(14)思い出を呼び起こす香り
今年の夏はエルニーニョの影響で例年より冷夏になるといわれているが、それでも汗がまとわりつく暑さは変わらない。過ごしにくい夏の日々ではあるが、「夏といえば」…につながる言葉は数多く存在する。「花火」「スイカ割り」「海水浴」…その中でも私は夏といえば「蚊取り線香」を連想する。あの独特の香りは、祖父母の家を思い出し、なんだかとても懐かしい気持ちになる。幼いころはよく遊びにいった祖父母の家によく蚊取り線香があったからだろう。明確な記憶はないがあの香りがすると今は遠くに住む祖父母に会いたくなる。
人間にはある香りを嗅ぐとその匂いに関係する記憶がよみがえる「プルースト効果」と呼ばれるものが備わっている。この現象はフランスの作家プルーストから来ていて、彼の代表作の「失われた時を求めて」の文中で主人公が紅茶に浸したマドレーヌの香りから幼少期を思い出すということからきているそうだ。いわば匂いが記憶を呼び起こすこの現象。私はよくこの現象に直面する。蚊取り線香の匂いで祖父母が恋しくなるように、金木犀の香りがすれば幼いころよく遊んだ友達を思い出す。香りと一緒にしまい込んだ思い出がふっと蘇る。
思えば、大学生になってもう3度目の夏。これまでの夏休みを振り返ってみると、私はいつもダラダラと過ごしてきた。外に出れば太陽に目がくらむ上に汗はかく。少しの間外にいるだけで疲れてしまう夏は、私にとって厄介な季節でしかなかった。だからなのか、振り返ってみても楽しかった思い出は少ない。就職活動を経験した友達に「今のうちにいろいろ楽しんでおかなきゃ後で後悔するよ」と言われ、どれだけ自分が味気ない夏を過ごしてきたのかを痛感した。夏休みが明ければすぐ就職活動が本格化する。この夏休みはできるだけ多く外に出ていろいろな経験をしなければと思った。
うだるような暑さはまだまだ続く。この前夏休みに入った気分でいるのに、気づけばもう半月近くがたってしまっている。あっという間に過ぎてしまう夏を形あるものにできるように。今年の夏はいろいろな場所へ出かけたい。何かの香りがしたときにでも大学時代を懐かしめるように。思い出をつないでくれる夏の香りを求めて。
第15回は田中沙織が担当します。
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