将の目には涙が浮かんでいた。

 前日の往路の結果を受け、午前8時の号砲とともに2位に5分7秒差をつけて往路優勝を決めた東洋大からスタート。続いて早大、その14秒後に明大は6区廣瀬がスタートを切り、明大の復路が幕を開けた。序盤から先行する早大よりも速いペースで山を下っていくと、12㎞付近で早大をとらえ、2位に浮上。その後も徐々に早大との差を開きながら、小田原では21秒の差をつけ襷をつないだ。

 早大に対し廣瀬が築いた21秒差で襷を受けたのは、自身2度目の箱根路で7区にエントリーされた北。「落ち着いて走ろうと考えていた」というレース序盤は早大、駒大、そして明大の3校が並走する形でレースが進んでいくが、9㎞地点で早大が仕掛けると、北はそれに食らいつき、いったんは駒大を引き離す。しかし早大に徐々に離され、逆に引き離したはずの駒大に差を詰められ熾烈な3位争いに。抜きつ抜かれつの攻防は互いに譲らず、平塚中継所では同時に襷リレー。「自分は(早大に)抜かれたのであまりよくなかった」と自身の走りを振り返ったが、タイムは区間4位の好走だった。

 
駒大と同時に襷を受けた8区を任されたのは1年生の有村。「実力はある。10回失敗しても使い続ける」(西監督)と監督の信頼も厚い。中継所で襷を受ける際「楽しんで走ってこい」と北に声をかけられスタートを切った。序盤こそ駒大と並走し、残り12㎞地点となったところで有村が一歩前に出るも、遊行寺の上り坂で再び駒大に先行を許す。しかし「遊行寺の坂で気持ちが折れそうになったけど、西さんから粘っていけと言われた」という言葉通り、しっかりついていくと、中継所直前で最後の意地を見せ、駒大に13秒差をつけ3位で9区につないだ。「最初は緊張していたけど、走り終わったら楽しかったと感じた」。

 レースもいよいよ終盤戦に突入。復路のエース区間、9区には2年連続で細川(勇)が起用された。しかし、駒大・窪田の見せた区間賞の走りに先行を許し4位に後退してしまう。それでも「窪田は実績のある選手。あまり意識せず差をできるだけ開けられないように努めた」(細川(勇))と、冷静な走りで9区をまとめ、最後の箱根路に別れを告げるようにエース・鎧坂主将の待つ鶴見中継所へ4位で飛び込み、1年次から一緒に走ってきた鎧坂主将に襷をつないだ。

 先行する3位の早大に1分13秒差をつけられた鶴見中継所。襷を受けたアンカー・鎧坂主将は、この差を逆転するために紫紺の襷とともにひた走った。決して万全ではない体調。往路に出走できないほどの腰痛を抱えながらも、学生史上最速ランナーは前だけを見据えていた。西駅伝監督からは「1km3分から3分5秒ペースを刻め」との指示が飛ぶが、徐々に近づくえんじ色のユニフォームが、鎧坂主将の闘志に火をつけ、残り9.5km地点の新八ツ山橋では早大との差が17秒。勢いそのままに早大をかわし、3位に順位を押し上げた。大手町のゴールで待つ仲間のもとに帰ってきた鎧坂主将の目には涙が浮かんでおり、それを拭いながらゴールテープを切った。万全ではない体調をものともせず、アンカーに課せられた仕事を見事に果たして見せた。

 49年ぶりの4位以上という成績。さらには東洋大、駒大、そして早大という3強の一角を崩し、総合3位の成績を手にしたことには今年、そして来年の箱根に向け大きな意味がある。1度は落とした全日本大学駅伝のシード権も、今回の箱根の結果を受けシード権を獲得。伊勢で流した涙を帳消しにした。鎧坂主将が抜ける来季は戦力ダウンも必至かと思われた。しかし、今回の箱根は10人中8人が3年生以下。このチームで残した結果は必ず来季の自信につながるはずだ。しかし、まずは今回の素晴らしい結果を残した選手たちに称賛を送りたい。

[片貝晋]

☆選手・首脳陣のコメント☆
遠藤監督

「3位という結果は満足いく部分もあれば満足できない部分もある。やっぱり競技者である以上は優勝したいしね。今までよりもいい結果を残せたからもちろん満足もしているけど。あとはこれからをしっかりと練習することが大事。焦らずゆっくりとやっていきたい。3位の要因は全員が無理なく走れたこと。もともとそれくらいの力は十分にあったけど、今回はそれ以上の力を出してくれたと思う。今回の経験を生かしてこれからもっと成長してほしい。これからの目標はよく考えたい。優勝と口にするのは簡単だけど、まだまだこれからのチームだから」。

