(1)ヨットレースとは

1999.01.01
 誰もが知る競技でありながら、どこか「特別な人たちのスポーツ」といった印象を持たれがちなヨット(セーリング)レース。しかし北京五輪セーリング競技出場を決めた、近藤主将(政経4)の姉・近藤愛選手と鎌田奈緒子選手(ともにアビームコンサルティング)のペアが「コンカマ」としてメディアに取り上げられ、ヨットレースにも注目が集まり始めている。

 この機会に「コンカマ」を応援しようにも、ヨットレースのことを知らなければ観戦の面白みも半減。そこで五輪直前のこの時期に、ヨット競技を一から解説していく。

 第1回、海の日のきょうは、レースの仕組みを解説します。

二人三脚で敵に自然に立ち向かう

 セーリング競技に使われる艇には20を超える種類があり、うちオリンピックで競われるのは「コンカマ」ペアが乗る470級(よんななまるきゅう)を始めとした11種目。そして大学ヨットでは470級とスナイプ級の2種目のみで競われる。

 470級とスナイプ級との違いは次回説明するが、どちらも2人乗りの艇である。2人の一方は「スキッパー」、もう一方は「クルー」と呼ばれ、それぞれ異なる役割を果たす。

 スキッパーは艇のかじ取りとメインセール(一番大きな帆)の操作を担う。一方のクルーは艇の縁に足をかけて大きく体を海へ乗り出すなど、全身を使って艇のバランスを取る。状況や進路の判断、ジブセール(小さな帆)の操作もクルーの役目だ。

 日本語ではスキッパーが「艇長」、クルーが「乗組員」と訳されるが、ペアの間に上下関係などはない。「ペアの息が合わないとスピードは出ない。連携が重要」(田口・法4)と、ペアの相性は競技を大きく左右する。さらに、もし2人の息が合わず艇がバランスを崩せば、転覆して海に投げ出されてしまう。競技中はレスキュー艇が常に監視していてくれるとはいえ、過去にはある大学の選手が座礁し、海上保安庁のヘリコプターに救助されたこともあるという。何もない大海原の上、選手たちは息を合わせて敵だけでなく大自然とも闘わなくてはならない。

「風の吹く方へ」進むことはできない

 飛行機の翼が受けるのと同様の力(揚力)を帆が受けることで、ヨットは動く。この揚力の関係上、ヨットは風の吹いてくる方向(風上)へ進むことができない【図1参照】

 しかし後に述べるとおり、レースでは風上へ進むことが要求される場面がある。そうしたときは図右側のように、ジグザグ走行を繰り返すことで前へ進んでゆく。風向きを読み、帆が受ける力を考えながら進路を選び取ることが求められる「理系スポーツ」といえるかもしれない。

大海原に浮かぶ見えないコース

 ヨットレースは三角形の「三角コース(オリンピックコース)」、直線の「ソーセージコース」など様々な形状のコースを設定して競われる。だが、陸上の競技場と違い大海原の上ではラインを引くわけにはいかない。そこで、ブイ(浮標)という目印を浮かべ、その間を決められた順に回ることでレースは進められる。

 関東インカレなどでは、図2のように4つのブイを浮かべた三角形+直線のコースが用いられる。並んで停泊する本部船と運営艇との間の仮想線をスタートラインにして、決められた時刻に一斉にスタートしたヨットは、1番‐2番‐3番‐1番‐4番の順にブイ(マーク)を回り、運営艇とフィニッシュマークの間の仮想線を越えるとゴールとなる。

 コースは図のとおり風向きに合わせて設定されている。前に説明したようにヨットは風向きに応じた進み方があるので、多様な進み方で競わせるためだ。もし風向きが大きく変わった場合は、レース中であってもコースの形が変えられる。こうした変更の連絡は、海上でもすべての艇に届くように、運営艇に掲げる旗や音響信号(汽笛)で伝えられる。

ヨットは個人競技ではない

 大学ヨットでは各大学、1回のレースにつき3艇が出走する。各大学はそれぞれ、ただ自分が速く走ることだけではなく、他大学の艇の進路を抑えて仲間を助けるなどチーム戦略を要する。

 今年「チームレースの徹底」を目標に掲げる近藤主将。それに成功した春季関東インカレではここ15年で最高の成績を収めた。大学ヨットはチーム戦略の有無が結果を大きく左右する「団体競技」なのだ。

得点が低いほど好成績!?

 大会では予選・決勝合わせて1週間ほど、計14回レースを繰り返して総合順位を決定する(関東インカレの場合)。

 ヨット競技では各レース、各艇の着順の合計がその大学(チーム)の得点となり、加えてフライングなど反則があればペナルティとして加点される。例えば明大の3艇がそれぞれ3位、4位、14位で反則がなければ、そのレースの明大の得点は27点だ。つまり、すべてのレースが終わったとき一番合計得点が少ない大学(チーム)が優勝ということになる。

★次回(7月28日予定)は470級、スナイプ級など、さまざまなヨットの種類について解説します。