(3)「嫌われ役」に徹する決意・影野裕和

1999.01.01
 3月2日から始まった新日鉄広畑での春合宿で主将田中(政経3)を支えてチームを引っ張る男がいる。副将の影野(政経3)だ。3月16日には東京武道館で行われる全日本選手権東京地区予選に出場するが、本人は「団体戦につながる試合をできるようにしたい」と、すでに6月に行われる全日本学生優勝大会を意識している。高校時代は全国のトップを張る東京・世田谷学園高の主将を務めた。「優勝するためにできることは何でもする」と語る眼差しにはチームに対する熱い思いがある。自らの個人戦よりも、仲間とともに戦う団体戦を大事に思う姿勢に、彼の持ち味である責任感の強さを感じる。     

 悲願の大学日本一へ向けて、部員をけん引する立場だけに、視点も厳しい。口癖は「危機感が足りない」だ。今春、最上級生になるのは9人。3人だった昨年より人数は多いが、頼りになる分、「最上級生全員のモチベーションがある程度同じでなければ、練習の質が一気に下がってしまう」とも話す。せっかく質の高い練習をしても、それを継続することができなくては意味がない。その状態を保つために、影野は練習中、最上級生同士が組むことで、道場に緊張感を持たせるように心がけているという。「たとえ、相手のモチベーションが低くても、俺が頑張れば、組み合っている相手もついてくるしかない。だから、最低でも俺ともう1人の副将の鈴木(雅・商3)が常に動くことが、部を引き締めることにつながる」

 悩みがない訳ではない。あくまで副将は主将をフォローする存在。「でしゃばりすぎることはできない。だけど、部員たちに注意する時はしなければならないし、その加減が難しい」。自らが頑張ることと、周囲を鼓舞する難しさ。「たとえ嫌われ者になっても、田中をキャプテンとして立てられるよう、努力をする。基本的なことが出来ていないやつにはしっかり注意するし、私生活の改善も重要だと思うから、そこも言っていく」。影野はまさにこの1年、「陰」に徹する気だ。練習中も常に部員たちの息遣いに目を配り、全体を見渡す。その後ろ姿には、心強さと暖かさがある。

 チームはこの春合宿からは新入生を迎えて、団体戦の優勝へ向けて本格的に動き出す。王座奪還の願いを叶えるには、昨年も準決勝で0-5と大敗した学生王者の国士大という「壁」を乗り越えなければならない。だが、影野はむしろライバルを意識せず、自分たちの向上にだけ気持ちを集中させることが大事と見る。「国士大は強いけど、絶対じゃない。高校時代からの経験で意識しすぎていいことはなかった。変なイメージがつくし、『どことやっても勝って優勝』ということしか考えてはいない。『国士舘』と意識するのと『優勝』と意識するのとは、全然意味が違う」と話した。

 過去、4連覇、3連覇をそれぞれ1回づつ含む歴代最多の16度の全日本学生優勝大会制覇。「最強」と言われた明大の黄金時代には、確実なポイントゲッターとともに、道場でのけいこを支える「嫌われ役」が必ずいたという。人間だれでも他人に好かれたい。その願望を捨ててまで、嫌な役目を買って出るという影野の決意には心打たれる。

 この夏は、彼の願いが花開くことを期待したい。

影野裕和 かげのひろかず 政経4 世田谷学園高出 180cm・95kg

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http://www.meiji-judo.com/index.htm

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