西駅伝監督
「鎧坂を今日使うかは、昨日の夕方5時まで迷った。やれると本人が電話で言ったので、走らせることを決めた。今回はみんなよく頑張った。素晴らしいチームに巡り合えたと思います。一人一人が動揺なく落ち着いたレース運びだった。不安とかを持って選手を送り出すこともあるが、みんな落ち着いたレースしてくれて。鎧坂は昨日の段階でよくも悪くもないということだった。じゃあ安全運転で行こうと伝えた。総合4位でも悪くはないと思っていたけど、闘争本能というのが彼の中にもあったと思う。今回の3位という結果に安心することなく優勝へ向け頑張っていきたい。30日くらいから選手にはわれわれの駅伝をしようと言っていた。これくらいのタイムで来られる、とかいうのは前に伝えていたので。順位がどうであれとにかくベストを出そうと。鎧坂に関しては10区の目標タイムは設定していなかった。冒険はせず、総合3~5位でゴールしようと話していた。チームの総合結果のために抑えさせたといった感じ。走っている時指示にも反応していたし、走りを見ていて止まることがなければ安全だろうと思っていた。(10区で起用したことについて)彼が走ることは(いい意味で)影響がある。2区を走らせないことを決めてから、その後欠場させるか他で起用するか考えた。アンカーなら気温も暖かいしアップダウンもそんなにないから、腰の負担も低いだろうと。本人も10区でいけると言った。鎧坂がアンカーになって、「彼を楽にさせてあげよう」というのが選手達の中にあったみたいですね。これは北がラジオか何かで言っていたのかな。今回よかった要因を挙げるなら、築き上げてきたものというか……。選手たちは一人一人入ってきて卒業していく。その一つ一つ、先輩たちの行動や言ったことが生きていたんだと思う。一昨年の結果もそうだけど、あれも一つの反省となって次の年の5位につながった。今いる選手たちは逃げるのではなく前に進んでいってくれた。鎧坂という大エースがああいう状況でも知らない間にここまで来られた。これからはこの順位を落とさずに優勝を意識していきたい」。

山本コーチ
「上出来です。3位という順位をどうとらえるかは大学によると思うけど、うちにとっては10区間ほぼ力を出し切れたと思う。今回は、気持ちと体調がうまい具合に合わさっていたと思う。鎧坂が最後にいるということで彼を男にしてあげたいというみんなの思いがあったんじゃないかな。勇介(細川)もそうだけど、下の子が頑張ると上級生もいい刺激を受ける。そういう相乗効果もあったと思う。菊地はビッグレースで結果を残せないのが続いていた。今回は殻を破るきっかけをつくったと思う。もともと2区鎧坂、3区菊地、10区石間の予定だった。だからそれが入れ替わって菊地、石間、鎧坂になったので(もともと予定していた鎧坂、菊地、石間の配置よりも)5分遅れることは覚悟していた。だけど菊地、石間の2人は予想以上に走ってくれた。今回は(鎧坂に)頼らないようにしようとみんなが思えたんだと思う。鎧坂が使えないかもしれないという状態になって全員が自分の仕事を考えた。いつも鎧坂なら2、3分を逆転してくれるけど、それを自分たちが埋めなきゃいけない。それによって自分自身の目標設定も変わったと思う。来年はまだどうなるかは分からない。今回の結果をどう思うか。満足していては駄目、優勝を狙う気持ちが出てこないといけない」。

1区 大六野
「(総合3位については)とてもうれしい。みんなでつないで、それぞれが力を出せた。(希望していた1区を走ることに決まったときは)うれしかった。でも、いい位置で渡さなければいけないので緊張はあった。とらわれることなく自分の走りをしようとスタートラインに立った。優勝するぞ、と意気込んでいた。(鎧坂さんが往路を走らないと決まったときは)心配だったが、菊地さんも頼れる存在。信頼して襷を渡した。(自分の走りについては)緊張していたがそれなりに仕事はできたと思う。できれば3位集団で襷を渡したかったが6位集団に落ちてしまったのが悔しい。大迫さん(早大)は仕方がないという気持が少しあったけど、他の選手に抜かれたのは悔しい。自分のレースには満足していない。点数にすると70点くらい。1位から離れてしまったのでこの点数。(初めての箱根)応援の数が多い。応援が力になった。速いレースでタイムを出せたので、もっと上を目指していきたい」。

