紫薫(5)4年生&大会直前特集!

1999.01.01
 第5回はとうとうインカレ前日ということで、この1年間部をまとめ、けん引してきた4年生を特集します。4年間を共に過ごした戸田ボートコース、明大端艇部合宿所、そして仲間たち。さまざまな思いを抱える4年生選手のうち、5人の目から端艇部、そしてボートについて語ってもらいました。最後のインカレに臨む選手たちの意気込みに注目してください。

伊藤清剛(理工4)
舵手なしクォドルプルクルー

 今年の男子の目標は今までの「エイト優勝」ではなく、「総合優勝」。それだけでなく今年はモーターボートを使い荒川で練習、少人数で合宿を行うなど例年と違った練習も取り入れた。そんな端艇部を1年間引っ張ってきた伊藤主将に、ボートを始めたきっかけや、主将として部をまとめてきた1年間、思いなどを尋ねた。

○悩みながらも伝えてきた主将の思い○

 小学校のころから練習場が近くにあり、高校生の練習を目にする機会が多かった。小学校の時はサッカーをしていたが、中学でボート部に入ることは自然と心の中で決まっていた。しかし、大学まで続けるとは思っていなかったという。

 昨年のインカレ後に主将となった。それまでは周りがどうか、というより自分が思ったことをやってきたという伊藤主将。しかし、主将になったからには自分の意思などを周りに伝えなければいけない。「どのように考えを分かりやすく相手に伝えればよいか、初めは分からなかった」。それでも、「本当に日本一になるためにここに来ているのか。なれたらいいではなく、絶対になるという強い意志が必要だ」ということ、「勝ちたいと思うなら、それをどこまでやっているのか」。このことは何度も言ってきた。 

 4年生についても語ってくれた。嶋田(文4)とは2年から一緒に組む機会が多く、そのためボートについて話したことも多かった。佐々木(法4)とは主将と違ってボートを始めたのは高校からだが中学から一緒である。「(大学の寮生活は)初めは慣れなかったが佐々木がいたから心強かった」。また、長谷川(政経4)については「いつも部に対し積極的に考えている。自分は考えれば考えるほど周りが見えなくなるタイプ。でも彼は、客観的に周りを見ることができる。彼がいるから自分が主将としてやってこれたのかもしれない」と語った。このように真剣に仲間のことを語ることができるのは、主将として1年間部について考えてきた伊藤主将だからだろう。

 伊藤主将がクルーリーダーを務める舵手なしクォドルプルクルーについては、意識が高く、漕いでいて楽しいという。後輩に背中を押されるときもある。「メニューを組むのに悩んだとき、下からやりましょう、と言ってくれる」。一緒に漕ぐ1年の高橋(直・営1)には、怒らないときはないというくらい強く指導する。しかし、それはそれだけ期待しているという証拠。漕げるのもあと少し、そのため後輩に伝えたい思いもあるだろう。「日本一になれると思えば考え方や行動が変わる。全員が思えば必ず優勝できる」。「一人に伝えることも難しい」と語っていた伊藤主将。しかし、その思いは十分後輩にも伝わっているはずだ。

 今回のクルー決めは、前回の軽量級のときよりもいい意味で悩んだ。部員の積極的な意見も多かった。「どのクルーも勝てるクルーだと思う」。伊藤主将は自信を持って答えた。「個人の目標としては勝つことしか考えてない」。また、「今まで主将として分からないながらもやってきた。インカレで勝つことで、1年間主将としてやってきたこと、考えは間違っていなかったと証明できる気がする、証明したい」と語った。最後のインカレ。主将としての1年間の成果が、インカレで試されることとなる。

◆伊藤清剛 いとうきよたか 理工4 佐沼高出 174cm・65kg

藤原尚(法4)
舵手つきクォドルプルクルー

 選手として主務として、獅子奮迅の活躍を見せる藤原。チームを支えてきた彼女の素顔に迫る。

○選手として主務として、ボートから得たもの○

 藤原のボート挑戦へのきっかけは意外なものだった。中学時代にバドミントン部に所属し、近畿大会出場を目標としていた。しかし、夢叶わず高校へ進学。そのままバドミントンを続けるという選択肢もあった。だが、藤原は部員数0人のボート部に入部した。「バドミントン時代に果たせなかった近畿大会に出たいから」という単純な理由だった。この何気ない選択が藤原の人生を大きく変える。ボートの実力をどんどん付けていき、兵庫を代表する選手にまで成長したのだ。そして見事近畿大会という目標を乗り越え、「名前のある大学に行きたかった」と卒業後に明大でボートを続けることを決意した。

