連載 Rowing to InterCollege 第2回

1999.01.01
各務結揮(商3)男子舵手付きペアクルー
 「高校と大学は全く違った」――。各務にはそんな勝てない今までをずっと支えてくれた存在がいた。そして結果が求められる最上級生となるためにも…またそれ以上に「支えてくれた人のために勝ちたい」からこそ、今大会へ懸ける思いは強い。やわらかい笑顔の下に隠れた闘志を暴き出す。

支えてくれた人の思いを乗せて
 「(各務は)3年で伸び悩んでいて、最上級生になるこれからは結果を残していないと下はついてこない」(角監督)。監督の厳しい言葉からは、インカレでの変ぼうを強く期待する愛情が感じられた。
 各務は中学時代、弱小バレー部に所属していた。しかし「勝ちたい!」との気持ちが徐々に膨らんでいき、ついには「岐阜でも全国に通用するスポーツ」を求めて名門ボート部がある加茂高校へ進学を決める。高2の夏にインカレでダブルスカル準優勝を飾り、「努力が結果につながることを学んだ」と自信を胸にした。そして「明治で伸びてこい」と元顧問に背中を押され、日本一を目指し明治大学端艇部の門を叩く。
 しかし1年次には勝てない試合が続き、高校と大学のレベルの差を痛感。部内でも「勝てないと自分の存在が認められない。もうつらくて辞めようと思った」と悔しさを味わった。そんな中でも続けようと思ったのは、「親の支えがあったから」。2年次の新人戦のエイト選考に落ち、泣きついた電話の向こう側から、「甘えるな!社会はそう甘くはないんだ」と父親に一喝された。その言葉が各務をどん底から奮い立たせる。どんな小さな大会でも応援に駆けつけ、支え続けてくれた両親のためにも「インカレでは勝つ姿を見せたい」。
 この3年間、各務はただ明治の勝利を横目で眺めていたわけではない。これまで培ってきたものを次につなげていくことで積み上げてきた努力は、今やっと芽吹いている。「今回のクルーには今までにない手応えがある。難しいことは考えないで、思いっきり力を出していく。この試合は絶対落としません」。そう語る各務の目に迷いはなかった。
 挫折を乗り越え一まわりも二まわりも成長した各務が、悲願のインカレ優勝の栄冠を手にすることはできるのか。支えてくれた人の思いを乗せ、こん身の力を込めてオールを漕ぎ出す。

◆各務 結輝 かかみゆうき 商3 加茂高出 177㎝・79㎏

◎各務’s スタイル◎
・その1☆
 苦しいときいつも支えてくれたという、音楽の存在。「東京には音楽があふれている。音楽にはとても感謝している」。ジャンルはロック・ジャズ・クラシックなど幅広く、ギターで友人とセッションすることも。オンとオフを上手く切り替えて、ボートの練習にも臨んでいる。

・その2☆
 試合前には、鼻で息を吸い込んで口で吐き出して、プラスを体内に取り込みマイナスを外に出すイメージをつくっている。そして「ジンクスだから(笑)」両親には絶対会わないそうだ。

・その3☆ 自称「目立ちたがり屋」の各務は、「とても話しやすい」(越智・商1)と後輩からも慕われているようだ。その笑顔を表彰台の上でも輝かせてほしい。

伊藤清剛(理工2)男子エイトクルー
 「人数が多いこの競技で、優勝したい」。6月、全日本選手権で男子舵手付きフォア優勝を果たし、堂々のエイトクルー入り。練習を開始し、クルー数の多いエイトの楽しさを感じている。文武両道でまじめ、欠点がないところが欠点かもしれない男が今、部のため自分のため、静かな闘志を秘めて動き始めた――。

