明治大学シェイクスピアプロジェクト(MSP)①/明大スポーツ第539号特別インタビュー

 今年度20周年を迎えるMSP。本記事では紙面に載せ切れなかったMSPコーディネーター・井上優教授、今年度の上演作品『お気に召すまま』で演出を務める大友彩優子さん(文4)、コラプターズチーフ・麻植風花さん(文3)、プロデューサー・阿部ひなたさん(文2)のインタビューを掲載します。
(この取材は7月10日に行われたものです)

――MSPに所属することを決めた理由を教えてださい。

阿部(以下、阿)「みんなで一つになって劇をつくり上げる演劇組織が明大にあることを高校の進路の先生から聞いて、元々部活でも舞台をつくるみたいなことをやっていたので、高校時代からMSPに入りたいと思っていました」

大友(以下、大)「MSPの存在は大学に入ってから知りましたが1年生の時は参加していませんでした。元々中高で演劇部に所属しており、大学に入ってからはサークルで活動しようかなと思っていたからです。でも大きい演劇の組織があると聞いたので、来年はやってみようかなと思い、2年生の時に初めて参加しました」

麻植(以下、麻)「私も大学受験の時に調べてMSPがあるのを知りました。やってみたいなとは思っていたんですけど、1年生の時は勝手が分からなかったので参加しませんでした。2年に上がる時に台本翻訳のチームだったらそこまで活動に時間を取られずに参加できるとのことだったので、参加させてもらいました」

――皆さんが演劇に関わるようになったきっかけは何ですか。

「元々小学校1年生から高校生までクラシックバレエをやっていました。演劇というわけではないけれど、舞台にずっと興味があったので大学に入っていろいろ演劇とかを見始めたというのはあるかなと思います」

「演劇を見ることに関しては幼少期からいろいろな所に連れていってもらっていたんですけど、自分がやるというふうに思ったのは小学校6年生の時の学芸会です。そこで声が小さいと言われて居残り練習をさせられていました。それがすごく悔しくて中学校で演劇部に入りたいなと思ったので、そこが演劇をやろうと思ったきっかけです」

「私も昔から親に連れられてバレエや演劇を見にいっていました。私も幼稚園の時からバレエをやっていたので、自分の体で何かを表現することは昔から好きでした。中学受験で、自分の志望校の演劇部を文化祭公演で見た時にすごく楽しそうで、学生でここまでやれるという衝撃を受けて、自分もここで一緒にやってみたいなと思ったので本格的に演劇をやりたいなと感じたのはそこですね」

――今回の作品のあらすじを教えてください。

 「宮廷にロザリンドという女の子とオーランドという男の子がいます。2人は初対面でお互い一目ぼれをしますがそれを相手に伝えることはできずに、理由があって森に逃げます。ロザリンドは訳あって男装して逃げていて、森でも身分を偽って男として振る舞っているため、森で再会した時に、オーランドはロザリンドだと気付けないんです。オーランドの方はロザリンドのことが好きということを森中に知らせています。例えば書いた手紙を、森の木にぶら下げるぐらい大胆なこともしています。ロザリンドはその手紙を見つけて、オーランドが森にいることを理解します。そして男の姿のまま再会し、そんなにロザリンドのことが好きなら口説く方法を教えてあげると伝えて、自分をロザリンドと思わせて口説く練習をさせます。本当はロザリンドであることを言わずに男として振る舞うところが面白いポイントです。最終的にはいろいろあってハッピーエンドです。詳しいことはぜひ劇場でご覧ください笑」

――『お気に召すまま』を上演する上で、今年度のテーマである「自分らしさ」という点についてどうお考えですか。

「演出としてはまだキャストの稽古が始まっていないので、今は願望になるんですけど、キャストから出た意見やキャストがこういうふうにしたいという願望はどんどん取り入れていきたいです。私自身こういう作品にしたいなというのは一つあるんですけど、そこにこだわり切らず、執着せずにみんなでお気に召すままを演じたいなと思います」

