
最高の舞台が今後の成長の糧に/全日本選手権
「緊張した」という初出場の松村は「フリーに進むために特にショートプログラムに力を入れて練習してきた」というが、3つのジャンプをすべて失敗してしまう。「最初の3回転-3回転は絶対決めなきゃいけなかった」と悔しい表情を見せた。見せ場と語ってくれたステップにもキレが見られず、得点も落ちこむ結果に。ショートプログラム31位で、フリーに進むことはできなかった。しかし「すごい緊張感だった。雰囲気が全然違う」とこの大舞台で滑れたことは、今後に向け、いい経験となっただろう。
「この日のために1年間練習してきた」といつも以上に強い気持ちで今大会に挑んだ佐々木。囚人をコンセプトにしたショートプログラムでは3回転-3回転のコンビネーションジャンプを成功させるなど好調な滑り出しを見せた。「楽しんで滑れた。やれることはできた」と8位につける。迎えたフリースケーティングは、ミッキーマウスの衣装で登場。演技冒頭のトリプルアクセルを決めると会場からは大きな拍手が起こる。しかし「アクセルができたことで舞い上がってしまった」とその後はジャンプミスが続いてしまう。それでも見せ場のステップでは「盛り上げられた」と観客席からの手拍子に合わせて、見事にミッキーマウスを熱演。最終順位は16位と落ち込んだが、「去年よりは良かった。次につながると思う」と大会を振り返った。
東日本選手権で優勝を果たし、好調な波に乗って今大会を迎えたように思えた高山。自身がデザインしたというドレスアップを意識した白い上品な衣装に身を包み氷上へ。曲が始まると手袋のすそを直す動作や、リボンを結ぶ動作など衣装を生かした演技を見せ、「これからダンスパーティあるような雰囲気」を表現していく。優雅なスケーティングを披露し順調に滑り出したように見えたが、最初のコンビネーションの一つ目のジャンプがシングルに。続くジャンプも何とか持ちこたえるようなかたちになってしまい、ジャンプの不調が目立ってしまう。「ジャンプミスが許されないショートでミスが続いてしまった」ことが響き、残念ながらフリーへ進出することができなかった。「次はミスがないように練習したい」と今後に向けて雪辱を誓った。
ショートではSWAN LAKEの曲に合わせて持ち前の表現力を発揮。スローな曲調では切なげに、激しい曲調では力強さを持って演技の雰囲気を大きく変えて観客を魅了していく。ジャンプは2つ目のトリプルサルコウがダウングレードされるも、コンビネーションとダブルアクセルは成功。23位に入り、見事ショート通過を果たす。
続くフリーでは1つ目のコンビネーションで回転が抜けてしまい、不安が募る滑り出しに。しかし、「いつもは失敗したらどうしようとか、転んだらダメだとか思うけど、今回は悪いイメージを持つことなく跳ぼうと思えた」とミスを引きずることなく次々とジャンプに挑戦していく。その後も転倒や回転不足はあったものの最後のダブルルッツでしっかり着地を決め、2つ順位を上げて総合21位に。
大会後、「パーフェクトな演技はできなかったけど、ここにくるまでに頑張れたって思える練習をしてこれた。その積み重ねがあったから今充実感がある。最後の全日本楽しかったです」と語った。悔し涙から1年。これまでの競技人生を一つ一つ噛み締める望月のほおには、最後の全日本の舞台で演技できた喜びと達成感であふれた涙が伝っていた。
フリーでは、「ショートでミスしてしまった悔しい気持ちを取り返すように」と意気込み、いざ演技へ。最初のトリプルトリプルを決め、会場から大きな拍手が沸き上がる。その勢いに乗り、その後も高いジャンプを次々と披露。ショートでミスしたトリプルフリップもきれいに決め、場内の盛り上がりは最高潮に。言葉にできないほど美しいスケーティングでさらに観客の目線を釘付けにさせ、圧倒的な存在感を放っていく。最後のコンビネーションまでしっかり成功させ、自身も大満足の「ほぼノーミスの演技」を実現させた。
フリーでは初の100点台をたたき出し、(フリースケーティング内で)オリンピック出場経験を持つ村主章枝(陽進堂)や全日本最終滑走グループの西野友毬(武蔵野学院)を上回り6位という快挙を達成。総合順位も9位と1ケタに入り、「今までで1番楽しい全日本になった」と笑顔で今大会を終えた。ケガからスタートという波乱万丈なシーズン明けを迎えた石川だが、「どんな状況でも毎日練習を続けてできることをやってきた」という努力の積み重ねがこの輝かしい結果を生んだことは言うまでもない。石川にとって、今大会は将来への可能性を広げる大きなステップとなった。
最高の結果を残した選手、悔し涙をのんだ選手。それぞれの思いを胸に刻んで全日本選手権は幕を閉じた。国内最高峰と言える今大会で演技をすることができたという経験が彼らにとって大きな財産となることは言うまでもない。つかんだ成長も見えた課題も、すべてを将来大きく成長するための武器となるはずだ。
★選手からのコメント★
松村
「全日本は初めてなので緊張した。いつもの大会と雰囲気が全然違う。アップのときから固まってた。緊張の理由は練習が自信につながっていないから。課題はジャンプ。もっと種類を増やさないといけない。(全日本を振り返って)練習不足だった。力のなさを痛感した」。
佐々木
「この大会に合わせて頑張ってきた。(フリーでの)アクセルができたことで舞い上がってしまい、気持ちを抑えようとしたができなかった。練習不足がよくわかった。あとは体力のなさを実感した。ジャンプで転んでしまうと最後まで体力がもたない。(大会を振り返って)トリプルアクセルを成功させたのは評価できる。やることをしっかりやらないと上にいけない。この悔しさをインカレ、国体でリベンジしたい」。
高山
「ジャンプミスの許されないショートでミスが続いてしまった。次はミスしないように練習したい」。
望月
「(フリーの)最初から回転が抜けて足りなくてどうしようと思った。でもその後引きずらずに跳べたジャンプもあったから良かった。ショート通過がすごいうれしくて、フリーはスコアとか考えずに最後だから頑張ろうと思って臨んだ。いつもは失敗したらどうしようとか転んだらダメだとか考えるけど、今回は悪いイメージがなく跳ぼうと思えた。東日本選手権が終わってからモチベーションががたがたで本当に逃げたくなるときもあったけど、人は人で自分は自分と割り切ってここまできて全日本を終えたことは人生の財産になると思う。ここにくるまでに頑張れたって思える練習をしてこれた。その積み重ねがあったから充実感があります。最後の全日本を気持ちよく終えることができて満足です」。
石川
「(フリーは)自分を全部出せた。ショートでのミスを気にするよりもその分フリーで頑張ろうと思えた。ほぼノーミスの演技は久しぶり。ケガしたときはここまでこれると思わかなかったけど、日々の練習を続けてきた成果が出せたんだと思う。今日の演技には100点あげたい。ミスはあったけど今までで一番楽しい全日本だった。次のインカレではショートでした過ちを繰り返さず、ジャンプの構成も変えて挑みたい」。
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