 入部すると、まず意識の差にがくぜんとした。他の部員から聞かれるのは「日本一になる」、「明大で優勝したい」という志を高くもった目標であったからだ。藤原は「自分は甘かった」と驚嘆。しかし、このことが「入ったからには、全力でやろう」と気持ちを入れ替えるきっかけとなった。この日からボート一色の生活が始まる。大会が近づくと、「ベッドの上がボートみたいに揺れて感じる」、「注意されたことを考えて寝たら、夢の中でも練習していた」と常にボートのことを考えるようにもなった。そんな努力が結果に結びつき、県の代表として国体に出場するほどにもなった。

 2008年夏、1学年上だった4年生が引退。最高学年となった藤原は主務に抜てきされた。「今までは自分のことだけを考えればよかった。しかし、今では運営のことをまず最初に考えてしまう」と、主務としての責任が重くのしかかる。そして、責任感の強さから、「自分に自信を持てなくなり、指示を出すのが怖くなった」と弱気になった。部員から「最近笑ってない」と言われるようにもなった。そんな藤原を救ったのが同期の女子部員だった。「優勝経験者の発言は自分とは違う発想で助けられた」。良き友の存在が今までは自分1人で引っ張っていくと気負いすぎていた藤原を助けた。今では、堂々と指示が出せるようになった。

 「全力でやると疲れて止まりたくなるが、仲間がいるから頑張れる。その中で勝てるとチーム全体で喜べること」とボートの魅力について答えた。「近畿大会に行きたい」という、単純な理由で始めたボートだったが、今では藤原の生活になくてはならないものとなった。「ボートを始めていろいろな人と出会い、いろいろな体験をさせてもらった。もし、ボートをやってなかったらきっと普通の関西の私大生でした。ここに来て良かった」。ボートが与えてくれたものは大きい。

 前年初のインカレ女子総合制覇を成し遂げた明大クルー。連覇のプレッシャーはないのかという質問に、藤原は「あります」と即答した。他大の合宿所が多く、練習も同じ場所で行う戸田ボートコース。周りの評判がすぐ聞こえてくるので普段の練習から気合が入るという。去年、優勝の原動力となった4年生はもういない。新たな組織として挑む最後のインカレについて「逃げる立場ではなく、今年も優勝をつかみに行く。そして、下級生に優勝を経験させてあげたい」と意気込んだ。ボートは大学で最後かもしれない藤原にとって、ボート最後の夏。「絶対勝ちます」と断言した。選手として、また主務として奮闘する小柄の藤原の背中が大きく見えた。

◆藤原尚 ふじわらなお 法4 加古川西高出 162cm

嶋田友生(文4)
舵手付きペアクルー

 下級生次からさまざまな大会に出場し、数々の栄光と挫折を部と共有してきた嶋田。そんな名実ともに部の中心である嶋田の周りには、いつも笑顔が絶えない。明るい笑顔と親しみやすい人柄で部のムードメーカーとしても、部に欠かせない存在だ。実力で、人柄で部を引っ張る嶋田のインカレに懸ける思いに迫った。

○恩師から後輩へ受け継ぐ合言葉○

 今年のインカレでも男子の主力として、上位入賞が期待される嶋田。そこで今大会、嶋田の相方を務めるのは2年生の城(商2)と小西(営2)。しかし、嶋田が舵手付きペアで城とクルーを組むのは今回が初めてではない。昨年の全日本選手権、この2人は同じ舵手付きペア種目で出場し、2位入賞を果たしている。社会人も出場する全日本選手権だけに、2位という結果は素晴らしい結果のように思えた。しかし大会後、城は悔し涙を流し、嶋田も「勝てなかった」と振り返るなど、満足のゆく結果ではなかったようだ。今インカレ、リベンジを果たすべく再び同じクルーを組んだ。「ペアはオールが2本。2人が心底信頼し合っていないと進まない」。ペアで王座を獲得するため、プライベートから信頼関係を築いてきた。昨年と同じ種目、同じクルーで、昨年よりも1つ上の頂点を目指す。