――やりたいこととは具体的にどのようなものですか。

 「いろいろ考えています。原作を読んで感じたことをリストアップした時に、森に行くことで登場人物たちが生き生きするのが印象的でした。さっきお話ししたように、ロザリンドたちみんなで森に行くみたいな感覚で、お客様もその森の世界に入っていけるような空間をつくっていきたいです。そしてお客様には生き生きとした自分を見つけていただきたいなと思います。キャッチコピーも『あの森で、私に出会う』とつけているので、能動的にその世界へ出向いていくみたいなイメージでやっていきたいです」

「翻訳チームは個人作業ではないのでコラプターズとして言うことは難しいですが、たくさんの人が集まって一つになっているイメージなので、彩優子(大友)さんが実現しようとしているコンセプトや世界観をいかに最大限に実現できるような訳をつくるかというのが、コラプターズとしてはこだわりなのかなと思います」

――一昨年は『ロミオとジュリエット』、昨年度は『ハムレット』でしたが、今年度『お気に召すまま』を選んだ理由はありますか。

 「学生が来年は何だろうという予想をいつもしているみたいで、各現場で予想合戦みたいなことを展開しているらしいです。実はギリギリまで決めていなくて 「悲劇」、「喜劇」、「悲劇」、「喜劇」とかはある程度考えているけど、また悲劇を続けてもいいなという気持ちも少しあります。シンプルに言うと、やはり学校行事なので大勢の参加者、希望者を出せるべきというふうに考えていたんだけど、たくさん公演していると行き詰まってきたので、最近は学生が等身大でできるものをまず考えようと思っています。もちろん年によっては背伸びしないといけない年もあるし、昨年度のハムレットは難しい劇だからだいぶ背伸びしたと思うし、今年も今年で難しいところはあるけれど最終的に背伸びしたとしても自分たちに収まるような題材だといいなということはいつも考えています」

――『お気に召すまま』は日本での上演回数は8回と比較的知名度が低い作品ですが、いかがですか。

「やりやすい部分もやりづらい部分もどちらもあると感じます。参考にできるものがあまりないのでつらい部分の方が大きいです。特に衣装だと、この役はどういう感じなんだろうと探しても出てこなかったりするので、原作に忠実にすることと私がどうしたいかが重要だと感じます。だからこそあまり見たことのない作品にできるかなと思いますし、キャストをオーディションで選んでいるので性別の兼ね合いなどもいろいろあります。そういう部分でいつもと違うところもあるので楽しみにしてもらえたらと思います」

――MSPの活動を通して大変だったこととやりがいを感じたことをそれぞれ教えてください。

「一つ目は、MMという仕事をしたことです。精神がつらい部分があったのとプロデューサーになってからは、外務や教務の人ともやり取りする機会が増えたので、文面を考えて何を言うかまとめてメールでやり取りするのがすごく大変かなって感じます」

「期待値が結構あることがプレッシャーになっていました。MSPに出たいから(オーディションに)挑んでいるわけですけど、そこに出たいからには頑張らないといけないというのがありました。私は昨年度せりふが多くない役だったので、少ない出演時間でいかに覚えてもらえるかをすごく頑張っていた記憶があります。いざ上演してみたらいい反応をいただけたので報われた感じがしました」

