連載企画「合掌」 第8回 小澤晴太
一つの演武を創造し体で会得するまでの時間は約3か月。その演武を大会で披露できる時間は1回につき約2分。その儚(はかな)い時間をだれよりも輝かせたいがために練習を続けるのは、インカレで男子三段以上の部・優秀賞という偉業を成し遂げた小澤晴太(理工3)。練習前後に見られる小澤はきさくな“近所のお兄さん”という表現こそふさわしいが、練習中、演武中になると一変する。まなざしが鋭い“拳士”へとなるのだ。拳士・小澤の目指す先はインカレのみ。少林寺拳法の学生大会は年に2回しかなく、その内の1つである関東インカレでさえも「全国の力試しにしか過ぎない」と言い切る。体育会にいる以上、「賞を取りにいかねばならない。もっと練習を重ねて突き詰めていく必要がある」。
大会へのその強い思いは、陰と陽の両方を味わったから生まれたのであろう。高校時代、初段の部で全国5位。「初めての全国だしこの結果はうれしかった。まぐれかもしれないけど、当時の監督から(この好成績は)お前の実力からだって言われたよ」。だが大学入学後は、思うように結果を残せていない。レベルの高い男子三段以上の部などに挑戦し続けたので、実力が備わっていても賞を取れるまで達しない。監督やOBから「そろそろ賞を取らんとな」と叱咤(しった)されてきた。それは、大会で好成績を残すことこそ使命と考える小澤にとってつらいものであった。「言われなくてもわかっている。取りたいと1番思っているのは自分なんだ」。これまで積み重ねてきたものを捨ててゼロからのスタート。基本を見直すことから始めたのだ。お手本のような突き・蹴りは身についていたのだが、今まで足りなかったものを知った。それはリアリティー、本気で技をかけること。気合を込めて戦うと見る者へ迫力を感じさせることとなる。最初は、突き・蹴りの重さの大切さを知り、少しずつ体に覚えさせることから始まった。そして3年目のインカレ、長らくパートナーとして歩んできた曽山(農3)との相性もあって、男子三段以上の部・優秀賞を獲得。本人も予想していなかった出来事であった。「驚いた。何度も挑戦して思い入れのある部門で取れたことはとても価値あるものだった」。
全国で波乱を起こすこと2回。偶然を必然へと変えた勝因は、ひた向きに標準を当てて地道な努力を続けていたからだろう。次の目標は、まず“力試し”とされる関東インカレで男子三段以上の部・最優秀賞。そして、その後のインカレで行われる演武こそが彼の勇姿を残す最後のひのき舞台だ。わずか2分の夢舞台が小澤を待っている。
◆小澤晴太 おざわせいた 理工3 川越東高出 164cm・57kg
◆主な個人成績
2006年11月 インカレ-男子三段以上の部優秀賞 小澤・曽山組
※学年は当時
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