(6)約束を果たす時は今 武市主将・加藤(晴)

 「2人で金メダルを下げる」。3年前の全日本新人学生選手権以来、2人の約束は果たされずにいる。1年次から数々の大会で結果を残し、インカレのメンバーにも選ばれてきた武市主将(農4)と加藤(晴・政経4)。そんな彼らもラストイヤーを迎え、武市は主将として、加藤(晴)はエースとして、チームを支えてきた。

 1年次、出場したインカレが武市主将にとって初めての団体戦だった。選ばれたというプレッシャーと明治のトップバッターとしての責任感。「自分なんかでいいのか」という不安。当時の武市主将にとっては「背負うものが大きかった」。そして試技中に襲った太ももの肉離れ。競技を続けることはできず、記録なしという悔やまれる結果に。「プレッシャーに負けて自分でつぶれた」と初めてのインカレはほろ苦い思い出となった。一方、加藤(晴)はジャークで自己新記録をマーク。1年生ながら「いい経験をさせてもらった」とチームに貢献する堂々とした姿を見せた。

 2年次には東日本インカレでチームが7年ぶりの優勝を果たした。しかし、その一方で加藤(晴)は「初めて」の記録なしという結果。加藤(晴)にとって、これが大きなトラウマとなっていく。インカレを前にチームが勢いに乗る中、あの記録なしという結果が彼の体にも心にも大きくのしかかっていた。しかし「さすがにインカレでこれはできない」。

 もう、この時から彼のエースとしての道は開かれていたのだろう。恐怖心を隠し切れないまま迎えた2年目のインカレ。彼は学生日本一のタイトルを手に入れた。「記録なしにはなりたくない」。彼はその恐怖心を大きな力に変えた。加藤(晴)のそんな姿を見て、武市主将は涙を流した。共に戦ってきた同期としてのうれし涙。常に意識してきた選手としての悔し涙。涙を流さずにはいられなかった。武市主将も2年目のインカレは「昨年の分まで頑張る」と心に決めて挑んだという。表彰台には届かなかったものの「自分の中では良かった」と納得のいく結果となった。

 3年生の昨年、武市主将はスランプに陥っていた。思うような重量を挙げられず、一向に調子は戻らなかった。そんな不調が続く中、世界ジュニアの大会に出場。大会当日も彼はまだスランプの中にいた。世界の敵を前に、本領を発揮することはできなかったが、日本に戻り、出場した国民大会では見事スナッチで優勝。「だいぶ調子が戻ってきた」と長かったスランプの出口がようやく見えた。しかし、インカレに出場する4年生が1人と戦力不足が「目に見えて分かった」昨季。武市主将が背負うものはまたしても大きかった。「自分がやらな」。彼はチームのために点数を稼ぐことだけを考えた。「3年生なのにプレッシャーがやばかった」。大会前、加藤(晴)に「やめたい」と話したこともあったという。しかし、もう押しつぶされることはなかった。チーム全体の5分の2の点数を稼いでみせた。一方、加藤(晴)は手首に負ったケガが治らず、2連覇を懸け万全な状態で挑むはずだったインカレも「スナッチは頑張れても、ジャークは頑張れなかった」と棄権せざるを得ない状況に。武市主将も加藤(晴)もそれぞれ苦しみ、悩んだ1年となった。

 常にチームの期待を背負い、戦ってきた武市主将と加藤(晴)。ラストイヤーの今季、2人とも調子は良い様子。加藤(晴)はケガから復帰し、東日本インカレでは大会新記録をたたき出した。インカレを控える今は「4年生というプレッシャー」を感じるというが、今の加藤(晴)はそれを力に変えられるはずだ。武市主将も今まで苦手だったというジャークが絶好調。しかし、同階級にはオリンピック強化指定選手の糸数(日大)という最後にして最大の敵が待ち受けている。「優勝できるところまで持ってきたのに、4年目にして敵が強過ぎる」と不安な表情を見せる一方で「今まで4位止まりだから表彰台に乗りたい。大学新記録を狙っていく」と諦めなど決して見せない。また、出場選手全員の記録を表にして、練習場や寮内のあらゆる場所に貼り出した武市主将。選手たちはいつでも「あと何kg挙げられるようにしたら入賞できる」と分かるようになっている。「主将やから、とことんサポートしていきたい」。全員で上位を狙う姿勢を、全員が上を目指す環境を彼は主将としてつくり上げている。

 明治に来て4年目。振り返れば「大変なようで楽しかった」(武市主将)と2人の顔には笑みが浮かんでいた。2週間後には最後のインカレがやってくる。泣いても笑っても2人にとっては学生最後の大会。「2人そろって金メダルを下げる」。その約束をもう一度。最後の大舞台が彼らを待っている。

◆武市 航 たけいち わたる 農4 大産大附高出 169cm・65kg

◆加藤 晴希 かとう はるき 政経4 柴田高出  171cm・70kg

次回の“Lifter’s High 2011”は1引き続きインカレメンバー特集です。千原選手(政経4)、谷中選手(政経3)、高原選手(政経2)が登場します。アップは12月16日(火)の予定です。お楽しみに!

◆第57回 全日本大学対抗選手権◆
日程:12月24~25日
会場:磯子スポーツセンター(神奈川県横浜市)
◆会場へのアクセス◆
JR「新杉田」駅から徒歩4分