 「1本でより遠くへ」。嶋田が恩師と仰ぐ中学時代のコーチから教わった合言葉だ。この合言葉をボートに対する教訓としてきた。「今のクルーでも後輩に言っている」と、自身の指針にするだけでなく、後輩たちにもこの言葉を伝えている。基本を大事にする嶋田は、迷ったときにはこの言葉を思い出して初心に帰るという。「誰よりも早くゴールする。目指すところは昔から変わっていない」、そう語るまなざしからはボートに対する真摯(しんし)な姿勢が見て取れた。そんな嶋田の大学卒業後の目標はボートの指導者。その夢も中学時代の恩師がきっかけで持ち始めたもの。現役を引退してからはコーチになるための勉強に専念する予定だ。コーチとして母校に帰り、恩師や母校に恩返しがしたいと語った。

 「全日本にも出るかもしれないが、気持ち的にはインカレが最後」と今インカレを現役ラストレースに位置付けた嶋田。4年間の集大成を今大会にぶつけるべく、最後の準備は整った。

◆嶋田友生  文4 美方高出 175cm・75kg

長谷川智耶(政経4)
舵手つきフォア

 話し上手で社交的。今ではすっかりそんなイメージの長谷川だが、意外にもそれは「4年間で一番変わったところ」だという。長いボート人生の中でも、悩み、考え続けてきた合宿所での毎日。明大端艇部で過ごした4年間は、長谷川をどう変えたのか。

○自ら考えること、そして発信することの大切さ○

 中学1年生で地域のクラブチームに入って以来だから、およそ10年間。長谷川はこれまでの人生のほぼ半分をボートとともに過ごしてきた。辞めようかと悩まなかったはずはない。むしろ、高校進学、大学進学と、区切りがくるたびに続けるかどうかいつも迷った。

 明治の端艇部に入部してからも、しばらくはそんな迷いを抱えていた。「日本一になれるのか?」、「こんなにボートばかりしていて、自分には何が残るんだろう?」。気の緩みから、高校3年次には国体で日本一を経験した実力も落ち込み、成績は低迷。2年生ではレギュラーを外されてしまった。しかしそんな中で、悔しさからようやく気付き、決断したことがある。「自分の軸はやっぱりボートだと。それで一からスタートを切り直して、やっと形になったのが去年の軽量級だった」。

 昨年6月に出場した軽量級選手権が新たなスタートを切った長谷川の大きな転機だった。大学に入って初めて果たした決勝進出。周囲が驚くほど過酷な減量をこなしてまで出場したのは、どうしても結果を残したかったからだった。「勝ちたい」という気持ちと努力が、ようやく形となって見えてきた。「勝つために、自分がどうするのか。チームの中の位置づけを考えるようになった」。チームに貢献できていないと、申し訳なさを抱えていた1年生のころ。そんな気持ちもレースで乗り越えてみせる強さを、手に入れるまでに成長した。

 長谷川さんはコミュニケーションを取るのがうまいです、と他の部員からよく聞くし、部員以外からもきっとそう見える。しかし、「本当は気が弱い方です」と長谷川は笑う。それでも、自分から発信しなければ何も分からない、と学んだのも明大端艇部でのボート生活から。「レースの終盤、自分もクルーもみんな疲れてどうしようもない状況でも、自分が受身になってたらチームとして何もできない。人には、言わなきゃ分からない」。自主性を重んじる明大端艇部にいればなおさら、一人一人が意識しなければ何も変わらない。インカレに向けた練習でも、自らの乗る舵手つきフォア以外のクルーにも積極的に声を掛けている。総合優勝を狙うチームの一員として、チームを引っ張る4年生として。そして4年間の自分自身の精算を果たすために。「勝ちます」。最後のインカレに向けた意気込みは、一言できっぱりと言いきった。

 中学1年生の時からおよそ10年間。青春時代を懸けたと言っていいボートとの付き合いも、この夏が最後。合宿所を出た後の一人暮らしでは、「今まではボート一筋だったので、今度は彼女がほしいです」とまた笑った。端艇部での4年間は、長谷川を艇の上では頼れる先輩クルーに、艇を降りれば話し上手で社交的な人物に変えたのかもしれない。

◆長谷川智耶 はせがわともや 政経 関西高出 175cm・77kg

山口一穂(政経4)
舵手なしペアクルー

 昨年、インカレで総合優勝を果たした端艇部女子。その中でいち早く決勝進出を決め、優勝への流れを作ったのは舵手なしペアクルーだった。そして今年、同クルーとなったのは昨年もこの種目で出場した山口(政経4)。前回は尊敬する先輩に導かれつかんだ優勝。今年は「私が後輩に高いレベルの世界を見せたい」と言う山口のインカレに賭ける思いを聞いた。

