つかんだ頂点の座 ~足立・日本一への軌跡~/全日本選手権

1999.01.01
 1月12日、東京体育館に旋風が巻き起こった。優勝候補と目されていた、全日本選手権・混合ダブルス前回覇者の坂本(青森大)・福原(グランプリ)ペア。連覇の夢をもろくもついえさせたのは、2人の大学生、足立・福岡(日大)ペアだった。王者を破り沸き上がる歓声の中、2人はお互いをたたえ合い、成し遂げたことの大きさを改めて実感していた。

 今回の優勝には布石があった。正月返上で行われた10日間の合宿。前半は基礎練習、後半は各自課題を見つけ克服する練習プログラムが組まれた。足立は自らの課題を「安定性の向上」と定め、ひたすら自分を追い込んだ。厳しく、密度の濃い10 日間。合宿で得たものは大きかった。足立は確かな手ごたえを感じていた。
 パートナーの福岡とはペアを組んで2年目。大会前、一緒に練習したのはわずか4日間だったが、コンビネーションは昨年よりもさらに磨きがかかっていた。今大会は組み合わせもよく、「自分にとってチャンスだった」(足立)。試合前、冗談で「優勝いけるんじゃない?」などと2人で話していたが、その言葉が現実になるとは、言った本人達も想像すらしていなかった。

 迎えた大会当日。2人の強さは圧倒的だった。福岡の変化に富んだ打球でチャンスメークし、足立の強打で決める理想的な攻撃パターン。「組んでいて気が楽だった」(福岡)。まさにあうんの呼吸で、相手のペースにさせないまま次々と勝ち進んでいく。「積極性が出ていた」(平岡監督)。合宿の成果は確実に動きの良さに表れていた。「組んでみて(足立は)調子がいいんだなあと感じた」(福岡)。試合をこなす中で、足立自身の調子もどんどん上がっていった。
 破竹の勢いで勝ち上がる中、唯一つまづいたのが準々決勝だった。相手は渡邊( 東京アート)・藤井(サンリツ)ペア。前の試合で昨年準優勝の渡辺(シチズン時計)・東郷(日立化成)ペアを3-0のストレート勝ちで破ったダークホースだ。試合開始早々、5-11、5-11となすすべなく2セットを先取され、いきなり後がない状況に追い込まれてしまう。「このままずるずるいっちゃうかも」(福岡)。しかし2人は崩れなかった。第3セットを11-5と点差を付け奪い返す。続く第4、5セットは拮抗(きっこう)した展開になったが、12-10、11-9と連取し逆転。3-2で相手を下した。この1戦で手綱を締め直し、続く準決勝は「うまく戦えた」(福岡)。終始優位に試合を進め、セットカウント3-1で阿部(一)(早大)・阿部(恵)(青学大)ペアに勝利。残すは決勝のみとなった。

 「決勝の相手は愛ちゃんになるだろうなと思っていた」(足立)。予想通り順当に勝ち上がってきた前回の覇者、坂本・福原ペア。大勢の観客・マスコミが見守る中、戦いの火蓋は切って落とされた。
 2人に気負いはなかった。今までの試合同様、積極的な攻撃で相手を圧倒する。「イメージしていたより戦いやすかった」(足立)。福原の弱点であるフォアを攻め立て、ミスを誘う。福岡の変化するブロックによって返ってきたチャンスボールを、足立が力強いドライブではじき返す。足立のサーブも冴え渡り、甘いコースに来たレシーブを福岡がしとめる。坂本・福原ペアも粘りを見せるものの、2人の勢いを止めることはできなかった。徐々に点差を付け引き離していく。
 ポイントを奪う度に沸き上がるギャラリーからの声援も2人を後押しした。「すごい応援だった」(福岡)。明治・日大側の声量は、相手側の応援より遥かに勝っていた。プレー・応援共に相手を圧倒し、迎えたマッチポイント。福原のレシーブがオーバーし、決着。3-0の完璧な勝利だった。瞬間、会場内に巻き起こった驚き・興奮の大歓声が2人を包んだ。「本当に嬉しい。最高。」(足立)。いつもはクールな足立も、この時ばかりは喜びの表情を隠せなかった。高々と拳を掲げガッツポーズ。こぼれた笑顔からは、偉業を成し遂げた達成感が垣間見えた。

 今回の優勝は卓球史にいつまでも記録として残る。「全日本のタイトルは本当に自信になる。この流れを次につなげたい」(足立)。「(優勝という結果は)他の部員達にとっても刺激になるだろう。これでチームがいい方向にいってくれれば」(平岡監督)。常勝明治の1年間は最高の形で幕を開けた。