パーフェクトGUY
 「パーフェクトGUY」―先輩である各務(商3)に伊藤(清)について尋ねるとこんな言葉が返ってきた。また、越智(商1)に聞いても「女だったら彼氏にしたい」。これは「すごい練習熱心」(杉谷主将・法4)な姿や「生田校舎は遠いのに、勉強も頑張ってる」(越智)という姿ににじみ出る人間性からだろう。また「(一緒に組めなくて)残念だった。けど、新人戦とか、あとのことを考えると今はケガを治すのに専念してほしいです」とお互い漕ぎの相性がいいと認め合い、現在は肩を故障している嶋田(文2)についても話し、部員思いの一面も見せた。
 そんな伊藤(清)がボートという競技を始めたのは中学生の時。小学校時代はカヌーをやっていたが、同じ場所で練習していたボートに憧れて始めたという。そして高校ではシングルスカルでインターハイ5位入賞という成績を残し、明治に入学。しかし、シングルスカルやダブルスカル中心に乗ってきたため、大学で大人数のクルーボートの難しさを知った。それでも「みんなが合ったときのスピード感とか、優勝したときの喜びが魅力です。それに人数が多い分、優勝したいという気持ちが強い」と逆にその良さも見つけた。
 全日本選手権では男子舵手付きフォアで優勝を果たし、今回のインカレクルーではエイトに抜てきされた。インカレでの目標はもちろん「優勝すること」。「4年生も最後なので。優勝するためには並大抵の気持ちで練習に取り組んでもできないと思うし、勝ちにもつながらないと思うので、きついところでモチベーションを高めて、みんなのためにできるかだと思います」。インカレでは2年生ながらもそう意気込む伊藤(清)がクルーを支え、活躍を見せてくれるだろう。そして今後、主力の選手になっていくのは間違いない。その一生懸命な姿勢と仲間思いの人柄で、明大端艇部を技術の面でも気持ちの面でも引っ張っていく、そんな存在になるはずだ。

◆伊藤清隆 いとうきよたか 理工2 佐沼高出 174cm・65kg

◎こぼれ話◎
 車が好きな伊藤(清)は、日曜日の夜から月曜日のオフには、レンタカーを借りて部員と海や遊園地へドライブに出掛ける。「あと戸田で遊ぶとしたら、ボーリングとか駅前の飲み屋に行きます(笑)」。遊ぶときは思い切り遊び、火曜日からの練習に気持ちを切り替えている。

越智達之(商1)男子舵手付きペアコックス
 「自分が在籍する4年間が明治黄金時代と言われるよう、頑張ります!」。6月の全日本選手権では伊藤(清)と同じく男子舵手付きフォアで見事優勝し、元気いっぱいな今最も勢いに乗る1年生だ。「ボートセンスがある」(角監督)と周囲からの期待も高い越智の魅力に迫る。

