優勝特集(2) 挫折の果ての復活劇/小野竜也

1999.01.01
 優勝に貢献した選手をクローズアップする秋季リーグ戦優勝特集。第2回は今リーグ戦で優秀選手賞に選ばれた小野竜也(商3)に迫る。

 「小野!小野!」と代々木体育館にコールが鳴り響く。その真ん中に、早大戦シングルス3番手で見事勝利した小野の勝利をかみしめる姿があった。早大・足立相手に3-0のストレート勝ち。壊れるほど強く握り締めた拳、あふれ出る笑顔が、このリーグ戦での復活までがいかに苦しかったかを物語っていた。

 自信を失ったのは、8月に行われたインカレ準決勝・早大戦でのことだった。早大に2ゲームを連取され、後がない場面でシングルスが回ってきた。小野がもし負ければそれで終わりという状況、明大卓球部の期待すべてを背負っての試合。だが、勢いに乗った早大の主将・下山になすすべもなく点を積み上げられ、終わってみれば大差のストレート負け。3セット目に至っては、1-11とまったく歯が立たなかった。「思ったこと何一つできなかった……」。小野がゲームを落としたことで早大に敗北し、選手たちは下を向いてベンチを引き上げていく。
 試合後、体のケアなどをしながら休息をとる選手たちの輪の中に小野の姿はなかった。会場の外で、1人顔を覆ってたたずむ小野。「負けたのは自分のせい」と肩を落とす。だが、同時に自分自身の分析も始めた。「ボールの威力、スピード、戦術すべてにおいて負けていた。今まで、練習においても試合中においても甘さがあったのだと思う。この敗戦を、自分自身を見つめ直す機会にしたい」。悔しさの中にも見えた、向上心と自分を見つめ直す力。これこそが以前の小野にはなかったもので、後の復活への原動力になる。
 インカレ後、小野は次なるリーグ戦に向けて自分に課題を課した。「小さなことかもしれないけれど、きっとプラスになるはず」とまず早朝ランニングを始める。ルールの変更により9月からグルー使用が禁止になるため、道具もプレースタイルも一新。新しい道具とスタイルに短期間で慣れるために必死に練習をした。
 また、雪辱を果たしたいという小野の思いとは裏腹に、周囲からインカレの試合への非難もあった。だが「それだけ自分が期待されているってこと、周囲が応援してくれているってこと」と屈辱をバネに、リーグ戦への準備を着実に重ねていった。
 そして今リーグ戦では出場した4試合で全勝し、優秀選手賞を獲得。「明大の優勝に貢献できたことが素直にうれしい」と喜びをあらわにした。完全復活を見せ、自信を取り戻した小野だが、その真価が問われるのはこれからだ。また、このリーグ戦で4年生が引退し、最高学年として明大卓球部を引っ張っていく立場になるとともに、より結果を求められるようになる。見事な復活劇を見せ、これからの明大をけん引していく小野の新たな一歩に注目したい。

◆小野竜也 おのたつや 商3 仙台育英高出 173cm・70kg