
(5)素人を『鬼』にも変えるボクシングの魅力とは
まずはKのプロフィールである。体型は中肉中背、身長172cm・体重66kg、階級としてはライトウェルター級。運動経験は中学で陸上部、高校でボウリング部に所属。本学入学後、明大スポーツでボクシング部担当などの記者として活躍中…。ざっと、こんな感じである。
そんなKが“一日ボクシング部員”として、ジムの扉を叩いた。丹下監督から練習メニューを確認、バンテージを巻いてもらい、準備完了。「監督に巻いてもらっている時、気合が入りました」。
実はボクシングの構えは想像以上に大変である。立っているときは常に“つま先”立ちなのだ。ここまでの様子では私もKも、もしかしたらボクシング部員も思っていたかもしれない…、「最後までついていけるのか」と――。
まずは腕立て伏せなどのウォーミングアップから行った。そしてロープ(縄跳び)であるが、これがどう見てもきつそうなのだ。「駆け足跳び→二重跳び→しゃがみ跳び→駆け足跳び…」、と10分以上休みなしでループして行う。ロープを終えた瞬間、Kの顔からは大量の汗。しかし、まだここまではあくまでウォーミングアップ。練習の本番はこれからである。まだまだ休憩などないのだ。
とうとうボクシンググローブをはめ、監督やコーチからつきっきりでパンチの打ち方などを教えてもらう。シャドーボクシングを20分ほど行ったのち、監督とマンツーマンでミット打ちへ。「パン!」。心地よい音が聞こえた。「初めてのわりにはパンチが重くていいよ!その調子で、はい、ワンツー!」。この時、すでにKの表情は苦痛にゆがんでいたが、ミットと硬くて重いサンドバックをたたき続けた。
次はペアとなってサンドバックを「交互に30秒間10セット」打ち続けるという過酷なものだった。開始直後から苦悶の表情を浮かべるK。しかしペアの伊達(政経2)が励ましながらアドバイスし、監督からも「休むな!」などげきが飛ぶ中、なんとか力を振り絞ってパンチを繰り出す。
Kの体力は限界だった。その彼を突き動かしたものとは何だったのか。「伊達くんも監督もコーチも、必死になって声を出してくれた。この人たちのためにも絶対やりきろうと思った」。初心者の自分を、親身にそして厳しく指導してくれるボクシング部の人々に、真剣なプレーで応えようとするその一心だけで、Kはサンドバックに向かっていた。
まさかやりきるとは監督も、そしてK自身も思っていなかった。「いや、ほんとに大したもの。パンチに力があったし素質があると思う。何よりも驚いたのは、『部員と一緒のメニュー』を同じようにやったことだね」(丹下監督)、「僕だったら最初の練習をあんな風にはできなかった」(伊達)とKを評した。Kにとってこの体験練習はどんなものになったのだろうか。
Kの手記『ボクシング部体験練習をやってみて』
練習場に来て、監督にバンテージを巻いてもらったときは、本当に大丈夫なのかなという不安もあったのと同時に楽しみでもあった。最初に基本姿勢を教えてもらったが、監督やコーチから「楽に」と言われても力が入ってしまい、なかなかうまい形になれなかった。低く構えてつま先立ちしていると、そこに意識が集中してしまってなかなか次の動作に移るのが難しいのだ。
練習が始まって最初のロープを跳ぶことから本気の練習で、着いていくのがやっとだった。普段試合で見ていると3分はあっという間に過ぎていったが、いざ練習してみると3分がものすごく長く感じて、早くゴングが鳴ってくれと思った。
本物のグローブは意外に重く、サンドバッグを打ったときは硬くて自分の手がとても痛かった。でも段々と慣れてきて、ジャブやストレートの打ち方を監督やコーチに教えてもらってから手が早く出せるようになり、腰のひねりを意識してストレートを打つようになった。徐々にいい音が出てきてやっていて楽しくなってきた。
監督とのミット打ちをした際、常に手を出し続けないとミットが飛んでくるのでとにかく必死に打ち続けた。練習をこなすにつれて最近では流したことない汗の量、疲労はピークに達し、サンドバッグを打つスピードも力も疲労でどんどんなくなっていくのがわかった。
しかし「練習きついのに表情変えないからすごいよね」と監督から言葉をかけていただいて、その期待に応えたいという思いのほうが強くなった。手抜きは許されない、そう思った。
最後には足の痛みで終了直前に練習をリタイアしたが、ボクシングの練習の厳しさと、それと同時にその練習を毎日行う選手たちのすごさを改めて知ることができた体験入部になったと思う。
2008年10月 “K”
私自身も写真を撮っていたり取材をしたりしていたのだが、Kは本当によくやりきったと思うし、その事実に大変驚いた。そんな私が言うのも恐縮だが、ボクシング選手は、「このようなきつい練習をよく毎日できるな」と率直にそう思った。そして「彼らを応援したい」という気持ちがますます強くなった。まあ、それを私よりも思っているのは、実際に練習を体験した、ほかならぬKだと思うが…。
ボクシング部の皆さん、ありがとうございました! 最後に、貴重な時間を割いて私たち明大スポーツのために、快く練習参加・取材・撮影に応じていただいたボクシング部の皆様に厚く御礼申し上げます。どうもありがとうございました。
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