愛されるジジイ――明商
常勝軍団の名を欲しいままにする、明大馬術部。その栄光は部員の日々の努力に加え、鍛えられた馬によって支えられています。個性派ぞろいの馬ばかりですが、実力は折り紙つきです。そんな馬たちを一緒に生活する部員たちの印象や思い出を交えながら紹介していきます。第4回は明商です。
体はボロボロ
御年22歳。人間にして85歳という高齢にも関わらず、バリバリ現役の総合馬として本学を王座へ導いてきたのが、明商だ。しかし明商のような高齢馬が、全種目中もっとも過酷とされる総合競技に起用されることは常識的に考えられないことだという――。
「乗っているとかわいそうで胸が苦しくなる」と部員らが皆心を痛めるほど、明商の体はボロボロ。年々動きは悪くなる一方で、出場ごとの体力回復にも多大な時間を要する。さらには右前足に軟腫(なんしゅ)を患っており、「相当痛がっている」(山内・商4)。軟腫(なんしゅ)は手術で取り除くことも可能だが、それは同時に明商の競技生命が絶たれることを意味する。体の衰えを止めることはほぼ不可能といい、現状維持が精一杯。そのため部員たちは日ごろから明商のケアにぬかりがないという。
年の功が呼ぶ勝利
加齢による急激な体力低下と足に爆弾を抱えた明商が、現在も競技生活を可能にしている理由…それは体のハンディをものともしない、ずばぬけた経験値にある。驚くべきことに明商は競技中、長年の経験を踏まえた自らの判断により、本来ならば人間が行うべき仕事までこなしてしまうというのだ。先日の全日本ジュニア総合大会で共に4位に輝いた山内も「おかげで余裕をもって自分だけの仕事に集中できる。明商に乗っている以上、負けても言い訳はできない」と、愛馬の仕事ぶりに絶大な信頼を寄せている。
さらに明商の強さは、その洗練された集中力にある。「競技に入ると目の色が変わり、まったく別の馬になる」(山内)と、その様子はまさにトランス状態。ひとたびスイッチが入れば、体の衰えからは想像しえない驚異的な走りを見せるという。ベテランゆえか、競技に対する思いはどの馬よりも強く、気高い。集中力という名の脳内麻薬は、長年苦しんできた体の痛みさえ忘れさせてしまうようだ。
今年で引退?
そんな才能あふれる明商だが「もうジジイだからね、今年で競技生活は最後かもしれない」(山内)。とはいえ、“明商引退説”は今に始まったわけではない。次で終わり、次こそ限界…と、ここ数年の間明商を案ずる声が部員の間で絶えることはなかった。そんな周囲の憶測を知ってか知らずか当の明商は、「まだまだやれるよ!」と言わんばかりに大会であっさり上位にくいこんでしまうから、そう引退ともいかないわけだ。「休ませてやりたいとは思うけど、(明治が勝つためには)やっぱり明商がいないときつい」(山内)。
幸か不幸か・・・頼れるおじいちゃん馬の隠居生活は、まだまだ訪れそうにない。
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