(11)先入観

(11)先入観
 「急に目が見えるようになった人が絵を描くように描きたい」。これは印象派を代表するフランスの画家、クロード・モネが残した言葉である。大づかみに風景をとらえ、一見抽象的にも見える彼の絵。だが、一切の先入観を捨て、その眼に映った一瞬の映像をそのまま描くことこそが、彼の追い求めた作風だった。

◆先入観と聞いて高校時代の恩師を思い出した。彼は赴任後の最初のあいさつでわたしたち生徒の態度の悪さを厳しくしかった。「近づきづらい」。だが、わたしが抱いた印象はすぐに消えた。海外生活が長かった彼が授業で話すエピソードは魅力的で、また彼はそれをいきいきと話した。今となっては彼の授業が高校の3年間のなかで何よりも楽しい授業だったように思う。

◆未知のものに出会うとき、わたしたちが持つ知識や経験が役に立つこともある。だが、それが先入観という形で働けば、そのものに対してネガティブな印象を抱いてしまうだろう。そしてきっと、その先に広がるさまざまな可能性もつぶしてしまう。

◆人は誰もが少なからず先入観を持っている。そのせいでわたしたちは物事の本質や楽しさをつかめていないのではないだろうか。先入観を捨てることは難しいだろう。だが、ときに視界を遮る先入観を捨て、見える世界はモネが描いた絵のように美しいかもしれない。