2区 菊地
「鎧坂さんがいない中で、自分たちがやれることをやるしかないという気持ちだった。その中で、最低限のことはできたと思う。鎧坂さんに頼っていた部分が今まであった。鎧坂さんが全日本で悪かったらチームの結果も悪くて。そこから自分が、自分が、という気持ちが強くなったと思う。だから鎧坂さんのためにという思いもあった。2区を走ったことに関しては、もともと走りたい区間であったし、来年走るかもしれない区間だと思っていた。今回は自分で走ったことがない中で走った。ラストの上り坂で少し置いていかれてしまった。今回の走りは自信にはもちろんなったけど、去年も箱根ではそこそこ走れていたので、大事なのは今回の結果を自分の糧として次のレースにつなげていくことだと思います」。

3区 石間
「急きょ3区を走ることになった。もともと自分は復路の予定だったので、準エース区間を走ることになって不安で緊張もしたけど、次の区間の選手を生かす走りができればと思っていた。攻めの姿勢で走ることができた。タイムとしては予定よりだいぶ良くて、1分くらい良かった。区間順位は良くなかったけど、トータルとして少しではあったけど3位に貢献できたと思う。襷をもらう前は不安と緊張がすごかったけど、やるしかないと思って、しっかり前を見て追っていきました。もともとは鎧坂さんが2区、菊地さんが3区で自分が10区の予定で、1日ずれて大変だった面もあったけど、鎧坂さんに2年間で初めて「石間頼むぞ」と言われて気が引き締まった。本当に2年間やってきて初めて言われたので、4年生のために自分のできることは一つしかないと思って走りました」。

4区 八木沢
「最初から良い流れで来た。1区の大六野は1年生では数少ない62分台で、前が見える位置で襷を渡した。菊地さん、石間さんは30日に(2、3の)区間が決まったのにバタバタしなかった。菊地さんの区間5位はすばらしいし、石間さんも復路を走る予定から急きょ往路の準エース区間を走ることになったのにしっかり走り、(前と)秒差でつないでくれた。僕が走れたのは前の3人のおかげ。(鎧坂さんの)腰の状態が良くないから区間変更がありえるだろうことはみんなうすうす分かっていた。実際(区間変更の)話を聞いたときはやはり、という実感があった。厳しい戦いになるだろうとみんな思ったしチーム力としてもマイナスの部分が大きかったと思う。だがこの1年間鎧坂さんに頼り切りだったという思いを誰もが持っていて、そういう思いの中箱根に向けての練習をやってきた。だから今度は自分達が恩返ししようという思いで選手達はみんな走った。鎧坂さんの故障がチームが奮起する材料になった。区間賞を取った選手は一人もいない。総合3位を取れたのは誰もブレーキをせずしっかりつなげたこと、往路序盤につくった流れを切らなかったことにある。全員駅伝ができた。(僅差で前にいたチームについて)とにかく前を追うしかないというつもりだった。走らせていただいたという感謝の気持ちもあった。4区はつなぎの区間で、自分の役割は順位を押し上げることなのだから、前を目指すのは当然。追う気持ちが持てたのも良い位置で襷をもらったからであり、やはり前を走った3人のおかげ。来年の箱根の目標はチームで優勝、個人で区間賞。今回も、4区を走るからには区間賞を取れと西監督に言われていたができなかった。来年どこを走れるか分からないが任された区間の役割を遂行したい」。

5区 大江
「1~4区まで良い流れできて、あとは早稲田を抜くだけだと思った。抜けなかったので悔しい。でも10区で抜いて、結果よかった。うれしい。去年より1分はやいタイムを出す予定だった。途中体がきつくなって普段通りできなかった。タイムは去年より早いのでいい。12、13番あたりで来るかなと言われていたが、3番で来たので、自分の中でもやらないといけないと思った。追いついて、でも離されたときがきつかった。すぐ抜けるかな、と思ったが早大も強かった。負けず嫌いで強いな、と思った。負けたくない、早稲田より前でゴールしたいと思った。みんな力以上のものが出せた。一人一人諦めずに粘れた。いきなりのメンバー変更にも対応できたことは大きな成果。来年は区間賞。どんな相手でも。4年生がしっかり引っ張っていきたい。(今季は不調もあり)苦しい時期もあった、今回の結果は満足ではないが次へとつなげたい。諦めずにやって試合でも粘れるようになった。苦しんだ分、大きな成果が得られた」。

