全日本選手権展望(女子編)

 12月19日、いよいよ全日本選手権(全日本)が開幕する。毎年12月に行われる今大会は国内最大規模の大舞台であり、今年度は、各地方のブロック、東西選手権を勝ち抜いた精鋭たち30人が集結した。また、2025-26シーズンの今大会は、来年2月に控えているミラノ五輪への代表選考も兼ねており、注目度も非常に高い。明大からは住吉りをん(商4=駒場学園)、江川マリア(政経4=香椎)、さらにはOGの樋口新葉(令5商卒・現ノエビア)がエントリー。全日本の展望と合わせて、明大の選手それぞれを紹介する。

五輪戦線は極めて熾烈(しれつ)
 来年2月に開催されるミラノ五輪の出場権は国ごとに枠が決まっており(今年3月の世界選手権の成績で確定)、日本女子シングルには3枠が与えられている。選考基準としては、10月から12月にかけて行われた国際大会のGPシリーズ(グランプリシリーズ)や、シーズンベストのスコアなど、他にもさまざまな要素を含めて検討される。そのうちの一つとして全日本の成績も加味され、今大会優勝者は無条件で五輪出場が内定する。
 
 明大から出場する選手の1人、住吉は五輪出場の有力候補だ。今シーズンは10月のGPフランス大会で自己ベストを更新する216.06点をたたき出した。これは国内の日本女子シーズンベストランキングで4位の高得点。手足を柔らかく使ったしなやかな表現力を武器とし、優しく推進力のある演技に定評がある。また、FS(フリースケーティング)では大技・4回転トーループに果敢に挑み続ける精神力も持ち合わせている。今シーズンまだ加点がついていないこのジャンプを成功させれば、さらなる得点の伸びが期待される。

(写真:FSでしなやかな表現力を見せる住吉)

 そんな住吉だが、自身のGPシリーズ第2戦目、11月のフィンランド大会ではSP(ショートプログラム)のステップシークエンス中に転倒するなどミスが目立ち、総合7位。12月のGPファイナル(グランプリファイナル)への出場はかなわなかった。思わぬミスや、ジャンプに精彩を欠いたことについて「あの試合が終わってすぐには気持ちが立て直らなかった」と一時は肩を落とした。それでも「(日本に)帰ってから原因分析を自分の中でしていく中で、不安要素になってしまう部分が積み重なっていた」と現状を改めて把握し「その不安になっている芽を摘むことができた」と全日本に向けて前向きに調整してきた。

 住吉が惜しくも出場を逃したGPファイナルには、日本女子から坂本花織(シスメックス)、中井亜美(TOKIOインカラミ)、千葉百音(木下グループ)、渡辺倫果(三和建装/法大)ら4人が出場しており、五輪戦線において一歩リードを許す形に。だが住吉は、18日の公式練習後に極めて冷静な様子を見せた。「ここでやるしかない状況に自分が立っていることはちゃんと分かっている。そのためにやるべきことをやってきたし、あとは結果がついてくるためには自分がやるべきことをやるだけ」と落ち着いた表情で語った。

多回転ジャンプにも注目
 住吉は4回転トーループに挑戦しているが、同じく大技であるトリプルアクセルに挑む選手が多い。今シーズン、シニア選手としてデビューした17歳の中井は、その筆頭。住吉が好演技を見せたGPフランス大会で、中井はSP、FSともにトリプルアクセルを着氷させる会心の滑りを見せ、GPシリーズ初出場初優勝を果たした。ニュースターの台頭のみならず、トリプルアクセルにセカンドジャンプをつける渡辺や、全日本ジュニア5連覇の島田麻央(木下グループ)、高さのあるジャンプが魅力の三宅咲綺(シスメックス)、吉田陽菜(木下アカデミー)など、数々の選手が構成に組み込んでいる。緊張感張り詰める大舞台での大技挑戦は、一つ注目したいポイントだ。

〝マリア〟の由来となった曲目で 思いを込めたプログラム
 同じく明大から、11月の東日本選手権(東日本)で2連覇を果たした江川は、スケート人生の節目として特別なプログラムを披露する。今シーズンは、自身の名前の由来となった『アヴェ・マリア』をSPの曲目に選んだ。「見ている人が自分の演技を見終わった後にすごく、本当に穏やかな気持ちになるような、そんなプログラムにしたい」と笑顔で語り「優しいボーカルと、あと少しクラシカルな雰囲気をイメージして」演じ切る。FSでは昨シーズンからの継続プログラム『トゥーランドット』で挑む。江川はおととしの全日本で総合11位と会心の演技を見せたが、昨年の同大会は総合20位。構成を上げ、ブラッシュアップしたプログラムでSP、FSともにそろえ、2年前の再現といきたい。

(写真:笑顔を見せる江川)

最後の全日本 「笑って終われるように」
 明大OGの樋口は今大会が3年連続11回目にして、最後の全日本。明大3年時の22年に北京五輪に出場し、昨年の全日本では3位、今年3月の世界選手権では日本女子シングル五輪3枠獲得に貢献した。今シーズンはGPシリーズNHK杯、アメリカ大会の2戦に参加したが、それぞれ総合9位、11位。ケガの影響などもあり調子が上がらない状態が続いている。それでも18日の公式練習後には「自分が納得して試合を滑り切ることがすごく大事」と改めて目標を見つめ直した。シーズン前での弊部単独取材でも口にした『納得感』という言葉が、最後の全日本でカギになりそうだ。

(写真:最後の全日本に臨む樋口)

【橋本太陽】