(5)重圧に耐え…選手を支えた新監督/高山幸信監督

1999.01.01
 全国から多くの有力選手が集まるため、大学卓球界一選手層が厚いと言われる明治。周囲から寄せられる期待も、それだけ大きいものだ。そんなチームを統括する監督に今年度から就任したのが、本学OBであり前コーチの高山監督だ。

 「歴史のある卓球部。名誉なことだし、やりがいもある。だけど同時に不安やプレッシャーもあった」。監督になると決まったときの心境をこう語った高山監督。監督として、そこにある想いは、一体どのようなものだったのか。

監督として立てた3つの目標

 高山監督は、監督に就任したときに自身で3つの目標を立てた。
 
 まず、選手に部活と学校の両立をさせること。体育会に所属し、スポーツをしながら授業も受け、卒業に足りるまでの単位を得ることはなかなか難しい。しかし、社会に出ればある程度学歴を見られることにもなる。自身の経験から、選手たちには「まず大学を卒業してもらいたい」というのが監督の願いだった。

 次に、選手たちが大学4年の最後の年にそれぞれ一番良い成績を残せるようにすること。選手たちには、それぞれ個人での目標がある。「最後の年に個人にとって最高の成績が出せるようにと、レギュラー陣だけでなく、可能な限りみんな平等に指導してきた」。自身が高校2年生のときまでベンチ入りできていなかったこともあり、団体メンバー以外の選手たちの気持ちもよく分かっている。だからこそ、選手全員のことを気にかけ、「全員で自分たちのチーム」ということを、分かってもらいたかった。

 最後は、選手に人として一流の人間になってもらうこと。卓球が強いということで、テングになってしまう選手もいる。しかし、社会人になってからそれでは通用しない。言葉使いや生活態度を直し、さらには一般常識をつけさせようと、監督は常々注意してきた。
 これら3つの目標は、すべて選手の今、そしてこれからのことを考えての目標。休みの日は練習場に通い、自らボール拾いなどしながら選手とともに練習してきた。「学生の目線になって、自分たちと一緒に、親身になってやってくれるから良い」(原(亨)・文4)。押し付けるだけでなく、選手の気持ちを考え、選手の意見も聞き、会話をするように選手と接する。簡単なことではない。しかし選手のことを第一に考えているそんな監督だからこそ、「気持ちが伝わってくる。真面目でアツい人」(小野主将・商4)と、自然と選手からの信頼も集めていた。

無念の春、夏…そして秋に向けて

 毎年、春季リーグ戦、インカレ、秋季リーグ戦全てでの優勝、三冠を部としての目標に掲げている明治。しかし現実には今年、秋季リーグ戦を迎える時点で、いまだひとつのタイトルもつかめていなかった。

 春は8割方明治が優勝すると言われていながらまさかの敗北。試合後、「収穫は無かったけど反省点はたくさんあった」と高山監督は語った。「大学の授業が始まる時期でもあり、みんなでまとまった練習をすることができず、監督と選手たちの気持ちにギャップができてしまっていた」。実力より気持ちで勝敗が決まるとも言えるリーグ戦、完全に気持ちのまとまりの面で負けた結果だった。

 そして、インカレでも強豪青森大に完敗…。春の反省を活かし、気持ちでは負けたくなかったが、青森大の気迫に押され負けてしまった。
「監督として、この1年をゼロ冠で終わらせるわけにはいかない」。秋季リーグ戦での目標は優勝以外の何ものでもなかった。

秋季リーグ戦でのプレッシャー

 今回の秋季リーグ戦、そこには特別な重みが加わっていた。本学は秋季リーグ戦3連覇中。さらに、春季リーグ戦の時とは違い、オリンピックにも出場した全日本チャンピオンの水谷(政経1)が出場することになっていたため、明治の優勝は春の時よりも確実視されていた。「(水谷)隼が入って、周囲やOBからは勝って当然と言われていた。4月から監督に就いた自分には、プレッシャーがあった」。これまでの実績と、常勝・明治と謳われる部の監督として、自身にのしかかる責任・重圧は、周りには計り知れないものだった。

秋季リーグ戦優勝

 「ほっとした」。秋季リーグ戦優勝の喜びを皆で噛みしめたあと、監督の口から発せられたのはこの言葉だった。優勝して当たり前というプレッシャーを背負いながらも、「向かっていくという気持ちは忘れるな、気持ちで勝っていけ」と選手を鼓舞し続ける。元々実力のある明治だが、選手と監督の間に信頼関係が生まれ、気持ちでまとまっていたからこそ、つかめた勝利だっただろう。これが、監督に就任して以来、団体戦で初めて満足のいく結果を残せた瞬間だった。

全日学へ向けて

 本日10月9日から12日まで、第75回全日本学生選手権が行われる。実力のある大学生が全国から集まり、明治からももちろん多くの選手が出場するこの大会。中でも、全日本チャンピオンの水谷、昨年3位の水野(営4)、軽部(営2)の活躍が期待される。しかし、ルール改正により使用できる用具に制限があり、選手全員が万全な状態で臨めるとは言えず、試合の行方はまだ分からない。それでも、「ランクを独占するくらいの気持ちでやってほしい。そのくらいの実力もある」と高山監督は言う。4年生にとってはこれが最後の全日学。監督の目標の一つ、「最後の年にそれぞれ1番良い成績を残す」ことができるよう、選手の活躍に期待したい。

◆高山幸信 たかやまゆきのぶ 平7営卒