(12)これが新しいコミュニケーションの形?『まさゆき地図』すれ違いパンデミック
2009年7月11日。スクウェアエニックスからついに「ドラゴンクエスト9~星空の守り人」(以下ドラクエ9)が発売された。前作が2004年に発売されて以来、実に5年ぶりのナンバリングタイトルの新作で、発売日にはファンが行列を作ったというニュースも。また、ハードがニンテンドーDSでの発売というのもあり、すでに国内出荷は350万本を突破。改めてシリーズの人気の高さを知らしめられた。
ドラクエ9では、ランダムで決まる様々な宝の地図に記された洞窟を探検し、貴重なアイテムなどを手に入れることが一つの醍醐味となっている。そんな中、約2週間ほど前から、とある「宝の地図」がネット上で大きな反響を呼んでいる。その地図は、特定の階層にメタルキング(※1)というモンスターしか現れないというもの。シリーズ経験者なら、これがいかにすごいものかおわかりいただけるだろう。この地図は発見者の名前をとって『まさゆき地図』と呼ばれるようになった。ネット上では「まさゆき神ww」「まさゆきはLEVEL5(ドラクエ9の開発元)の社員だ」「この地図は改造データだ」といった書き込みが集中し、多くのユーザーが関心を寄せた。
このドラクエ9ではすれちがい通信(※2)によって、自分が手に入れた宝の地図を見知らぬ人に渡すことができる。そのため、mixiのコミュニティや某巨大掲示板などでは「○○駅でまさゆき地図配ってくれませんか?」「今日○○でまさゆき地図配布します」といった書き込みが殺到。このため今や関東圏にとどまらず、大阪や名古屋など日本各地に『まさゆき地図』が広まっていっているのだ(※3)。さらに今では新たに『川崎ロッカー地図(※4)』という地図も発見された。この地図も『まさゆき地図』と同じような現象が発生し、世に広まりつつある。こういった情報の伝わる速さには、もはや脱帽せざるを得ない。
これらの現象はまさにインターネット社会となった現代を象徴するものともいえる。DSステーションを設置する新宿や秋葉原のヨドバシカメラでは、新たな人たちとの交流を目指し、日々多くの人が集まり、見知らぬ人と冒険をしたり、すれちがい通信を試みたりする。相手の年齢も、職業も、そして顔さえも知らない。共通しているのは同じドラクエ9のユーザーであるということだけ。それでも皆が同じ場所に集まり、一枚の宝の地図をめぐって通信する。これこそ現代の流れに沿った新しいコミュニケーションの形の一つであり、今までの家庭用ゲーム機にはなかった携帯用ゲーム機ならではの楽しみ方だ。
今やゲームも家で一人で攻略するものではなくなってきている。ゲームの主人公ではないが、一歩家の外へ『冒険』に旅立ってみてはいかがだろうか。見知らぬ相手でもドラクエ9という共通アイテムがあれば世代を越えて交流できる。そこには新たな発見や出会いがあるかもしれない。
※1 ゲーム内に登場するモンスターの一種。出会ってもすぐに逃げられてしまうが、倒すことができれば膨大な経験値を得ることができる
※2 あらかじめ通信をオンにしておくことで、近くにいる人たちのニンテンドーDSと自動的に通信を始め、プロフィールなどのデータ交換をすることができるというもの
※3 ちなみに、地方ではユーザーが少なく「全然すれちがい通信ができない」といった声もあるが、お盆での帰省で地方にも広まるのではないかという見方もある
※4 川崎駅のロッカーで配布され始めたため、この名前がついたとされる。内部にはレアアイテムの入った宝箱が多く設置されており、こちらも多くのユーザーが追い求めている
第13回は橋本美由が担当します。
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