夢のパリ五輪へいざ 松山陸×佐野秀匡監督/特別インタビュー

2024.03.16

 3月17日から、国際大会代表選考会(パリ五輪選考会)が開幕する。明大からも多くの選手が出場し、おのおのの目標に向かって8日間にわたる大会に挑む。中でも、松山陸(商4=春日部共栄)はこれまで背泳ぎ種目で結果を残してきており、今大会でも好成績が期待される。そんな彼の4年間は決して順風満帆なものではなかった。苦難の時期を乗り越えた背景には、明大水泳部競泳部門を指導する、佐野秀匡監督の存在があった。二人三脚で夢のパリ五輪へ。その切符をつかむための道のりを伺った。(この取材は2023年12月19日に行われたものです)

 

――これまでどのように競泳を続けられてきましたか。

松山陸(以下、松山):元々そこまでレベルの高い選手ではなかったのですが、レベルが低いところからのスタートだったので順調に毎年ベストタイムを更新できていました。高校生まではスランプを知りませんでしたね。順風満帆な水泳生活だったのかなと思います。

 

――復活して水泳のことは好きになれたっていう感じですか。

松山:苦しい時期も、好きだからやめないで続けられてたんで、嫌いになったわけではないのですが、心から楽しめていなかったなとすごく感じています。ベストもたくさん出ているのですごく楽しいですし、前より好きだと思うようになりました。

 

――入学してから今までを振り返っていかがですか。

松山:僕は元々佐野監督の下で練習してるわけではないんです。大学1年生はいい結果を残せたのですが、大学2年、3年生の時期はあまり思うような結果が出なくて苦しい時期でした。なかなか思うように練習もできなくて、苦しくて、水から逃げてしまう部分が多かったです。そこでちょっと環境を変えようということで、佐野監督の下でお世話になるようになりました。大学3年の夏以降も、ブランクがある感じで、かなり落ちちゃったなというふうには感じていました。ですけど一生懸命練習して、どん底からはい上がってこれたのは佐野監督のおかげです。監督からは『上に連れていく』と言っていただいているので、このまま突き進みたいなと思っています。

 

――佐野監督から見て、松山選手の大学時代はいかがでしたか。

佐野監督:勧誘して明治に入ってもらったのですが、入学した時からもちろんレベルが高く経験も豊富にある選手だなと思っていました。1年生の全日本学生選手権(以下、インカレ)では、100メートル、200メートル背泳ぎ共に優勝して、これからぐっと伸びるのではと期待はしていました。しかし本人が言っていたように、2年生、3年生と少し低迷していて、本人とも何回か話をした時には、うまく練習ができていないということを聞いていました。『それなら環境を変えてしっかりやればいいんじゃないか』ということで、3年次のインカレが終わってから、一緒に練習するようになりました。最初見た時に相当落ちていた部分があったのと、本人も言っているように水泳に対して積極性というか、楽しめていないという感じがしました。ただやっているだけのような印象ですね。そうではなくて『水泳が好きだという気持ちを取り戻して、一緒に1年間頑張っていこう』と話しました。春のユニバーシティゲームスの代表権を勝ち取った時、今後社会人になってからもどうするのかというのを2人で話をして、オリンピックを一緒に目指していこうと。僕もなかなか、このようないい選手に触れ合うことはないのですが、松山とだったら一緒にオリンピックに行けると思っています。

 

――卒業後も続けたいというのはどちらからお話が出たのですか。

佐野監督:卒業後も続けたいと言ったのは、松山自身ですね。僕から『やりなさい』とは言わないので。今後どうするか、3年生の秋に全員と話をするのですが、その段階で松山の方から結果を出したら続けたいと聞きました。『続けるのであればオリンピックに行きたい』と言われましたね。

 

――最初から佐野監督の下で続けようと決められていましたか。

松山:就活をして社会人になるのか、このまま水泳頑張るのかというのを考えないといけない時期に、ジャパンオープンがありました。それを今後どうするのかをはっきり決めるための大会にしようと思っていました。でもそこでは思うような結果が出なくて、一度水泳をやめると監督に話して、もうおしまいにするみたいなことは考えていました。ですがそこで監督から『中途半端なのにやめていいのか』と言っていただきました。『せっかく小さい時から頑張ってきたのに、夢のオリンピックに手が届きそうなところまで来たのに』と。そうやって監督が僕のことを信じて声を掛けてくれているので、佐野監督の下で頑張りたいと強く思いました。それに、水泳が楽しくて好きで始めたのにそれを忘れてただただ苦しい2年間を過ごしてきましたが、学校練習に加わってからはすごく毎日楽しく練習をさせてもらっています。苦しい競技の中で楽しいと感じて練習できると、練習のレベルが上がって、パフォーマンスも上がると感じています。自分にすごく監督が合っていて、当初はここでやりたいと決めて加わったわけではないですが、練習していくうちにここでやりたいと思うようになりました。

 

――卒業後のスポンサーに銀座千疋屋さんがついておられますが、どういう経緯でしたか。

佐野監督:日本選手権で代表に入ればスポンサーをなんとかすると、探してくるというのは本人とも約束をしていました。銀座千疋屋さんには明大のOBで専務をやられている方がいまして、その人に相談したところ、ぜひということで。先方から言っていただいたので、話が進んだというような感じですね。

