
(男子)三浦総合8位「また強くなって帰ってこれたら」 佐藤は7位、菊地23位 大島が万感の思い込めたプログラム披露/全日本フィギュアスケート選手権
全日本フィギュアスケート選手権(全日本)2日目は男子FS(フリースケーティング)が行われ、明大から4選手が出場した。中でも、父への特別なプログラムで挑んだ大島光翔主将(政経4=立教新座)が思いのこもった演技で会場に感涙を誘った。初の全日本となった菊地竜生(政経2=目黒日大)も堂々と滑り切り23位に。後半グループでは佐藤駿(政経3=埼玉栄)が7位、三浦佳生(政経1=目黒日大)が8位となった。
◆12・19〜22 全日本フィギュアスケート選手権(東和薬品RACTABドーム)

競技であることを忘れてしまうような温かく美しい4分間を届けた大島。『Desperado』の柔らかな音色に乗せ、冒頭の3回転ルッツを成功させると、続くトリプルアクセルも2本着氷させた。「最初から最後まで自分の気持ちだけじゃなくて父の思いも背負って、2人で滑っているような感じがして、力をもらいながら滑っていた」。全日本の舞台で、父とつくり上げたプログラムが会場を震わす美しい滑りを後押しした。クライマックスに近づき高まる曲調で、手足を大きく使う情感こもるステップシークエンスを披露。表情や眼差しでも観客の心をつかみ、リンクを大きく使い魅せたイナバウアーには大きな歓声が贈られた。
演技終了直後、思わず溢れた涙を両手で拭った。リンクサイドではコーチである父・淳さんと約10秒間の長く熱い抱擁。「父が『ありがとう』って言ってくれたことに演技で応えられなかったのが心残り」。ジャンプの着氷の乱れなど「いい演技ができなかった自分の不甲斐なさ」から涙が溢れたと話す。しかし、この舞台で観客、会場を巻き込んだ滑りや、今シーズンのここまでの努力や思いはきっと淳さんに届いたことだろう。

演技を終え、初の全日本を「ああ終わってしまったな。あっという間だったなという気持ち」とかみしめた菊地。見事進出を決めたFSは〝攻めの気持ち〟で滑り切った。「今日は何もかかっていないというか、攻めていけるなという気持ちでいた」(菊地)。FS進出へプレッシャーを感じていたと話すSP(ショートプログラム)から一転、『もののけ姫』の迫力ある楽曲に乗せて果敢に挑んだ。冒頭、ダイナミックな着氷が印象的なトリプルアクセルではこらえながらも3回転トーループをつける。続くもう一本のトリプルアクセルでは転倒となったが、その後見事な立て直しを見せ、3回転ルッツからの連続ジャンプや3回転フリップを着氷させた。着氷が乱れても、ステップアウトとならぬよう片足でこらえて立つ強さも随所に見られた。
お姉さんとともにつくり上げた振り付けでは〝アシタカ〟らしいシーンを散りばめた。後半、曲調が激しさを増すコレオシークエンスでは弓矢を放つ振り付けで、ラストは「一番最後(シシ神様の)首を返して終わる」フィニッシュポーズで魅せる演技を披露。菊地にしかつくり出せないプログラムの世界観を全日本の観客に届けてみせた。

後半グループには『〝不思議な空気感〟が流れていた』と話す三浦。実績のある選手たちにジャンプミスが続き、難しい展開の中で思うような演技とはならなかった。「僕の予想では、昌磨くん(宇野昌磨さん)が現役引退されて、みんな成績を残して優勝したいという思いが強くあったと思うので、みんなちょっと空回りしちゃったのかなという感じは自分も含めてある」と演技直後にもかかわらず冷静に今大会を俯瞰(ふかん)した。演技は冒頭のトリプルアクセルでステップアウトになると、続く4回転トーループは回転が抜けて3回転に。4回転サルコーも2回転となるなど、〝らしくない演技に〟に滑り終えた後、手で顔を覆った。

「優真(鍵山優真・中京大)と駿と一緒に表彰台に上ろうと話していた。普通に考えたらSPから駿もあんなルッツの失敗の仕方なんて見たことないし、他の選手も普段見受けられないような失敗が多かった」(三浦)。ともに表彰台を目指した佐藤も思い描く演技とはならなかった。6分間練習から4回転ジャンプの抜けが目立ち、手で顔を覆う場面や厳しい表情を浮かべる場面も。本番でも4回転ルッツで普段見ない形での転倒に、立ち上がるまで時間がかかった。それでも体を起こし、続く4回転フリップの軌道へ。見事着氷までつなげると、その後の4回転トーループもこらえながら着氷。高難度ジャンプが続く構成を最後までその手を緩めることなく果敢に挑んだ。ラストの3回転ループでも、今シーズン習得したダブルアクセルのジャンプシークエンスでリカバリー。厳しい状況にも気持ちを切らさず攻め続けた姿勢は、多くの人の心に訴えかけるものがあったに違いない。

