(男子)SP三浦4位、佐藤は6位スタート FSで明大勢本領発揮なるか/全日本フィギュアスケート選手権

 スケーターの夢と思いの詰まった全日本フィギュアスケート選手権(全日本)が開幕した。初日の男子SP(ショートプログラム)には明大から4選手が出場し、全員がFS(フリースケーティング)進出を決めた。GPシリーズNHK杯の悔しさからはい上がった三浦佳生(政経1=目黒日大)が4位、ジャンプミスに悔しさを見せた佐藤駿(政経3=埼玉栄)が6位発進。大島光主将(政経4=立教新座)はほぼ完璧に近い演技で12位につけると、初の全日本となる菊地竜生(政経2=目黒日大)も会場の雰囲気を味方につけSP通過を果たした。

◆12・19〜23 全日本フィギュアスケート選手権(東和薬品RACTABドーム)

 三浦が明大勢トップでFSに挑む。ラストジャンプの4回転トーループで転倒があり自己ベストには10点以上届かなかったが、演技に対して終始前向きなコメントが際立った。「NHK杯の時よりも冷静に運べた。試合運びとしては100点」。左太腿の古傷の痛みに悩まされ、総合6位に沈んだNHK杯。SP前も朝の公式練習から左足の痛みが出たというが、当時の経験を生かし全日本の舞台で調整してみせた。「結果的には転んだがそこまで悪くないと思っているので、FSで修正可能な範囲かなと」「転んで88点は数年前の自分じゃ考えられないようなことなので、ポジティブに捉えていきたい」とFSに向けて、強い言葉で自身を鼓舞した。
 また、今回ひときわ目を引いたのは工夫が凝らされた唯一無二の振り付けだ。冒頭の4回転サルコーを高さと幅のある出来で着氷させると、絶え間なく波のように流れる音楽に合わせて回転しながら舞う動きが印象的。またその後にも右手をゆらめかせる振り付けで観客の目を離さない。スピード感のある楽曲と滑りに溶け込ませた、三浦の独特のパフォーマンスで演技構成点は2位となる41.74点を獲得した。FSへは「2年前も同じ会場で悔しい思いをしたのでその時よりは悪くないスタート。思いっ切り暴れてノーミスの演技でお客さんを感動させられるように頑張りたい」と意気込んだ。

(写真:力強い眼差しで演技を開始した三浦)

 佐藤の真価を示すのはここからだ。今シーズンSPで安定して90点台を出していたが、今回は冒頭の4回転ルッツで転倒。ダウングレード判定となり基礎点が3回転の得点に。得点源としていたジャンプの失敗に、演技後は氷に手をつきしばらく立ち上がることができなかった。その後の4回転トーループからの連続ジャンプとトリプルアクセルは落ち着いて成功させたが、インタビューでは終始言葉を詰まらせながら「普段しないようなミス。正直跳べると思っていた」としぼり出した。
 しかし、佐藤の実力は今回の点数にとどまらない。SPは独特の緊張感があったというが「もう何も守るとかそういうものはない。失敗してもいいくらいの気持ちで挑む」と攻めの姿勢で向かうFS。ジャンプなど技術面と、スケーティングや振り付けなど表現面の両方で、昨シーズン以上に進化してきた。ロンバルディア杯やGPシリーズで重ねた自己最高点、表彰台の経験が背中を押すはずだ。SPも『Ledies in Lavender』の繊細な音色に合わせて指先まで意識をめぐらせ、音楽を体全体で捉える大きな滑りは健在。さらにスピンとステップは全て最高レベルをそろえた。一つのジャンプミスよりこれまで重ねた経験を信じ、FSでは佐藤の思い描く滑りで、今シーズンここまで磨き上げてきた『Nostos』を日本中に届けてほしい。

(写真:審査員にアピールする大島)

 いつどんな試合も、観客、そして審査員へのアピールは欠かさない。特徴的なあいさつを見せた大島の演技後の会場は、今日も歓声と笑顔に満ちていた。冒頭のトリプルアクセルで余裕の着氷を見せると、続く3回転ルッツと3回転トーループも、大島の頭身が映える高さのあるジャンプで加点につなげた。合計74.37点はもう一伸びする余地があるが、今シーズン新たに〝かっこよさ〟を追い求めたプログラムで会場に新風を吹かせた。「最初から最後まで自分らしくない、今までの自分とは違った雰囲気を出せている」と大人なフラメンコの軽やかで異国情緒あふれる楽曲に大島が持つスター性を詰め込んでみせた。FSは父・淳さんへ届ける特別なプログラム『Desperad』を全日本の大観衆を前に披露する。
 SPは明大の佐藤、三浦と同じ第4グループで挑んだ。「彼らの背中は本当に偉大で大きいので、彼らに力をもらった。心の支えになっていたというか、彼らがいたから思いっ切り演技することができた」。最年長として明大を率いる大島。「緊張感の中でもよくまとめた」と話すその姿は、後輩にとっても頼もしい主将の背中となったことだろう。