(写真:レース前、佐野監督に鼓舞される松山)

 

――佐野監督から見た、松山選手の強みを教えてください。

佐野監督:泳ぎ自体はすごく伸びのある泳ぎで、持久的な能力に関しては小さい頃からしっかり練習してきたのだと思うのですが、しっかり持っていますね。後は伸びしろがたくさんある、水泳選手の中ではかなり細身できゃしゃな体なのですが、スピードを出せる力を持っているというのが強みかなと思っています。私も選手だったので、大学に入ってからウエートトレーニングなどをしっかりやって、体重を10キロぐらい増やしてスピードもつけてどんどん速くなっていきました。彼はそれを大学4年間で全くやらないでここまで来ているのでまだまだ伸びしろがたくさんあると思っています。まだこれから成長できる部分がたくさんあるにも関わらず、もうすでに日本のトップレベルまで来ているということは、本当に世界を狙える素質があるのではないかと、彼の3年次に思いました。練習を見ていてもできないことも多かったですし、例えば重たいものを引っ張るとかですね。 後は練習の一番苦しいところでもう1本頑張ろうというのもあまりできないタイプでした。ですが、継続することを大切にして今は本当に部員の誰よりもそういう練習に強くなっています。ウエートトレーニングも本格的に始めたのは4年次の秋からなのですが、かなりできるようになってきて体つきも変わってきました。こういった成長具合がやっぱりまだまだ伸びるという見込みをさらに確信に変えましたね。

 

――そういった強みを持っている松山選手には今後どのような選手になってほしいですか。

佐野監督:松山だけではなくて明大の水泳部員には全員に言っているのですが『水泳だけではない』と。『人として、大学生活の過程で人格を形成して、かつ競技力を向上させなさい』ということを言っています。陸にも今後社会人になって水泳を続けるのであれば、周りから応援されるような選手になりなさいと言っています。感謝の気持ちを忘れずに、周りから応援されるような選手になってもらえると僕は期待しています。

 

――松山選手自身はどういう選手像を目指していらっしゃいますか。

松山:監督がさっきおっしゃっていたようにラスト1本頑張れなかったり、ちょっとしたところで気が抜けてしまったりする部分が多かったのですが、最近はすごくいろんな人に応援してもらえているということを実感しています。自分1人で水泳をやっているわけではないので、応援してくれている人たちの力もパワーに変えられる、速い選手になりたいです。

 

――パリ五輪に向けての取り組みを教えてください。

松山:課題がたくさんある中で、陸上の筋トレがすごく苦手なので、監督と一緒にウエートトレーニングをして筋力アップを一番メインにしています。入江陵介(イトマン東進)さんなどにも泳ぎの部分のアドバイスをいただいています。泳ぎの質が上がるように頑張っています。

 

――レース前はどのように過ごされていますか。

松山:招集所まで監督が話しながら見送ってくれます。いち選手としては明大の最終調整は監督の鼓舞だと思っていて『いけるぞいけるぞ、信じろ信じろ』と言っていただいています。メンタル面でもブーストがかかるような感じなので、僕の中の最近のルーティンなのかなと思っています。

 

――佐野監督の下で特に成長した点を教えてください。

松山:水泳を楽しむという意識が一番大きく変わったのかなと思います。元々水泳は楽しくやってきたのですが、それ以上に水泳は楽しいものだと思い出させてもらいました。

 

――監督から見た松山選手の成長した点を教えてください。

佐野監督:さまざまな面があると思いますけど、水泳に対する取り組みが真面目になりましたね。今までは水中練習だけやっていればいいのかなみたいな感じでした。陸は3年生から4年生になるぐらいまで見ていて、やるべきことをやっていたりやっていなかったりという感じではありました。ですが今シーズン、オリンピックに向けて始まってからは、これをやった方がいいよというのを日本代表のトレーナーなどから聞いたことに関しては何を言われることもなくしっかりやるようになりましたね。1年ほどですごく変わったなと思います。1人でちゃんと言われたことを黙々とやっていたので、こういうところは本当に成長したなと思います。これからさらにレベルアップできると感じています。

 

――今後も二人三脚でやっていかれると思いますが、意気込みをお願いします。

松山:目標はオリンピックでメダルを取るということで、なかなか達成できない高い目標だと思っています。ですが監督からは『信じてついてきてくれれば上に連れていく』と言っていただいているので、僕は監督を信じて突き進みます。

佐野監督:選手との出会いというのは本当に特別なものなので、陸に出会えたことが僕の水泳、監督人生を変えてくれたと思うし、さらにもっともっと上の世界が見られると思っています。彼と一緒に夢を追いかけて、自分が選手でオリンピックに行けなかった分、選手をオリンピックに連れていって自分もオリンピックに行きたいという夢があります。その先にはオリンピックのメダルというのも一番の目標に掲げているところではあります。彼の夢がそうであるとともに、僕の夢でもあるので、2人でかなえられたらいいですね。

 

――ありがとうございました。

 

[中川美怜]