6区 廣瀬
「(総合3位については)とにかくうれしかった。腰が痛いながらも走ってくれた鎧坂さんに感謝したい。全日本のシードも取れてほっとした。一人一人が出し切れたことや、鎧坂さんが往路で走らなくなって自分がやろうという気持ちが強くなった事が良くなった点です。(往路3位については)鎧坂さんなしで3位にはびっくりしたと同時に、勢いをそのままつなげたいと思っていた。早大が前にいたため、追いつくことを考えていた。追いついたとき差を離すことを考えたが後半詰まって思うように離せなかった。最初に早大がいたので走りが速くなり、落ち着いて入ることはできなかった。昨年でどこがポイントなのか分かっていた。状態はあまり良くなかったけど経験があった分良かった。点数にすると70点。後半粘れればもっと早大との差を離せた。北とは、襷を渡すときは笑顔で渡そうと決めていた。北が渡す前から笑っていて、元気よく迎えてくれたのでうれしかった。行って来いという気持ちで襷を渡した」。

7区 北
「自分は抜かれてしまったのであまり良くなかったけど、チームの3位という結果はうれしい。タイムとしては64分台、64分30秒くらいと言われていたけど、自分の中では63分台もいけると思っていた。3位は絶対取りたいと思っていた。かなり緊張したけど結果として総合3位になれたので、自分の最低限の仕事はできたかなと思う。(昨年とは逆の7区だったが)印象としてあまり変わったところもない。去年は前半飛ばしすぎて失敗したので、今年は落ち着いて走ろうと考えていた。それができた。みんないい走りでいいところで持ってきてくれたので、自分が崩す訳にはいかないと思っていた。今年は故障で内容が全くない1年だったけど、最後に箱根で7区を走らせてもらってチームも3位という結果を残せたので、良かったかなと思う」。

8区 有村
「全部がいい流れで来れた。はじめは緊張していたけど、気持ちよく走れた。序盤は一緒に走る人がいた。遊行寺の坂のところで気持ちが折れそうになったが、西監督から粘っていけという言葉かけられ粘っていった。(今日の結果を受けて)さらに上を目指せるチームだと思う。(鎧坂主将の往路欠場について)今まで鎧坂さん頼りの部分が大きかったので、払拭しようと思った。むしろ恩返しという意味で非常に燃えた。今季は出雲、全日本ともに失敗していたが、今回は最低限の仕事は出来たと思う。やはり緊張していたけど、終わった後は楽しく走れたと感じた。3強の一角を崩したのは大きい。来年は今回以上の結果を残さないといけない」。

9区 細川(勇)
「最後なので、悔いの残らない走りというのが今回の目標だった。駒大に抜かれ早大にも離されて個人的には納得できない走りだったがチームとして3位入賞できたのは良かった。もちろん優勝を意識してはいたが、早大の前でゴールできたし、4年間で一番の成績だった。駒大の窪田は実績がある成績なので、無理したらつぶれると思ったし、西監督にも言われた。あまり意識せずに、差をできるだけ開けられないことに努めた。9区は100%の力を出すことが求められる区間で、自分のすべきこともそれだった。(鎧坂の故障で)菊地、石間が急きょ走ることになった。菊地は出雲・全日本と不調だったが今回2区のエース区間で良い走りを見せてくれて、勇気をもらった。石間は、正直これまではメンタルが強くないと思っていた。そんな中、今回立派につなぎ、一皮向けたところが見られた。鎧坂とは1年生の時から三大駅伝なども一緒に走ってきた。ラストランで襷リレーができたのも何かの縁だと思う。自分としてもうれしい。後半の苦しい時沿道から「鎧坂が待ってるぞ」の言葉を聞き、元気が出た。それを力にラストも前との差を縮められた。(勝因は)走った10人だけでなく全員が「明治大学」にプライドを持っていて、往路つくった流れを切らさずに走れたこと。プライドで力以上のものが出せた。復路の選手もこれまで力を出せていない者がいたが、今日は出せた。自分は実績のない選手なので、高校時代憧れたランナーがチームにたくさんいる中で一緒に走れてうれしかった」。

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