(15)鳥居拓史

 多くある体育会の部の中でも、“魅せる”要素が強いフィギュアスケート。真っ白なスケートリンクで繰り広げられる美しい舞。華麗でキラキラしていて…そこは浮世から切り離された別世界のよう。あこがれを持つ人も少なくないはずだ。しかしフィギュアスケートの世界でも、学生の大会となるとその様相はいささか異なる。試合会場は応援の声が飛び交い、とてもアットホームな雰囲気だ。仲間を応援しあう光景は他の体育会の試合と何の違いもない。

 その中で、「○○、がんばー!!!」と、誰もがその人だと分かる大きな声で、仲間に熱いエールを送る選手が明治にいる。鳥居(文4)だ。彼の姿を見ていると、そんなに声を張り上げていたら試合前に疲れてしまうのでは…とこちらが心配になってしまうほどである。しかし彼の存在は大きい。なぜなら、彼に続くように他の選手も声を重ね、そしてリンクはお互いを勇気づける声で満たされるからだ。フィギュアの華麗なイメージとは少し合わないが、冬のように寒いリンクに見られる暖かい光景である。

 鳥居がすごいのはもちろん応援だけじゃない。過去の戦績も輝かしい。昨年の関東学生選手権では堂々の1位を獲得し、その存在感を十分に見せつけた。ジャンプやステップでダイナミックに見せるのではなく、どの要素も着実にこなすのが彼のスタイル。決して花形ではないが、安定した演技には定評がある。明治の選手として4年目を迎え、部門主将となった鳥居。明治に欠かすことのできない選手の1人だ。

 「滑るのが大好きです」といつもにこやかに話していた鳥居。そんな彼にも競技を続けるか迷った時期がある。昨年度最後の大会となった全日本学生選手権の後、周囲にこう漏らした。「来年はリンクに立っているか分からない――」。鳥居には夢がある。それは大学入学当初から話していたことだった。「将来はあん摩マッサージ指圧師と、鍼灸(しんきゅう)師になりたい。そのための学校にも通うつもりです。フィギュアは続けたいけど、正直両立するのは厳しい」。夢か、フィギュアか。2つのことが頭をよぎる。競技生活に終止符を打ち勉強に専念すべきか、悩む日々が続いた。

 しかし、今年度初の試合となる関東大学選手権の舞台に彼は現れた。仲間の応援に余念なく、演技もきちんとこなすいつも通りの姿がそこにあった。3位入賞を果たし表彰を受けたときの彼は、とてもすがすがしい表情をしていた。

 現在鳥居は、大学に行きながらマッサージ師になるための学校に通い、フィギュアスケートの練習もするというハードなスケジュールをこなしている。今後は今まで以上に時間に追われる生活が続くだろうが、それでもフィギュアは続けたいと言う。それだけフィギュアが大好きなのだ。「周りの支援がなかったらとても続けられなかった。このようにフィギュアスケートができることを本当に感謝しています。選手としてフィギュアを続けるのは大学までだと思うけど、将来はマッサージ師としてフィギュア選手に関われたら最高です」。周りへの感謝の気持ちを一層強くし、これからもリンクに立つことを決めた。まだ鳥居の姿が見ることができる。嬉しく思うのは私だけじゃないはずだ。

 それにしても、「完全に練習不足だった」と言いながらもしっかり3位入賞してしまう実力には頭が下がる。やはり引退はまだ早いようだ。

◆鳥居拓史 とりいひろふみ 文4 足立学園高出 161cm・53kg