坂田京

1999.01.01
 セレクション入部の部員がほとんどのボクシング部。その中において、一般部員としてチームを引っ張っているのが坂田京(情コミ2)だ。その拳で高校時代は活躍していながら、挫折や一般部員ならではの苦悩を経験した男の心境とは――。

蘇った熱き拳

 「ボクシングがしたい」。彼をまた勝負の世界に駆り立てたのは、何よりその思いからだった。

 ボクシングに出会う前は、剣道にバスケとさまざまなスポーツをしていた坂田。剣道では全国大会に出場するなど、早くからその非凡な才能を発揮していた。高校1年の秋、彼に転機が訪れる。友人に誘われ体験したボクシングでその魅力に引き込まれた。コーチからの誘いもあり、彼のボクサー人生はここから始まった。

 それまでとは全く異なるスポーツの場。しかし、スポーツ万能の彼が台頭するのに時間はかからなかった。始めてたった3ヶ月で実戦を経験し、その後の大会では上級生ばかりの中で優勝。ポテンシャルの高さを見せつけた。

 しかし、その後は決勝まではいくものの、最後に勝ちきれず、残るのは準優勝の肩書きばかり。優勝した相手はインターハイチャンピオンになるなど、両者の明暗はくっきりと分かれた。また、以前勝った相手も別の階級でチャンピオンとなり、あっさりと坂田を超えていく。その中で、彼の優勝への思いは焦りへと変わっていった。シルバーコレクターの名を返上すべく出場した高校生活最後のインターハイ予選でも、彼にリングの神がほほ笑えむことはなかった。またもや準優勝に終わってしまったどころか、人生初のKO負け。彼の心は完全に折れ、その大会を最後に競技から離れた。

 それからは特に目標もないまま、月日が流れていった。大学へ進学することもなく、パチンコに明け暮れた。しかし、競技を続けていた友人の試合を観た時、そんな彼の目の色は変わる。それまで心の奥にしまいこまれていたボクシングへの情熱が、彼の心を再び前へ突き動かした。そこにあったのは、志半ばで諦めてしまった競技で、自分にリベンジしたいという思いだった。「悔しい。またボクシングがしたい」。

 地元の大学への進学も考えた。しかし、全国レベルの選手たちと対等に渡り合っていくためには上京するしかなかった。考えた彼は、両親に何とか承諾をもらい、受験勉強に燃えた。目指すは一般入部を受け入れてくれる、当時関東大学リーグ戦で2部に所属していた明治。勉強を始めたのは決して早くはなかったものの、限られた時間で必死に取り組み、合格を勝ち取った。

 しかし、明治に進学するという目標を達成し、希望通りボクシング部に入部した彼を待ち受けていたのは、一般入部生に対する周りからの冷たい視線だった。

「一般入部のやつが部のきつい練習についていけるわけがない。すぐに辞めるだろう」。

 明大ボクシング部は、セレクションで入部した部員が大半を占める。待遇の差があるのは当然。そんな中、鈴木義三郎前監督だけは坂田の才能を見抜き、熱心な指導を行った。相当なブランクはあったものの、その熱意に応えて練習を積み重ね、昨季は初の全国大会である全日本アマチュア選手権に出場するほどに成長。結果は初戦敗退だったが、もちろんこの結果に満足しているわけではない。今季も出場と優勝を目指し、練習に励んでいる。

 そんな彼は、持ち前の明るい性格から今や部になくてはならないムードメーカーでもある。「自分がそういうタイプじゃない分、部を盛り上げてくれるので感謝している」(木谷主将・法3)。チームとしての今季最大の目標である1部昇格に向けても、彼の存在は大きい。「リーグ戦に出てくるような選手はほとんど推薦で入ってきた選手だけど、そいつらには絶対に負けたくない」。

 一度は消えかけたボクシングへの熱き思い。その火がもう一度燃え、今となっては大きな炎となって彼の魂を熱く燃えたぎらせている。リーグ戦全勝と個人戦での日本一という大きな目標に向かって、彼は今年もリングに立つ。

~坂田選手から一般入部の人へのメッセージ~

 「やる気さえあれば、4年間あるし大丈夫。部としても推薦入部の人と差はつけないので大募集中!後楽園ホールで一緒に戦おう!!」

◆坂田京 さかたけい 情コミ2 札幌開成高出 180cm・65kg