番外編 世界の平井!世界水泳、ユニバを語る

2011.10.01
 平井康翔。自由形を専門とする明大水泳部の3年生スイマーだ。彼は今年5月に大阪で行われたジャパンオープンで見事日本代表の座を勝ち取り、中国・上海で16日間にかけて行われた世界水泳選手権、通称世界水泳、そして中国・深圳で開催されたユニバーシアードへの出場が決定した。しかし、彼は競泳ではなくOWS、オープンウォータースイミングと呼ばれる競技の選手として、日本代表に選ばれた。出場した世界水泳では5km12位、10km36位と世界の舞台で大奮闘。続くユニバーシアードの10kmレースでは3位で表彰台に上り、日本選手団第1号のメダルを獲得した。また、これはOWSで日本人初の国際大会メダルでもあり、平井にとって大きなメダルとなった。

 OWSとは海や川、湖など自然の中で長距離を泳ぐ競技のことである。そんなレースに平井は大学1年次から競泳と並行して力を入れてきた。2年前、コーチの勧めがきっかけで国内のOWSの大会に出場。初出場ながら表彰台の頂点に上った。それから、平井は競泳を続ける一方でOWSの練習にも励み、国際大会にも出場、多くの結果を残してきた。最近では頻繁に海外へ飛び、現地での練習にも参加している。
 今、日本でOWSに本格的に取り組んでいるのは平井ただ1人。小さな子供からお年寄りまで、あらゆる世代から人気を集める海外に比べ、日本ではOWSという競技を知らない人も、その名前を初めて耳にする人も少なくない。いわゆるマイナースポーツのOWS。それを自らの手で日本に広めたい、OWSで自分を知ってもらいたい、それが平井の願いでもあり目標でもある。
 彼の最終目標はロンドン五輪、OWSでの日本人初出場だ。その夢を叶えるための一つのステップとして臨んだ世界水泳。「10番以内入ってロンドン行きます」と言い放ち彼は日本を出発した。惜しくもその目標は現実にならなかったものの、日の丸を背負い世界の舞台へ挑むことは平井にとって大きな意味があったはずだ。約1カ月、いつもとは一味も二味も違う世界のレースで彼はどんな姿を見せたのだろう。そして得たものは何だったのか。レースを終え、帰国した平井にインタビューした。

・まず、世界水泳の結果についてどう受け止めていますか
――世界水泳は初めて出たので、1回目から上位狙えるほど甘くないなっていうのは感じました。最初の10kmがぜんぜん駄目で、でも次の5kmは順位上げられて、そういう気持ちの切り替えができたことは大きな収穫です。掲げていた目標には届かなかったけど、そのときできるパフォーマンスをしたから後悔とか悔いはない。純粋に楽しいと思えました。ここにいることが。でもこれは初めての今回だけで終わり。次出るときは結果を求めて達成していかなきゃいけないなって思います。

・ユニバーシアードはどうでしたか
――ユニバーシアードの方は、メダルを獲るってずっと言ってきたので有言実行できてうれしいです。それに日本人で国際大会のメダルを獲ったのは自分が初めてだったし、特に日本選手団第1号のメダルっていうのはすごいうれしかったです。

・ユニバーシアードは銅メダル獲得という結果でしたが、もっといい色のメダルが狙えたというのはありましたか
――ユニバーシアードはメダルが取れれば良かったです。とりあえずそれを達成できたから、金メダルが欲しいとかはなかった。むしろここからスタートだから次はいい色のメダルを取ろうって気持ちになれました。。

・緊張とかはありましたか
――世界水泳は緊張がありました。OWSのトップスイマーっていうのはその競技を生業にしていて、家族を食べさせていたりするからそのレースに懸ける思いがすごく強い。自分も相当意気込んで臨んだけど、それ以上に強い。そういう選手たちの緊張感とかまわりの空気や雰囲気がすごく伝わってきて「これはそういう大会なんだ」って思いました。そういう刺激が強かったからまた出たいとか、この舞台で勝負したいていう新しい気持ちが芽生えた大会でした。ユニバーシアードは世界最高峰の世界水泳に出たからもう怖いものはなかったです。気持ちに余裕ができてすごくリラックスして臨めたから良かったです。変に結果を出そうとは思わなかった…というか過度に自分を追い込むのはやめました。

・いろんな国の選手たちの中でレースをしてみてどうでしたか
――こういう人たちと戦うにはもっと貪欲にいかないといけないと思いました。一緒にレースしていて真剣さがすごく伝わってきたし、絶対に諦めない。このレースで俺の選手生命終わってもいいくらいの気持ちでみんな臨んでいます。だから日本の大会は気持が高ぶらないし、モチベーションも上がらない。これが最近の悩みです(笑)。

・一番つらかったことは何ですか
――食事が一番きつかったですね。筋肉増強剤を打った豚肉を外国の柔道選手が食べてドーピングにひっかかったので、ホテル以外のご飯は食べちゃ駄目って言われました。ホテルは世界の料理がバイキング形式で出たんですけど、どれも自分の口に合わなくて、持って行ったお茶漬けとか味噌汁とかインスタントのご飯とかずっと食べてました(笑)。あとはお風呂に入れなかったことです。シャワーしかなかったので湯船につかりたかったです。

