上川大樹、世界選手権最終日を飾る金!/世界選手権

1999.01.01
 52年振りの東京開催に沸いた今回の世界選手権も大会最終日を迎えた。最終日は、事実上柔道界最強を決める男子無差別級が行われた。本学から出場の20歳の若武者・上川は、世界という高い壁に果敢に挑戦し、見事優勝を掴み取った。前日に海老沼(商3)が3回戦敗退という結果に終わったため、海老沼の分の健闘も期待されていたが、十分にその期待に応えることができたのではないだろうか。

 上川は、昨年のユニバーシアードで銀、また今年4月に開催された全日本選抜柔道体重別選手権大会でも銀を獲得するなどの成績は挙げている。しかし、大きな国際大会への出場はこれが初めてで、若手起用の一環での出場という意味合いが強かった。

 2回戦からの登場となった上川は初戦、アイスランドのジョンソンと対戦。開始15秒で試合を決め、好調なスタートを切る。続く3回戦はドイツのテルザーと対戦した。試合中盤まで互いに相手の動きをけん制したのか大きな動きはなく、終盤になってようやく互いに技が出始めるようになったものの、そのままゴールデンスコア戦にもつれこもうとしていた。しかし、試合時間残り6秒のところで、上川の豪快な投げがきれいに決まり、自身の勢いにさらに弾みをつける形となった。その直後の4回戦では、篠原代表監督が熱い視線を送る中、開始1分で韓国のファン・ヒーテに得意の内股を決めた。準々決勝では、世界ランク5位・ウズベキスタンのタングリエフと当たる。上川は、実力でも体格でも勝る相手に終始一歩も引かない攻めの柔道を見せる。終盤タングリエフに有効をとられるもののそのまま粘り、なんとか優勢勝ちという形で準決勝への切符を掴み取った。

 そして迎えた準決勝、対戦相手は長年日本の最重量級をけん引してきた鈴木桂治(国士大教)。上川が、今年の4月の全日本選抜柔道体重別選手権大会決勝で惜しくも敗れた相手だけに、自然とリベンジに期待が懸かる。鈴木も初日の100kg級で初戦敗退しているだけに、この無差別級に懸ける思いは並々ならぬものがあった。「最初から前に出ることだけしか頭に無かった」(上川)という言葉通り、序盤から試合の主導権を握ろうと積極的に技を仕掛けてゆくが、さすがに相手は世界の大舞台で戦い続けてきた男、上川の技に崩されることはほとんど無かった。しかし、上川が技を仕掛け、左右へ組手で揺さぶっていくうちに鈴木本人も気付かないほどの小さなすきが所々にでき始めていた。その一瞬のスキを上川は上手くとらえて浮き落としで一本。一大学生が、あの鈴木桂治を破ったことに超満員の代々木体育館中からどよめきが上がった。試合後、上川に関して鈴木は「これから先どう粘っていくか考えるという自分と違い、これからもっと強くなれる選手」とコメントしている。

 決勝戦、相手はフランスのリネール。まだ21歳ながら世界選手権を3連覇中で、既に今大会の100kg級でも金メダルを獲得しており、現在世界ランキング1位。今大会でも前評判では2階級制覇が濃厚とされていた。このリネールよって高橋和彦(新日鉄)、立山広喜(中央競馬会)の2人が撃破されたため、より一層上川に期待が掛かる。しかし、体重120kgを超える高橋を悠々と組手で振り回すリネールに苦戦することは明白だった。試合が始まり、代々木体育館中が上川に声援を送る。やはり、組手で力負けしている感は否めなかったものの、振り回されるほどではなく、なんとか食らいついて戦う上川の姿が印象的だった。一進一退の攻防が繰り広げられる中、試合はゴールデンスコア戦にもつれこんだ。ゴールデンスコア戦に入った途端に、上川がギャンブルとも思える攻勢に出始め、連続で袖釣り込み腰を掛けていく。「もうあれは完全に賭けでした。なにかやらないと負ける気がしたので」と上川。しかしそこは世界ランカー・リネール、倒されはするものの寸前のところで反転し背中や肩を畳につけることはなく、身体能力の高さと執念をうかがわせた。結局ゴールデンスコア戦でも決着がつかず、勝敗は判定にゆだねられることになった。判定の結果は――2対1、なんとか判定で勝利をものにした。その瞬間カメラのファインダー越しの上川の口元が「よし……」と小さく動くのが見え、会場が歓声と拍手に包まれた。終わってみれば、なんと世界ランカーを倒しての世界選手権優勝だった。

 前回の世界選手権ロッテルダム大会では金メダル0個に終わったため、今回の東京大会の結果は日本柔道復活を印象づけるものだった。しかし大会終了後、篠原代表監督は「来年また金ゼロという結果になるかもしれないという危機感を持って臨みたい」と表情を崩さずコメントした。また、大会を通して若手選手の活躍が目立ったことにかんして、「世代交代ということではない。研究されていない部分が大きい」(篠原代表監督)と語った。

 今大会の結果ロンドン五輪の代表入りを大きく引き寄せ、世界に上川大樹の名を知らしめたことは事実であり、研究する立場からされる立場になったことは間違いない。今後は「自分の柔道は気持ちの柔道です」(上川)という言葉が躍進のカギとなりそうだ。世界の舞台で「気持ちの柔道」を見せて欲しい。

◆上川大樹 かみかわだいき 営3 崇徳高 185cm・120kg