連載企画「合掌」 第5回 磯﨑佐知恵
「魅せる演武をしていきたい」。笑顔になった時、頬(ほお)に浮き出る愛くるしい笑くぼ。褐色の肌、シャープな身体に背筋がピンと伸びた姿勢で明るく答えたのは今年、幹部として明大少林寺拳法部を牽引(けんいん)する磯﨑佐知恵(政経3)。戦う女として数々のタイトルを総なめにしてきた美しきアスリートはいつでも女性らしさを忘れない。
少林寺拳法の一般的な魅力と言えば、突きや蹴りなどの動作における迫力や会場内を包み込む緊張感である。その迫力に魅せられて門を叩(たた)く者も数多い。少林寺拳法を始めるきっかけは人それぞれではあるが、たいていが精神力強化や強じんな肉体を求めることが多い。数多(あまた)ある魅力の中で磯﨑が魅了されたのは「美しさ」だ。磯﨑の言う「美しさ」とは具体的に何か。人々を惹(ひ)きつけるような、華のある「魅せる」演武である。見ている人間に「きれい!」と思わせるような、女性らしいアピールを心掛けている。どんな状況であろうと、練習段階から技の美しさだけには気をつけ、自分にとって大事なものを忘れないようにしている。
そもそもなぜ美しい演武にこだわりを持ち始めたのか―。その答えは磯﨑の身体にあった。すっきりした肩にしなやかな背中、程よくバランスの取れた筋肉、強い足腰、それに柔軟性までをも兼ね備えた、万能型のアスリート体形なのである。自慢の柔軟さは、幼い時期からスポーツに携わってきたことで磨かれた。スポーツ一家に生まれ、物心ついたころにはスポーツにのめり込んでいた。小学校低学年から中学校にかけてバスケットボールに打ち込み、同時期に始めた水泳においては高校卒業までやり遂げた。このキャリアが現在の磯﨑を作り上げたということは言うまでもない。バスケットボールの経験から足腰の使い方が、水泳からは全身の柔軟性とバランス感覚、呼吸法が今にいかされているのだという。大学入学前までに、培ってきたものは、少林寺拳法において抜群の効果をもたらした。持ち前の柔軟さをもってして、簡単には真似(まね)できない磯﨑独特の美しい舞を繰り出すことができるのである。
高校まで水泳をやっていた磯﨑が突然、戦いの舞台を少林寺拳法に移したことに驚かされた周囲の人も多かったはずだ。なぜ少林寺拳法なのか?彼女がこの武道を始めようと思った最大の理由は「護身術を身に付けたかった」から。「女性だし、いつ襲われるか分からないでしょ?」とおどけてみせた磯﨑だが、そんな些細(ささい)な部分にも「女性らしさ」が見え隠れしている。これこそが彼女らしさなのである。どんな時にでも、たとえ無意識であろうとも女性らしさを欠くことはない。
2007年、今年は幹部として迎える年。ここまで成長することができたのは先輩の指導があったから。それが磯﨑にとって大きな影響力を持つこととなった。先輩の存在は自分自身を成長させ、同時に目標となっていった。自分も後輩の手本になるような存在にならなければならないのだと。磯﨑には1つの強い信念がある。それは「後輩の成長を見守ること」。幹部として、努力する姿、技の美学を伝える。最後の年だからこそ、伝えられることはできる限り伝えていきたい。「後輩は先輩の頑張っている姿を見ているはずだからあえて口には出さない」。決して口うるさくモノを言うタイプではないが、背中で見せていくのだ。それが後輩の成長につながる最も有効な手段であるということを信じて。
相手のことを本気で思ってあげられる優しい人間になることが磯﨑の現在の目標だ。「言いたくないことも言えるような、本当の意味での優しさ」を持てるように。これからも仲間に対する優しさを習得しようと模索しながら、同時に女性らしい美しさも探求していく。美しく「魅せる」演武で競技生活の集大成を懸けた闘いが幕を開けた。1年後、目標を達成した彼女が胸を張っていられるかはこれから始まる1年に懸かっている。「魅せる演武を目指します」。最後に力強く言い切ったその表情からは大きな自信がうかがえた。本当の〝磯﨑佐知恵〟を見せようという気迫は徐々に高まってきている。真価が問われる今年、より一層完成度の高いパフォーマンスを見せてくれるはずだ。1年後、「美しい」磯﨑は満面の笑みを浮かべてくれるに違いない。
◆磯﨑佐知恵 いそざきさちえ 政経3 小田原高出 160cm
◆主な個人成績
2004年11月 インカレ-女子段外の部 最優秀賞 磯﨑・中曽(法1)組
2005年5月 関東インカレ-女子段外の部 優良賞 磯﨑・中曽(法2)組
2005年11月 インカレ-女子初段の部 敢闘賞 磯﨑・中曽(法2)組
2006年5月 関東インカレ-女子三人掛けの部 敢闘賞 磯﨑・清水(文4)・中曽(法3)組
2005年11月 インカレ-女子三段以上の部 敢闘賞 磯﨑・清水(文4)組
※学年は当時
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