山本、2年連続入賞!最高のかたちで集大成を飾る/全日本選手権

1999.01.01
 「ありがとうーっ」――。演技後、山本に向けて響き渡る感謝の言葉。いつまでも鳴り止まない拍手。 4年間の集大成を終えた山本は、会場中からの温かい声と共に最後の舞台から降りた。

 4年間の大学生活、また、約12年間もの競技生活を締めくくる全日本選手権。それは、今まで自分がやり通してきた新体操のすべてを披露する場であり、山本にとって思い入れの強い大会だった。「今まではミスを恐れて無難な演技にまとめがちになってしまっていました。全日本インカレの時はラストイヤーであることを意識しすぎて空回りしてしまったりもして……。こうしたいって思う欲が出てくれば出てくるほど難しくなってしまうけど、それも全部含めて自分。最後は思い切って挑戦的な演技をしたい」。ずばり、今回の山本の目標は「チャレンジ」するということだ。そして、狙うは2年連続の入賞(8位以内)。今年は昨年の全日本選手権と同時期に行われていたアジア大会の日本代表の選手たちも出場するため、昨年以上の激戦になることは明らかだった。それでも山本が目指す位置は変わることはない。「日本一を決める大きな大会。この場で自分の持っている力を試したい。自分のベストを尽くし、新体操を続けてきたことに心から良かったと思える演技をします」。そう力強い表情で語り、いざ全日本の舞台に立った。

 1日目はフープとロープの種目が行われた。フープでは竹笛を使ったポワポワとした不思議な曲調の音楽で、異空間をさまよっているような独特の雰囲気ある演技を披露。また、ロープではギターで演奏された「桜風」という曲を使用し、スピード感あふれる情熱的な演技を見せた。大規模な大会ゆえの緊張感からか多くの選手がミスを連発する中、終始落ち着いた表情の山本。「緊張感はあったにはあったけど、技を制御してしまうような嫌な緊張感ではなく、やってやるぞといういい緊張感でした」。大きなミスすることなく、積極的に曲と手具とひとつになるような演技で、フープは自己ベストとなる23.850、ロープは24.075と共に高得点を記録。「ちょっとしたミスがあってもそれを続けることなく1本としての演技ができました。挑戦していくという目標にはいいアプローチができていると思います。明日もこだわる部分はこだわるけど、気負うことなく、責める気持ちで自分の演じたいと思うことを表現したいです」と本人も納得の滑り出しで明日につなげることに。2種目総合5位という好位置で前半を折り返した。

 2日目の種目はリボンとボール。リボンでは「リベルタンゴ」という曲で男女の複雑な関係を秘めた雰囲気を表現した。男性を振り払ったり引き寄せたりするようにリボンを強く情熱的に操る。大きなミスはなく思えたが、22.975と得点は伸び悩む。続くボールでは、満月の夜に大切な人を想う一人の女性をイメージ。特別にバイオリンとピアノの生演奏で完成させた夜想曲でドラマチックな演技を展開した。途中ボールを挟む技に失敗して場外へ飛ばしてしまうというミスをしてしまうものの、引きずることなくほかの技を確実にこなしていく。得点は21.525と高くはなかったが、それは「チャレンジしようとした結果、出てしまったミスだった」とあくまで今回掲げた「挑戦」という目標に真っ向から向き合っての結果だった。

 4種目合わせての最終総合順位は8位。目指していた2年連続の入賞が達成された。「入賞できて本当に良かった。(日本代表選手も出ている中での入賞は)すごく自分にとって大きいものだと思います。4年間の成長を実感できたし、それを評価してもらえたことがうれしいです」。ずっと誓ってきた入賞をつかみとり、満面の笑みを浮かべる山本。この快挙はやはり挑戦するという姿勢で今大会に臨むことができたからこそ成し得たものだ。「今まではミスをするとああやり直したいって思っていたんです。でも、今回試合を通してミスはあったけど、引けた気持ちではなく、前にでる気持ちで挑戦的ゆえに出たミスだったので後悔はないです」。自分のすべてを出し切るために、そして自分の可能性を広げるために覚悟して挑んだ挑戦は、最高のかたちで山本の集大成を飾ることとなった。

 3日目は個人総合で各種目の上位8名のみが参加することが許される種目別選手権が行われた。山本は4位で通過したロープ、7位で通過したフープの2種目に出場。体力的にも精神的にもきつくなる最終日は「気持ちで勝った人が勝つ」という正念場だ。「もう、やるしかない」。山本の心の中はただその思いでいっぱいだった。ロープでは序盤に手具を落とすというミスや回転のぐらつきがあり、前半は焦りが目立つ動きだった。しかし、だんだんと自分のペースをつかみ落ち着きを取り戻していく。回転してからロープをつかんでのフィニッシュも見事決め、6位に入賞した。
 続くフープは山本にとって全日本最後の演技、つまり競技生活最後の演技となった。曲がスタートすると同時に山本がつくる独特の世界が会場中に広がる。器具と曲とが山本と一体になり、ひとつひとつの技が流れるように繰り広げられていく。張り裂けんばかりに送られる声援、いつの間にか聞こえる手拍子……。気が付けば会場全体が山本の演技を一身に見つめ、ひとつとなっていた。曲が終わると同時に沸き上がる拍手。それに応えるかのように、山本が観客席に向かって礼を見せた。新体操を続けてこられたことに対する周囲への感謝やよろこび。言葉はなくても山本の意が痛いほどに伝わる瞬間だった。

 「この3日間、結果にこだわらないで自分が伝えたいと思うものを表現することができました。大学生活4年間、競技生活12年間の思いをぶつけることができたと思います」。全日本選手権で2年連続の入賞を果たすという快挙。しかし、それ以上に自分が積み重ねてきた新体操を演じ切ったということが山本にとって何よりも意味のあることだった。自分を表現し続け、つかむことのできた栄光。最高のフィナーレを迎え、山本の最後の舞台は幕を閉じた。

 今回の全日本選手権で山本は競技引退(公式戦での)を迎える。今までの新体操生活を振り返り、「本当に山あり谷ありの日々でした。それでも、新体操クラブと明治大学体操部という2つの居場所に支えられながら新体操を続けてこられたことを本当に幸せに思います」と語った。ひたすら新体操に励んできた日々。つらいことも苦しいことも決して少なくない4年間だったが、それでも「これだけ夢中になれるものはない」と片時も離れることなく新体操と向き合ってきた。「(新体操は)いつも傍らにいるパートナーみたいなものですね。自分を表現する場所であり、自分の居場所でもある」。
 今大会後はひとまず休養をとり、将来について考えていく予定だという山本。しかし今後どんな道を選ぼうと、山本にとって新体操が人生におけるかけがえのない存在であることは変わりないだろう。