・世界水泳が終わって日本に帰国して何をしていましたか
――とりあえず「はあ~終わったな~」って(笑)。3週間後がユニバーシアードだったので、今ある力をキープするように練習してました。あんまりのびのびしてられなかったです。精神的にも疲れていて、蓄積した疲労とかもあったので、1日2回の練習を1回にしたりしてやってました。

・疲れなどはどうやって解消しましたか
――食事のストレスが一番大きかったので、食べたいものを食べました!ラーメンとか超食べました(笑)。

・ユニバーシアードが終わってからはどうでしたか
――試合の次の日に熱中症になっちゃって…。800mリレーに出る予定だったんですけど…。まあ、自然を使った競技なので、それも競技の一つなのかなって思っています。水温が31℃で気温も33℃の中でずっと泳いで、ラストも上げちゃったので体にかかったダメージも大きかったですね。

・二つの大会通して思い出に残ってることは何ですか
――ユニホーム交換です。いろんな国の選手とユニホームを交換しました。日本のブランドの評価が高いことに感動しました。日本のは質が良いから、ヨーロッパの選手とかなり交換しました。帰ってきたら自分のがほとんどなくなってました(笑)。

・2大会を通して自分の成長したところはありますか
――日本の選手として、以前よりまわりから認知されるようになりました。そこで出会う人とか、試合で感じる環境とか、レースとかすべてが日常では味わえない、刺激が強いものだから「もっと」ていう欲求が高まりました。本当は大学でスポーツはやめようと思ってたんですけど、OWSはこれからも続けたいって、もっとこの世界で体が動くうちはやりたいって思います。この心境の変化は日本で一番になっても得られないと思うし、自ら外に出て感じたものだと思います。

・どうして大学で終わりにしようと思っていたのですか
――やっぱり水泳は学生スポーツだし、学生の内にやり切ろうと思っていたので。でも今は海外の選手と交流したいとか、海外で練習したいとか、海外の試合出て活躍したいとか、すごく思います。

・卒業後は競泳よりもOWSの方に力を入れていく予定ですか
――そうですね。まだどうなるかはわからないけど、希望としてはOWSを続けていきたいです。

・2大会を通して見えた課題はありますか
――語学力です!コミュニケーション力不足(笑)。外人と英語で冗談とか言い合えるようになれば本物だと思ってます! あとはやっぱり大会の大きさ関係なく世界の大会に出て、肌の色とか体の大きさとかが全然違う選手に囲まれてレースに出た方がいいなって思います。そうしたら大きな大会に出ても、もっとリラックスして臨めると思います。

・9月のインカレはあまり調子が良くなかったと思うのですが…
――5月にOWSの選考会があったり、それからも毎月大きな試合があって気が張っていた。それでユニバーシアードでメダル取っちゃったから気が抜けちゃった。満足しちゃってほっとしちゃって、レース前もモチベーションが上がらなかったことが一つです。あとは10kmレースをインカレまでに6本やってきたから、その疲れも抜けてなかったです。だから泳ぐ前は自信あったけど泳いでみたら全然体がついてこなくてびっくりしました。

・後悔はありますか
――これも経験。来年はこの失敗の反省と対策をとって、いい感じで終わりたい。だから最悪とかは思わない。今自分は誰もやったことのないことをしているんだから。

・インカレ後のオフはどのように過ごしましたか
――気持ちの整理が難しくて、ずっとオンのまま突っ走っているので…。そういう気持ちの切り替えとかももっと上手になりたいなって思います。とりあえずオフは友達と遊んで、食べて、寝て、出掛けて…何も考えず自分のしたいことをして、欲求に正直に生きてました。

・一応シーズンは終わったと思うのですが、今後はどんな風に過ごしていきますか
――これからはOWSの方に力を入れていきます。来年の6月10日にポルトガルで五輪の選考会があるので、そこに絞って練習しまくります! これがロンドン五輪に出られるかでられないかのラストチャンスなので! とにかくオリンピックに出たいです! オリンピアになりたい! そこに向かってひたすら努力していくしかないです。

・ロンドン五輪に出場できる可能性は……
――ポルトガルの大会では上位9番までの選手に代表権が渡されます。もう既に世界水泳で五輪出場が内定した選手はこのレースには出ないし、同じ国の選手が9番までに入ったとしてもその国の中での上位の人にしか五輪の出場権はありません。日本からは自分だけなので、可能性はすごくあります!!!

 

・平井選手が世界で戦う理由は何ですか
――自分が「こうなりたい」とか「ああしたい」とかの欲求を満たすために海外へ飛び出す。究極の目標はオリンピックに出ることだからそれに向かってやらなきゃいけない。そうやって世界に出れば見ることとか、知ることとか増えるし、それが自分にとって刺激になる。日本の試合じゃあもの足りないから、外人との試合を楽しむことが一番!

・前期を振り返ってみてどんな半年でしたか
――今まで競技を続けてきて一番いいシーズンだった。本当に楽しかった。知れば知るほどやめられなくなるって感じです。これからはオリンピック1本です!

・では最後に、明スポの読者に向けてメッセージをお願いします
――ツイッター、フォローしてください(笑)!

◆平井康翔 ひらいやすなり 政経3 市船橋高出 175cm・73kg 
ブログ http://ameblo.jp/8su-blog/
ツイッター @Yasunari_Hirai