(12)経験
(12)経験
わたしが1歳のとき、父は亡くなった。わたしにとって父は写真の中の人であって、直接の記憶はない。同年代の友人を見て「他の人とは違う。安易に同情されたくはない」。そう思ってきた。「どんなに仲のいい人でも頭のいい人でも、同じ経験をした人にしか分からないことがある」と母は言う
◆3月の震災で、家族を一瞬のうちに失ってしまった人もいる。それは想像を絶するほど残酷で、その心中はわたしなどの経験からでは考えられない無念さだろう。被災した人の気持ちを考えること、気持ちを向けることは必要だ。ただ、それで人の気持ちを分かった気になってしまってはいけない。経験した人にしか分からないことがあるはずだ。またそれを伝えることができるのも、経験した人にしかできないのだ
◆誤解を恐れずに言えば、経験して得るものは何物にも代え難いものである。わたしは大学に入って考える時間が増えた。授業を組むのも自分で、空き時間の使い方も自分なりに決められる。大学では本人の意思に委ねられる比重が大きく、自由だ。自由である分、選択肢も増える。自分の意思で多くの経験を積むことができる
◆学生時代を振り返ったときに「あの頃は良かった」と思えるのもいい。だが「あのときこんな経験があったから」と思えるときもあってほしい。
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