(7)それぞれの思いを胸に、いざインカレへ 高原・谷中・千原

完全復活へ―高原康幸

 「やっと今、いい感じでやれている」。どこか照れくさそうに語る表情からは、これまでにはなかった自信を感じさせる。インターハイ王者という輝かしい実績を持ち合わせながら、スランプに悩まされ続けた昨シーズン。復活が待たれる実力派リフターはインカレでの飛躍を誓う。

 「練習をしているのに結果がついてこない」。周囲の期待とは裏腹に、高原は苦しんでいた。大会メンバーに名を連ねるも棄権が続き、高校時代の記録を下回ったこともあった。「周りが伸びていく中で、ウエイトを続けないと…」。三原(政経2)を筆頭にめきめきと力を付ける同期たちを尻目に、いつの間にか自分だけが取り残されていた。高校から競技を始め、1年生ながらインターハイに出場。翌年は3位、そして3年次には優勝と、これまで歩んできた道とは全く異なる道をただ1人さまよってきた。

 しかしその一方で、競技に対する思いだけは消えることはなかった。「(スランプは)割り切って、今できる重量をやっていく」。一歩一歩を着実に。かつての自分の姿を取り戻すべく、バーベルに向かう日々は続いた。
 
 そして今シーズン。東日本個人選手権、全日本学生新人戦選手権での優勝をはじめ、本人も「上り調子」と認めるなど、明るい兆しが差し込んできた。「監督から早く(優勝のラインとなる重量である)トータル300kgを取れと言われている」。将来の明治を担うエースとしての自覚もまた、ここに来て芽生えつつある。

 昨季のインカレは出場を果たすも、スナッチとジャークのトータル順位は9位。「普段は緊張しないが、インカレは緊張する。自分がへこむとみんなへこむ。記録なしに終わらないようにしたい」。あくまで謙虚に語る高原だが、チームの上位進出のためにも一つでも上の順位を狙いにいく。

インカレのカギを握る男―谷中洋澄

 大きな体で豪快にバーベルを振り上げる。ウエイトに対するイメージがそうであるならば、彼自身がリフターであることは一見気付かないかもしれない。しかし、その細身の体には鉛の塊をものともしないパワーが秘められている。

 「『谷中がウエイト?』って言われました」。高校から競技を始めるも、当初は周りが驚くほどだった。中学時代は卓球部。だが「下駄箱で呼び止められ、断れずに入った」と、思わぬ形で谷中のウエイト人生は幕を開けた。

 しかし、後ろ向きな理由で始めたウエイトは、本人にとって苦しいものだった。「どこが面白いかと思った」。競技に面白みを見出せず「嫌々」のまま練習に打ち込む日々。当然そんな状況では記録も伸びることもなかった。

 転機となったのは、地元で行われたインターハイと国体を見た時だった。「試合に出て上の順位に入る」。彼の中でウエイトにおける目標が生まれた。
 そこから谷中はウエイトと正面から向き合うようになる。「まずは物まね。フォームとか」「先生に言われたことを必死にやる」。当たり前のことかもしれないが、彼の中でウエイトに対する姿勢は大きく変わっていた。
 「目標ができたらいつの間にか嫌々がなくなった」。いつしか全国選抜で準優勝を果たすリフターにまで成長していた。

 明大進学後は1年次に全日本学生新人選手権優勝を制覇。武市主将(農4)、加藤(晴・政経4)ら層の厚い軽量級の中でも、存在感を発揮している。
 初出場となった昨季のインカレはトータル9位。2回目のインカレに向けては「重量はセコンドに任せて、言われたのをやるだけ」と抜かりはない。全階級の中で一番初めに行われる56kg級に出場予定なだけに、上位進出でチームに勢いをもたらしたいところだ。

サッカーエリートからリフターへ―千原信二

  「中学3年の11月、義理の親戚が来て『肘を上げてみろ』と言われたのがきっかけ」。千原のウエイトリフティング人生はそんな一言から始まった。

 中学まではサッカーに明け暮れ、全中(全国中学校サッカー大会)に出場したこともある。「高校でも全国大会に行きたいと思っていた」。競技の枠を超えて、もう一度全国の舞台に立ちたいとの思いを抱いていた矢先、ウエイトの競技性にひかれた。「(ウエイトは)自分の力でいける」。もちろん親戚の一言の影響もあったと言うが「誰を見てではなく、自分でピンときた」と、当時を振り返る。

 しかし、現実はそう甘いものではなかった。「予想外だった。ただ持ち上げるだけだと思っていた。力だけじゃ挙げられない」。ウエイトは自分の持っていたイメージと大きくかけ離れたものだった。

 一方で競技に対して真摯(しんし)に向き合う姿勢だけは、これまでと変わらないものがあった。「追い込んでやっていた。中学の時も夜10時まで追い込んでサッカーをやっていたし」と語るように、競技は違えども練習への取り組みで妥協することはなかった。しっかりとしたフォームの体得や体作りの成果もあり、高校2年次には20kgも記録を更新。また「家の人から『食え食え』と言われていた。1日4~5食。(体重は)高校で30kg増えた」

 持ち前の向上心は明大進学後も変わることはなかった。同期の中で「一番弱かった」ものの「強い選手とやれば強くなる」と、貪欲に練習に打ち込んだ。自分の分の練習が終わっても先輩の下へ駆け寄り、教えを請う日々。「このままじゃ4年間でインカレに出られない」。そんな思いを抱いていた彼だったが、いつしか「同期の中では自分が一番伸びた」と胸を張るようになった。事実、1年次に25kgも記録を更新、さらに2年次からはインカレ出場も果たしている。

 そして今、大学4年間の集大成となるインカレを目前に控える。「どこが折れようが自分が点数を取るしかない」。悲壮感にも似た決意の裏には、自分を支えたくれた人たちの存在がある。「明治に来て良かった。他の大学なら伸びていなかった」。ここまで成長できたのは自分の努力だけではない。そう思うからこそ、結果を出して報いたいところだ。
昨季のインカレは7位。今回は表彰台のてっぺん、優勝を目指す。

◆高原康幸 たかはらやすゆき 政経2 天草高天草西校 162cm・78kg

◆谷中洋登 たになかひろと 政経3 須磨友が丘高163cm・59kg

◆千原信二 ちはらしんじ 政経4 八代農高出163cm・85kg

 次回の“Lifter’s High 2011”も引き続きインカレメンバー特集です。敦見選手(営2)、三原選手(政経2)が登場します。アップは12月20日(火)の予定です。お楽しみに!

◆第57回 全日本大学対抗選手権◆
日程:12月24~25日
会場:磯子スポーツセンター(神奈川県横浜市)
◆会場へのアクセス◆
JR「新杉田」駅から徒歩4分