――コロナ禍での活動はどういったものだったのでしょうか。

「3月くらいまで学校に入れなくなってしまいました。コラプターズも中断せざるを得なかったのですが、試しにzoomでせりふ合わせをやってみようとなったのが4月か5月の頭くらいで、そこからコラプターズも再開しました。お客様を入れることは考えられない状況だったし、学校の施設も使えない状況でした。いつもは駿河台のアカデミーコモンでやるけど学校外に場所を探さないといけなくなったのでいろいろな人に聞きにいきました。そしたら秋葉原のパセラリゾーツさんというカラオケ屋さんのビルがあって、そこにシアターがあることを知りました。そこなら使えるんじゃないかということで見にいこうとなったのがお盆あたりです。一度僕が見に行った後に舞台監督さんも見にいって、ここにしようと思いました。稽古は外の施設でやらせてもらっていましたが稽古場を探すのも大変だったしカラオケ屋さんが決まってからは、カラオケ屋さんがやっているバーが夜営業で昼間はやっていないから、昼間は稽古でそこを使わせてくださいというお願いをしたりとか、場所探しで書類を出して許可を得ていました。本番はフェイスシールドをしてほしいと言われたけど、それだけは勘弁してくださいと言ってその代わりにPCRを受ける、ということでマスク・フェイスシールドなしの本番を認めてもらいました。結果として、奇跡的に全員陰性だったから本当に良かったです。お客様を入れたら駄目だったので配信をやることになりました。当時は配信をやったことがなくて手探りでしたが、ありがたいことに映像関係に強い卒業生がいたので、完全に頼り切って成功しました。生配信はそれ以降もずっと続いています。今までになかったことをいろいろ試さないといけなかったのですが業生も含めて学生みんなが折れなかったことが大きかったですね。もう二度と経験したくないですけど笑」

――他の演劇サークルとは異なり、MSPは駿河台キャンパスアカデミーコモンのアカデミーホールで上演ができますが、皆さんにとってアカデミーコモンはどのような場所ですか。

「2階席まであるので、初めて入った時にいい意味で思っていたのと違うという印象がありました」

「照明部に入った時にピンスポットというのをやっていたんですけど、本当に大きいホールや劇場にしかないような機材で、そういうものに触れる機会はほぼないなと思いました。MSPに入ってこそできたことだなとすごく感じたので、そこからより一層特別な場所だなというふうに思います」

「コラプターズは小屋入りをしないので、お客様として会場に足を運びます。私は毎回行っている側なのでホールはやはり大きいなというのと、ここまで大きい舞台で学生がやれるのはすごいなと毎回思っています」

――それぞれの部署・役職で心がけていることはありますか。

「私は原文に忠実に、大学生らしい役作りを心掛けています。シェイクスピアは英語作品なので日本語に訳せない言葉が多い部分もあって、海外の知らないことわざもたくさんあります。古い英語なので、現代の英語と違うところも多く、意味をなるべく崩さずに同年代の人たちにも親しみやすく感じてもらえるようにということは意識してやっています」

「演出は、すごく大きい役職に見られがちですけど私が全てを決めているわけではなくて、みんながやりたいと言ってくれたものを取捨選択していく役どころかなというふうに思っています。仕事はまだこれからですけど、そういうところは気をつけていきたいなというのは強く思っていますね。王様にならないというか、みんなの意見を取り入れてやっていきたいです」

「プロデューサーという統率できる権利はもらっているんですけど、私はみんなが自由にやっていくものを支えたいと思います。私のイメージですが、プロデューサーってマネジャーみたいなものかなと少し思っています。みんながやりたいと言ったことを演出がまとめてそれを私ができることでサポートしていくというイメージはいつもしています。前に出過ぎず、でもみんなが困っていることがあれば率先して力になることをしてあげたいです。今年度やり始めて気づいたのは、統率することは結構難しい立ち位置だなと思っているんですけど、あえて皆さんのやりたいことを支えるマネージャーの位置につこうかなと思っています」

――数ある演劇サークルの中で、MSPにしかない魅力はありますか。

「人数が多いとできることもすごく多いです。例えば普通のサークルだと多分1回の公演人数は30人から40人ぐらいが平均だと思うんですけど、MSPはひとつの部署だけですでに30人ぐらいいます。できることが格段に違うし、作業効率もすごく上がるので、だからこそいろいろな側面を持って作品をつくれるのかなというふうに思います」

「アカコモを使えることはMSPしかできないことですし、あとは人数が多いことですね。プロのスタッフさんをワークショップとかで呼べたりするので、普通ならできないことを学生のうちに学べるというのがあります。実際にプロのスタッフさんもいます」

「他の演劇サークルではオリジナル脚本を上演することも多いですが、MSPではシェイクスピア作品のみを上演します。なかなかシェイクスピア作品に深く向き合える機会はないので、そういった体験を得られるのが魅力です」

――ありがとうございました。

[田上愛子]