連載企画「合掌」 最終回 土岐卓

1999.01.01
 「この部に入ったことで自分の性格が変わりました。入部したてはモジモジしていたのですが、今では積極的になったなと実感しています。自分の代は2人しか部員がおらず、自分からどんどん監督やOBに接していく必要がありました。でも2人だけだったのは寂しかったです。同期が多くいれば、もっと楽しかったのかもしれないとつい思ってしまいます」。
 土岐とともに少林寺拳法部の門をたたいたのはわずか3人。当時はスパルタ指導が続き、耐えられなくなったそのうちの2人は早々に退部してしまった。その後、主将として部を引っ張ることとなる土岐もまた例外ではなかった。
「実は1度辞めたことがあるんです。それからはジムでボクシングに打ち込んでいました。だけどある日、ジムから帰る途中で先輩に見つかって『戻ってこないか』と言われまして。そして、悩んだ挙げ句また少林寺拳法をやることにしました。でもこの1度の退部は後々も負い目になってしまいましたね」。
 部へ復帰することになった土岐は、だれよりも練習に力を入れた。失ってしまった時間を取り戻すために。1年時では練習だけに一生懸命打ち込むことができたが、学年が上がりやることが増えると同期1人ということがネックとなってきた。
「2年生が二人しかいないので、新歓活動はかなり忙しかったです。新入生へ少林寺拳法部を紹介するビラを400部も作ったりして…。お金の出費も激しかったです。そんな自分たちを支えてくれたのは1個上の先輩方です。陰でサポートをよくしてくれまして、本当に感謝しています」。
 部員二人でやれることは限られていた。そんな中、土岐がやりたいことをできたのは1学年上の先輩たちの存在が大きい。
「一番楽しかったのは、3年生の時の合宿。先輩のおかげで好き放題させてもらえて、指導方針をつくっていました。大変でしたが、その分達成感がとてもありました。海辺での走りこみ中には、気持ちが高ぶってしまいまして、『お前ら付いて来いよ』と言って思わず海へ潜っちゃいましたよ(笑)」。
 部員のだれよりも出部し、だれよりも努力を重ねてはきたものの、成績は思うように振るわなかった。それは、消すことのできないブランクというものが足を引っ張り続けていたからだ。OBからも「お前は確かにうまい。半年前にそのレベルだったら賞を取れてたんだけどな」と言われていた。

 しかし、彼の努力は成績には残せないものであったが、無駄ではなかった。一度辞めた男が主将に選ばれたのだ。

「(主将に任命された時は)本当にうれしかった。自分を押してくれたのは監督でもOBでもなく、1個上の先輩たちでした。一番自分のことを見ている先輩たちだからこそ、とてもうれしかった。1度辞めたことがある人が主将になるのも変な話ですけど、その分努力しましたし、一生懸命やっていたことが認められた気がしました」。
 伝統ある少林寺拳法部の主将に選ばれた土岐は、かつて先輩たちが作ってくれた部を壊したくはなかった。
「後輩に嫌われても、部を守らなくてはならない。大切だと思う考えや伝統を次の世代に受け継がせ、見本となる事が自分の責務でした。そのために最後の一年間のすべてを捧(ささ)げました。そうした中で得られたものは自分にとってかけがえのない財産になりました。また、後輩も自分の気持ちについて来てくれて本当に感謝しています」。
 だれも練習をしていない閑散とした道場に訪れた土岐。以前張られていたテープの跡、「少林寺拳法部」と書かれた看板。その一つ一つが少林寺拳法部で過ごした4年間を彷彿(ほうふつ)させる。
 「少林寺拳法部に入部したことで人の輪が広がった気がします。だれかに教えられる訳ではなく、自分から学んでいく姿勢を学べました」。
 最後に「合掌」をして道場に別れを告げた。
土岐前主将から送る、かつてを共にした部員あてのメッセージ(※学部学年・役職)

・清水澄子(文4・前主務)へ
「卒業しても頑張ってください。今まで迷惑をかけてしまい本当にごめんなさい」
・杉田将平(理工3・統制)へ
「2年間連続の統制ですが、責務を全うしてください」
・小林昭洋(理工3・主将)へ
「主将としての使命感をもって頑張ってください」
・中曽のぞ美(法3・会計)へ
「部の会計状況をどんどん良くしてください」
・磯崎佐知恵(政経3・渉外)へ
「渉外を2年ともなると慣れていくと思うので、そのスキルを後輩に伝えるようにしてください」
・山上真季(営3・副将)へ
「主将のストッパーとして、主将も後輩も支えていってください」
・曽山直人(農3・主務)へ
「主務は大変でしょうけど、できるはずなので頑張ってください」
・小澤晴太(理工3・副将)へ
「もっと自分に対して厳しく練習していってほしいと思います」
・2年生へ
「(新)3年生として。人の前に立てるような姿勢と努力を身に付けて頑張ってください」
・1年生へ
「もっと練習に来てください。2006年度は残念だったと思いますが、これからは新しく入って来る1年生のお手本になってください」

◆土岐卓 ときすぐる 法4 金沢高出 159cm・61kg