笑顔で強気な大物ルーキー
 「高校に入ったとき、ボートをやっていたら、推薦で大学に行けると言われて。それでボート部に入ったんです」。つまらない理由ですみません、と前置きをして、明るい笑顔を見せながら、越智はボートを始めたきっかけについてそう話した。小学校では野球、中学校ではテニス、と今までにさまざまなスポーツを経験してきた。高校で出会ったボートだが、長続きしない性格ゆえ、大学でも続けることになるとは思わなかったと言う。しかし、高校3年生の夏の県総体で、越智は奇跡的な勝利を収めた。まさか勝てるとは思っていなかった試合。インターハイ出場を決めたそのレースで、気持ちが変わった。「ボートをしていて良かったと思ったし、またこんなレースがしたいと思うようになった」。結局、高校から引き続き大学でも付き合うことになったボート。現在はボートコースがすぐ目の前にある明大端艇部の合宿所で、「24時間ボート」の生活を送っている。完全にボートと密着した環境で過ごすうちに、必然的にボートに対する考えは深くなっていった。「大学の4年間をささげることになるのだから、もったいなく過ごしたくない」。今ではそう語り、意欲を見せる。
 今年のインカレでは、男子舵手付きペアにコックスとして出場する越智。6月に行われた全日本選手権でも、舵手付きフォアでコックスを任され、優勝に貢献した。全国でもトップレベルのチームが集まった中での優勝によって、得たものは自信。練習中、上級生に厳しく指導されたこともあったが、大会を終えてみると、怒られることも大切だったと気付いたという。大きなレースを経験し、高まった意識は持続されている。「今までと違って、優勝した後にも燃え尽きなかった。意義のある優勝だったと思う」。そしてその意識は、今インカレに向いている。初めて挑む大舞台だが、越智に気後れはない。持っている力を十分に発揮してくれるだろう。
 そんな越智は、上級生からの信頼も厚い。「はきはきとものを言うところがいい」(各務・商3)、「艇の上でクルーのテンションを上げてくれる」(伊藤清・理工2)など、同じ艇に乗った上級生は、「いいコックスになると思う」と絶賛。また越智本人も、先輩クルーを尊敬してやまない。インカレで同じ艇に乗る高須(営4)について聞くと、「一言で言い表せないですね。人とは違う何かを持った先輩です。熱血ではないですが、秘めたものがあります。面白くて、すごい人です」と熱く語ってくれた。同じく各務についても、「考え方などがすごくかっこいい。人生の先輩です」ときっぱり。二人とも共通して、「大好き」だという。良好な関係を築いている様子の男子舵手付きペア。気合十分、互いへの愛情も十分で、インカレでは最高のレースに期待が懸かる。
 インカレでの目標は、優勝。しかし、越智の野望はそれで終わりではない。「全日本選手権で勝って、インカレでも勝って、10月の全日本新人選手権でも勝って。出る試合全部勝ちたいですね」。笑いながら語るのは、強気な目標。明るく上を目指し続ける越智の活躍に、大注目だ。

◆越智達之 おちたつゆき 商1 今治西高出 172cm・55kg

◎こぼれ話◎
 「もっとプライベートに突っ込んだ質問もしてください」と、取材にも積極的な姿勢を示してくれた越智。出身は愛媛県だが、なんと地元の友達と最近も頻繁に遊んでいるという。「高校の時の友達で、東京に進学している人も多いんです。オフの日は一緒に東京めぐりをしてはしゃいでいます。渋谷来たー!とか(笑)」。持ち前の明るさは、高校でも大学でも変わらない。その前向きな姿勢も、選手としての評価につながっている。

※ボートのポジション・コックスについては端艇豆知識で特集しています。ぜひ合わせてご覧下さい。

☆端艇豆知識☆
 舵手付きペア、舵手なしクォドルプル、舵手付きフォア…「舵手とは一体何なんだ?」と思う人も多いことだろう。そこで今回はこの舵手(=COX、コックス)を大紹介!

~艇の要・コックス~
 コックスは艇の最前か最後に乗っている、オールを持っていないクルーのこと。役目は舵手という和名の通り艇の舵を取り、また漕手の漕ぎ始めやその強弱など動き全てに指示を出す司令塔だ。自らのクルーを見ながら相手クルーも見て、臨機応変に作戦を立てていかなければならない。「コックスは集中力を切らさずに、少ない勝負所を見極めて指示を出さなくてはならないところが難しい。クルーのモチベーションを上げていくことにも気を配っている」(越智)。今大会には男子エイトの渡辺(文4)、男子舵手付きペアの越智、女子舵手付きクォドルプルの阿部(文3)がコックスとしてエントリー。阿部はマネジャーだが全日本選手権にもコックスとして出場している。
 漕がないコックスが乗る分艇が重くなるので、コックスには体の小さい人が向いている。しかし艇によってコックスの重さにバラつきがあると不公平なため、男子55kg以上、女子50kg以上と決まっている。もちろん重さは少ない方が良いのでコックスは自分の体重を男子55kg、50kgに合わせていく。自らの体重管理も大切なコックスの役目だ。

★次回予告★
 次回は部を支えるマネジャーを特します。選手たちが口をそろえて「この環境はマネジャーのおかげ」と感謝する、その裏にある彼女たちの努力とは?8月中旬掲載予定。