(3)4年生男子紹介

1999.01.01
(3)4年生男子紹介

 この1年間、明大端艇部の主将として部の先頭に立ってきた伊藤主将。「組織をまとめるのは大変」と痛感しつつ、ボートにも勉強にも妥協せずに取り組んだ。大学生活で貫いた姿勢とは。

ボートに勉強に、打ち込んだ4年間

 高校入学後すぐに、所属する部活動を決めるために配られた入部希望表。高校1年生の伊藤主将は、迷わず「美術部」と書いていた。昔から絵を描くのが得意だった。絵画コンクールで入賞した経験もある。「好きな絵を描いて、のんびり過ごそう」。そんな高校生活を思い描いていた。

 ところが、部活動見学でたまたまボート部の試乗会に連れて行かれたことが、伊藤主将の進路を変えた。川で初めてボートに乗り、美術部志望の豊かな感性を刺激されたか、艇の上からの眺めについつい感動してしまった。「いいかも、と思ってそのまま始めることになった」というボートが、現在まで伊藤主将の生活の中心となっている。

 ボートとともに、伊藤主将が大学生活で手を抜かずに励み続けているのが、学業だ。公務員を目指していたこともあり、「文武両道」が目標。厳しい練習の合間に、勉強まで手を抜かずに続けることはそう簡単ではないが、伊藤主将は意欲的に取り組んだ。合宿所から塾に通い、TOEICなどの試験もこなした。最近では「同じ部屋の後輩に気を使わせて悪いんだけど」と言いつつ、オフの日も本を読んだり、次の試験の対策をしたり。「好きなことを勉強しているから、それほど苦しくはなかった」と語る伊藤主将は、誰よりも中身の濃い大学生活を送ったに違いない。

 「合宿所生活も、大学のボートも、戸惑いながらの4年間でした」。ボートに乗ることすら想定外だった男は、必死に打ち込んでいるうちに、名門・明大端艇部で主将として部を導くまでになっていた。大学ボートを引退後の目標は、大学院への進学。そこでやっとのんびり絵を描くのだろうか、と思いきや、「大学院でも、ボートをやれるようならやります」と伊藤主将は笑った。文武両道に苦労しても、部をまとめることに苦しんでも、ボートを離れない、もはやすっかりボートマンの顔だ。大学最後のレースは、「当然優勝が目標」の言葉通り、力強いレースを見せてくれるだろう。

◆伊藤琢磨 いとうたくま 政経4 沼津東高出 180cm・72kg

岩崎春弥(法4)
男子舵手なしクォドルプルクルー

 普段から同期・後輩や選手・マネジャー問わず、誰とでも楽しそうに話す姿が印象的な岩崎。他の学年と比べても全体的に明るい学年カラーの4年生の中でもとびきりのムードメーカーの素顔は…。

仲間思いのムードメーカー

 高校の時に友達に誘われて入ったボート部。中学まで帰宅部だった岩崎は、練習の厳しさやそれまでの生活とのギャップに、ボートが楽しいというよりはその友達とやるということが楽しかったので続けていたという。しかしその岩崎を変えたのは、初めてのレースでの準優勝。小さい大会ではあったが周りからももてはやされ、「俺すごい!!」。それからボートに対する意識は少しずつ変わっていった。

 岐阜県内でたった2人だったという高2でのインターハイ出場を経験し、他の大会でも何度も上位入賞を果たしていた岩崎。その後、自信を胸に大学ボート界へ飛び込んだものの、試合にも出られない苦しい日々が続いた。

 しかし今年の5月、全日本軽量級選手権でそれまで優勝が手に届く舞台に立つことすら少なかった岩崎が、大学生活初めての決勝進出を果たす。岩崎の努力もさることながら、「これまで一緒に生活をしてきた岩崎さんに勝たせたかった」(長谷川・政経3)という後輩の恩返しの思いもあった。以前から「(端艇部で)ボートだけじゃなくて、陸では先輩・後輩なく、一緒に楽しんだり苦しんだりしたい」という岩崎の気持ちが伝わっていたからに違いない。この大会は4位に終わったが、半ば諦めかけていたインカレへの挑戦に火を付けた。