今シーズン『全日本優勝』を掲げ続けた佐藤は安定した演技を重ねてきた。SPでのミスに見せた表情の険しさからも、ここに懸けてきた思いの強さを感じ取る。それだけに、今回の全日本にはひと言では表せない思いが募るだろう。しかし、9月以降多くの大会に出場し、ここまで走り続けた。三浦もGPシリーズNHK杯以降悪化した左太腿の痛みと戦いながらの調整となっていた。「根詰めていろいろ頑張ってきたから、悔しいというよりはひとまず終えられてほっとしている。これからゆっくり休んでまた強くなって帰ってこれたらいい」(三浦)と残す。まずは二人とも心身ともに今日まで駆け抜けた自身をいたわり、しっかり羽を休めてほしい。その後、また羽ばたく姿をこれからも追い続けることができればと切に願う。
[布袋和音]
試合後の囲み取材より
三浦
――空気感の違いはどの時点から感じていましたか。
「SPの時からすごく感じました。まだSPは耐えられましたけど。ただもうみんなおかしかったですね、完全に。いつもの感じじゃなくて、空回りしているような。みんな力が前に出過ぎてた。その感じが僕以外の選手も見受けられたのと、その中で璃士(中田璃士・TOKIOインカラミ)とかすごくやっぱり一人伸び伸びと滑れてて3年前の自分もそうだったななんて思いながら、そういうのも思い出したりしてました」
――その時の気持ちを思い出してみるといかがですか。
「自分の時もオリンピック選考会だったんですけど、自分だけ何もかかってなかったので、世界ジュニアとかしか。もう内定してましたし、そこしかなかったので。もう本当に伸び伸び滑れたのを、SPの璃士の演技見てすごく思い出しました。シニアって大変だぞっていうのを璃士もこれで分かったんじゃないかな(笑)みんなもう実力者が普通だったらみんなこんな点数出ないじゃないですか。全員、あれっすよ。世界選手権どうなんのって感じ。僕が言うのもあれですけど。自分的にはやっぱり世界選手権に選ばれるように頑張っていて。世界選手権ってなると3月じゃないですか。そうすると休む時間ができるから。その期間に絶対治るので、世界選手権に万全な状態で出れるかなというのが僕のプランだったんですけど、多分ないかな、世界選手権は」
大島
――演技後に見せていた涙にはどのような意味があったのでしょうか。
「やっぱりこの舞台を目指して 1年間本当に全力で頑張ってきて。特にこのプログラムは自分だけのものじゃなくて父親の思いも背負ったプログラムで。このFSで、この舞台でいい演技ができなかった自分の不甲斐なさと、そういった意味では自分の力不足を痛感しました」
――リンクから上がるときにお父さまと熱く抱擁されていましたが、どのような思いの表れですか。
「やっぱり本当に一番は申し訳なくて。父親が『ありがとう』って言ってくれたことに、演技で応えられなかったっていうのが心残りなところではあります」
菊地
――演技を振り返っていかがですか。
「やはり得意な(トリプル)アクセルの2本目を失敗してしまったので、そこは少し悔しい点ではあります。あとは下の点(演技構成点)があまり伸びなかったので、そこも今後もっと頑張らないとなと思いました」
――SPで緊張はあまりなかったそうですが、FSも同じように挑めましたか。
「そうですね。むしろ攻めていく気持ちでできました。6分間も調子良かったですし、 冒頭のトリプルアクセル、トリプルトーを締めることはできたので、そのままいけるかなと思ったんですけど少し2本目のアクセルで力んでしまいました。でもその後もしっかり立て直してルッツトーとかフリップとかを降りることができたので、そこはすぐ気持ちの切り替えができたかなと思います」
――振付師であるお姉さんから昨日や今日、試合が始まる前に声を掛けてもらったことなどありましたか。
「『目力を意識してほしい』と。やはり会場を圧倒するような雰囲気というかオーラをもっと放ってほしいと言われていて、出だしは自分の世界に引き込むつもりで、目力などそういった表現への意識をしていました」
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