
(6)「自分は弱い」の口癖は飛躍への栄養剤・武田茂之
東京・神田駿河台の明大道場で、練習中に人一倍大きな声が響く。「ファイト」「お願いします」。誰にも負けたくない、もっと強くなりたい。武田のけいこぶりからはそんな願いがふつふつと伝わってくる。常に全力で物事に取り組むどん欲な姿勢。どんなに強い相手でも、自分の持てる力のすべてを使って立ち向かっていく。そんな彼の柔道には、見るものを引きつける力、「魂の柔道」と呼ばれる明大柔道部の心意気を感じる。
高校時代の恩師で、明大OBでもある石田輝也・大成高監督がいう。
「武田の良さは、どんな練習でも妥協せず、前向きに、直向きについてくるところ。『自分より弱い相手を投げるのは当たり前。自分よりも強い相手とけいこしないと本当の力はつかない』との教えを貫いている」。
本人の口癖は、「自分はまだ、まだ弱い」だ。全日本選手権の予選を兼ねた3月の東京都選手権。直前の合宿中に足を負傷しながらの出場だったが、3回戦で敗れた後、「ケガは関係ない。実力で負けました」と話した。目の前の現実や、自分の実力と真正面から向き合っていた。「弱い」という言葉は、悲観的な意味ではなく、「まだ弱い、だからこそもっと強くなれる」と自らを叱咤する栄養剤にする。武田の本当の強さはここにあると思う。
普段は温厚で礼儀正しい。「洗濯とか食事の準備とか、大変ッスよ」と、練習後の道場で笑いながら話してくれたこともある。畳の外ではいつも穏やかな彼も、ひとたび相手と組み合うと胸に秘める闘志を隠そうとしない。まさにそれは出番を待つ「戦士」だ。目標の選手は同じ階級の花本隆司前主将(平20営卒・現京葉ガス)。今春、卒業した先輩とは1年間だけ、ともに汗を流したが、「技術もすごいし、チームを明るくしてくれる人。自分にとってすごく大きな存在」という。
4月からは学年が一つ上がり、後輩も出来た。「1年生の時は不安なところもあると思う。だから、去年自分が先輩にそうしてもらったように、今後は自分が後輩たちを支えてあげたい」。団体王座の奪回とともに、自身は個人で学生チャンピオンを目指す。「西岡和志先輩(営3)が昨年2年生で全日本学生体重別で優勝した。学年関係なく勝てることを証明してくれたんです。自分も頑張ります」。
武田が自ら納得できる「技」と「心」を身につけた時、明大にまた1人、頼れる戦士が誕生するだろう。
武田茂之 たけだしげゆき 法2 大成高出 173cm・80kg
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