 「合わない人もいるだろうけど、それも含めて合宿所。(試合に)出れなくて悔しいこともあるだろうけど、本気でみんなで応援し合える、そういう関係になってほしい」。インカレを前に後輩へのメッセージをこう語ってくれた。辛い時期を乗り越えてきたからこその言葉だろう。4年生にして、ついにインカレ出場クルーの座を勝ち取った岩崎。今度は私たちがぜひ応援したい。大学最後のインカレで、秘めた底力を見せてほしい。

◆岩崎春弥 いわさきはるや 法4 恵那高出 174cm・63kg

各務結揮(商4)
男子エイトクルー

 明大端艇部一(?)のイケメン選手・各務。今大会、唯一4年生で男子エイトクルーに乗ることが決まり、7人の後輩の「まとめ役」となる、その人柄に迫った。

挫折から学んだ最上級生の自覚

 中学時代、所属していたバレーボール部は弱小チーム。しかし各務はひそかに、「自分のせいじゃない」と思っていた。そして「自分自身の力で勝てる競技」を求めてボートの世界へ。「勝てるかも」という予感は的中し、早くも高2のインターハイで準優勝。しかしそこから思うように力は伸びず、頭打ち状態になっていく。最後のインターハイでは5位、国体は予選敗退。そのような状況で大学進学をしてボートを続けるか、すら迷っていた各務は「かっこ悪いと思った。こんなんじゃ終われない」。そうしてボートを続ける決意をし、高校の監督に勧めもあって、明治に入学して再び日本一を目指し始めた。

 大学生活で1番印象に残っているのは3年次で伸び悩んでいた時期にあった昨年のインカレ。当時4年生の先輩との舵手付きペアクルーで、下級生時代は先輩から厳しく注意やアドバイスを受けていたこともあり「先輩を見返そう!」、そんな強い気持ちで臨んでいた。しかし準決勝でのラスト500mで「もうひとふんばりが足りなかった」。結果、チャンスをものにできず悔しい思いをしたが、同時に「もっともっと目標をもって練習すれば優勝できるレベルまでいける」という手応えをつかんだレースでもあった。

 各務は、最上級生は「自己中心ではなく自己犠牲が必要」という。そんな各務の最後のインカレは、その最上級生が1人というエイトクルーでの出場。花形種目・エイトの活躍が各務の肩に掛かっていると言っても過言ではないかもしれない。昨年の経験を生かし、3年生でクルーリーダーを務める伊藤(清・理工3)を後ろから支えながら、部の最終目標である「男子エイト優勝」の立役者になってくれるに違いない。

◆各務結揮 かかみゆうき 商4 岐阜県立加茂高出 177cm・79kg

☆こぼれ話☆

 最近、明大端艇部の合宿所には不穏なうわさが…。

 真偽のほどを尋ねてみると、「ああ、出るらしいよ」(井戸・農4)とあっさり。実は、ちょうど今がシーズン(?)であることは確かだが、合宿所に幽霊が出るらしい。

 夜、艇庫の奥に人影が見えたとか、「見える」人には昼間でも見えるとか、思った以上に頻繁に出没するという。すぐ近くを流れる荒川も、その水を引いている合宿所の目の前の戸田ボートコースも、何が沈んでいるか見えないような川だから霊もいるのでは、というのが部員の見解だ。

 先日、他の部員より少し遅めに食事を終えた伊藤主将が、一人で食器を洗っていた時のこと。部屋に入ってきたある部員が伊藤主将の方を見て、「先輩、今隣にピンクの服を着た30歳くらいの女の人が立っていますよ」と言ったという。それくらい堂々と出没する幽霊らしい。

 しかしそんな話をしていても、さすがにインカレに集中している選手たちは心に迷いがないからか、誰も特別怖がるそぶりは見せなかった。言われた本人も「伊東美咲も30歳くらいだけどきれいだし、いいか、ってことで」(伊藤主将)となぜかポジティブ。今選手たちにとって怖いのは、幽霊よりもインカレに向けてのトラブルなのだろう。

★次回の「走る!」(8月11日予定)は4年生女子の紹介です!