○部一番の問題児は部一番のエースへ○

 大学に入学してからというもの、寮生活にも慣れず、高3でのインターハイ準優勝を引きずって、無駄にうぬぼれていたという山口。先輩の顔色をうかがったり、猫をかぶったりするのが嫌で、同期ともすぐにはなじめなかった。自分の考えややり方を曲げることができず、「今考えると暴君みたいだった」。そんな状態で2年間が過ぎ、監督に“問題児”と言わしめた当時の自身を「日本一を目指す部には必要ない人だった」と振り返る。

 「今まで一度やったことをやめることはなかった」という信念だけで続けていたと言ってもいいボート生活。それを変えたのはやはり、3年次のインカレで川野(平20年営卒)と一緒に乗った経験だろうか。川野から教えてもらったものとは?という問いに「言い表せないけど・・・」と、言葉を詰まらせながら答えた。「高いレベルから部のことやボートのことを考えることが、いかに大切かを教えてもらった。優勝することでそれを見せてもらいました」。

 優勝を経験し、エースとして、最上級生としての自覚が芽生えた山口は、持ち前の強い精神力に磨きをかけていった。「(最上級生は)何でも1番じゃなきゃいけないと思う。自分だったらウエイトとかタイムとか何でも、自分より数値の低い人には付いていきたくないかなと思うから、負けられない」。川野が「次世代のエースになれるはず」と相方に選んだ“問題児”は正真正銘のエースになった。

 今回、同じクルーで組むことになったのは1年生の高木(法1)。このクルーでの優勝は大前提として、後輩に自分の姿をしっかり見せることも意気込みとして語った。「高木にはどんな状況でもぶれないようになってほしい。1年生のときから高いレベルのところから色んなことを見れたら、4年生で絶対に違うと思うから」。高木にも、1年前に見た1位の表彰台からの景色を見せることができるか。それはたくましいエースの手腕にかかっている。

◆山口一穂 やまぐちかづほ 政経4 市立川口高出 167cm

☆大会直前!特別編☆

 さて、今週8月16日、端艇部合宿所前では、新艇を迎える進水式と、インカレの壮行会を兼ねたバーベキューが行われました。今回は大会直前特集として、そちらのレポートもお送りしたいと思います!

○進水式・壮行会レポート○
 今週16日、からりと晴れた青空の下、明大端艇部にまた新艇が1艇加わった。OBから寄贈された真新しい艇の側面には、明大端艇部伝統の「紫薫」の文字。この「紫薫21号」の安全と、間近に迫ったインカレでの端艇部の健闘を祈願し、この日は進水式とバーベキューが行われた。

 進水式は、新艇を始めて水上に浮かべ、船の安全を祈る大事な行事。正装に身を包んだ部員は、角監督、駆け付けたOBとともに神妙な面持ちで式に臨んだ。神主のお祓いの後に部員を代表して伊藤主将(理工4)、藤原(法4)が神前で玉ぐしを捧げると、後方の部員も倣って拝礼し、新艇への感謝と期待を込めた。

 その後、今回のインカレの女子舵手なしペアクルー・山口(政経4)、高木(法1)が乗り込み、初めてボートコースへ。部員の校歌合唱を受けて、「紫薫21号」は今後の活躍の舞台となる戸田の水上をゆっくりと走っていった。

 続いて行われたバーベキューでは、こちらもOBから贈られた肉と野菜が合宿所前に運び出され、楽しい食事の時間となった。ボウルいっぱいに用意されていた食材も、あっという間に完売。練習も大詰めを迎え、緊張が高まる部にとって息抜きの時間となった。
 最後に、OBへ感謝の気持ちを込めて「今後、もっと肉や野菜を頂けるように、目前のインカレで結果を残したいと思います」とあいさつした伊藤主将。1年を通して目標としてきた大舞台が、明日幕を開ける。

 全5回にわたってお送りしました、この「紫薫~for intercollegiate~」の連載も今回が最終回となります。これまでご覧いただき、ありがとうございました。
 総合優勝連覇を狙う女子部、そして新たに総合優勝に挑む男子部。4日間の戦いが、ついに明日始まります。1年分の思いをオールに込めて、一丸となって頂点を目指す明大端艇部に声援を送ってください!