
(3)「嫌われ役」に徹する決意・影野裕和
悲願の大学日本一へ向けて、部員をけん引する立場だけに、視点も厳しい。口癖は「危機感が足りない」だ。今春、最上級生になるのは9人。3人だった昨年より人数は多いが、頼りになる分、「最上級生全員のモチベーションがある程度同じでなければ、練習の質が一気に下がってしまう」とも話す。せっかく質の高い練習をしても、それを継続することができなくては意味がない。その状態を保つために、影野は練習中、最上級生同士が組むことで、道場に緊張感を持たせるように心がけているという。「たとえ、相手のモチベーションが低くても、俺が頑張れば、組み合っている相手もついてくるしかない。だから、最低でも俺ともう1人の副将の鈴木(雅・商3)が常に動くことが、部を引き締めることにつながる」
悩みがない訳ではない。あくまで副将は主将をフォローする存在。「でしゃばりすぎることはできない。だけど、部員たちに注意する時はしなければならないし、その加減が難しい」。自らが頑張ることと、周囲を鼓舞する難しさ。「たとえ嫌われ者になっても、田中をキャプテンとして立てられるよう、努力をする。基本的なことが出来ていないやつにはしっかり注意するし、私生活の改善も重要だと思うから、そこも言っていく」。影野はまさにこの1年、「陰」に徹する気だ。練習中も常に部員たちの息遣いに目を配り、全体を見渡す。その後ろ姿には、心強さと暖かさがある。
チームはこの春合宿からは新入生を迎えて、団体戦の優勝へ向けて本格的に動き出す。王座奪還の願いを叶えるには、昨年も準決勝で0-5と大敗した学生王者の国士大という「壁」を乗り越えなければならない。だが、影野はむしろライバルを意識せず、自分たちの向上にだけ気持ちを集中させることが大事と見る。「国士大は強いけど、絶対じゃない。高校時代からの経験で意識しすぎていいことはなかった。変なイメージがつくし、『どことやっても勝って優勝』ということしか考えてはいない。『国士舘』と意識するのと『優勝』と意識するのとは、全然意味が違う」と話した。
過去、4連覇、3連覇をそれぞれ1回づつ含む歴代最多の16度の全日本学生優勝大会制覇。「最強」と言われた明大の黄金時代には、確実なポイントゲッターとともに、道場でのけいこを支える「嫌われ役」が必ずいたという。人間だれでも他人に好かれたい。その願望を捨ててまで、嫌な役目を買って出るという影野の決意には心打たれる。
この夏は、彼の願いが花開くことを期待したい。
影野裕和 かげのひろかず 政経4 世田谷学園高出 180cm・95kg
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http://www.meiji-judo.com/index.htm
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