(写真:『リベルタンゴ』の妖艶さを演じ切った菊地)

 初の全日本での滑りを終え、晴れやかな表情を見せた菊地。SP通過のために「ノーミスは大前提」と意気込み挑んだ中で、見事22位に入りFSへの進出を決めた。初の大舞台にも緊張はなく「観客の人たちを見た時に全然緊張じゃなくて、むしろ楽しさとか、自分が頑張ったからこの舞台に立てたんだなといういろんな感情が湧いてきた。緊張がむしろ吹っ飛んで、観客の人たちが逆に勇気をくれた」と会場のパワーを力に変える精神の強さがSP通過を後押し。一方で滑りには〝妖艶さ〟を追求してきた。演技開始直後の振り付けから観客を『リベルタンゴ』の情熱的でリズミカルな曲調に引き込むと、冒頭のトリプルアクセルでは加点を引き出す着氷を見せる。続く3回転ルッツ、3回転トーループの連続ジャンプではステップアウトとなるも、最後の3回転ループを見事着氷。その後、腰を深く落としたクリムキンイーグルで客席から大きな歓声を浴びるなど「自分のできる限りはできたかな」。重点を置いていた観客の視線を引く滑りを見せた。
 FSでは、激しい曲調での滑りや独特の衣装など見どころを散りばめた『もののけ姫』を披露する。お気に入りのプログラムとともに〝憧れの舞台〟で上位進出を狙っていく。

 全日本の独特の雰囲気が漂い、思い描いた演技とならない選手も多く見られた男子SP。
「去年みたいないい全日本にしたい。みんなで頑張っていきたい」と語った佐藤の言葉のように、昨シーズン以上に各選手がそれぞれ目指す演技を披露できるFSの再現となるか。

[布袋和音]

試合後の囲み取材より
三浦
――左足に痛みが出た形ですか。
 「そうですね。跳び方が痛みをかばうような跳び方になっていて、こっちに来るまですごくいい飛び方でこれてたんですけど、今日の朝すごく痛みを感じて。なかなか自分のいつもの思い切りのいい跳び方ではなかったです。もう痛み止めを飲んで、テーピングもしっかり巻いて今回は臨んで、結果的に転びはしましたけど、そこまで悪くはないと自分の中で思っているので、FSで修正可能な範囲かなと思います」

――点数や内容としても自分の中で割り切れる感じですか。
 「そうですね、結構転んで88点は数年前の自分じゃ考えられないようなことなので、そこは一つポジティブに捉えていきたいなと思います」

――朝の練習の後はどのように気持ちは切り替えられましたか。
 「そうですね。朝の自分はもう自分じゃないって思って。今までの新横浜で積んできた練習がすごく良かったので、その練習を信じて、試合に臨む前もイリヤ(・マリニン選手)とやり取りをしてて、イリヤから『もう自分を信じて』とアドバイスをもらったので、その通り自分を信じて、割り切って頑張りました」

佐藤
――キス&クライの表情を見ていると、相当この大会に懸けてきたのにできなかったという悔しさが伺えましたがどのような気持ちでしたか。
 「普段しないようなミスで正直なんで跳べなかったんだろうという。正直跳べると思っていたんですけど、跳ぶ前とかスピードが出てなかったんですけど、普段通りの感じでいつも通りだったので悔しいなと思います」

大島
――今日の演技を振り返っていかがですか。
 「過去の大会と違って、今回の得点で明日につながるような演技ができたので、FSにつながる点数を残したというのは本当に良かったです」

――お父さまからはどんなお声掛けをもらいましたか。
 「練習してきた最大限ということにはならなかったんですけど、本当によくまとめましたし、緊張した中でよく頑張ったっていうふうに言っていただいて、自分の納得する形で SPは終われたかなと思います」

菊地
――初出場ということで、全日本に懸ける思いはいかがでしたか。
 「やはり昔からの憧れの舞台でした。本来、ジュニアの時に推薦でシニアの全日本に出ることが目標だったんですけどそれはかなわなかったので、今年シニア1年目でやっと全日本に出ることができたのでうれしさでいっぱいです」

――演技後、キス&クライで「もうちょっといけた」というふうにおっしゃっていましたがどのようなところに感じましたか。
 「そうですね。練習では結構ノーミスしていたので、全日本に向けて東(東日本選手権)からすごく上げていけていたので、やはり得意のトリプルアクセルで少し着氷の乱れが出たりとか、3―3(3回転ルッツ、3回転トーループ)でステップアウトしてしまったりとか、そういったところではもっとできるところがあったなと思います」

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