
樋口新葉選手インタビュー拡大版
8月1日発行の明大スポーツ オープンキャンパス特別号の1面で、北京冬季五輪の本番のことや試合に臨むまでの過程などをお話しくださった樋口新葉選手(商4=開智日本橋学園)。紙面ではやむを得ず割愛したインタビュー部分を掲載いたします。
(この取材は7月13日に行われたものです)
――北京冬季五輪に出るまでの4年間を振り返っていかがですか。
「最初は『4年後なんて絶対無理だ』と思っていて、4年後に自分が五輪になんて、下の世代も同世代もどれだけ上にいっているか分からないという不安もありました。でも、それも一つ一つの積み重ねで、一年一年をどのように過ごしていくかだったり、今シーズンはここを目標にしていくなど、だんだん近づいていったときに『これならここまでできるな』、『もっと追い込めることができるかな』などと考えながら練習をしていて、自分が五輪に出たいと本当に強く思ったのは1年前くらいでした」
――周りの選手のことも気になりますか。
「そうですね。昨年の五輪シーズンに入る前まではとても周りのことを気にしてしまっていましたし『自分この人と比べてぜんぜんできてないな』と思ったりして、そういうことばかりでした。でもそんなことを気にしていても意味がないというか、もちろん他人と比較することは大事なことでもありますが、自分がこうなりたいと思っているのに他人と比べて何になるのだろうと思って。そこからは自分ができることを最大限に生かしたいし、それをやって負けてしまったらそれはもう仕方がないし、ただ自分ができることを最大限にやってから他人と比べて自分に何が足りないかを考えることでまた次のステップに進めるのかなと思うので、基本は他の人のことよりも自分のことを考えて、それをやってから他の人と比べるようになったかなと思います」
――五輪の舞台に立った時、どのようなことを思いましたか。
「とても怖かったですし半端ない緊張感だったので、今でも自分がそこで滑れたのが信じられないくらい、地に足がついていない感じがしました」
――会場の雰囲気にのまれそうになったりしましたか。
「絶対にそうなると予想していて意識もしていたので、そういうものだと思って全てを受け入れて滑るようにしました。もちろん対策もしていましたし、どういうメンタルで持っていくかも考えていたのですが、経験したことがない舞台なので対策も分からなくて。ただ自分なりにどうしたらうまくいくのか考えながら生活をして、いざそこに立った時に『ああこんな感じなんだ』と思いながら滑れたので良かったなと思います」
――本番はいつも通りの状態で臨めましたか。
「いや、全くですね。3週間くらい北京にいたのですが練習時間は1日35分ほどしかなくて。ただみんな条件は同じなので、どうしたら自分がうまくパフォーマンスを出せるかを考えながら、自己管理を大切にして、自分がどのタイミングでご飯を食べてどのタイミングでトレーニングをして、どのタイミングで寝るのかなど、そういったことまで考えながら生活をしていて、そこまで考えていたからできたと思いますし、その場所での最大限は出せたかなと思います」
――五輪以外でも自分が初めて訪れる場所で試合をすることがあると思いますが、そのような状況で力を出すためにどのような対策をしていますか。
「私はそういうときはやはりメンタルかなと思いますが、もちろん試合前だったらどんなときでもどんな場所に行くときでも、いつも通りの練習やいつも以上の練習をすることは変わらないですね。海外に行って試合をするときは、自分がどれだけその国の人たちの印象に残るか、どれだけ覚えてもらえるか、そういうことを考えてしまうタイプなので、そこの地で滑っている自分を見てそこにいる人たちにこう思ってほしいなというのを考えながら滑ったりしています」
――日本と海外だと感じ方は異なるのですか。
「日本の言葉で話してくれているのを聞くと、その人がどう思っているかなどを感じやすいのはあります。海外に行ったときに言葉が分からないこともあるのですが、そういったときに、言葉なしでも伝わるような拍手だったり応援だったり、そういうのがとても伝わるので、そういうのを通じて自分がこんなふうに思ってもらっているのだなと感じたり、それがうれしいから次もそうしたいなと思うので、言葉だけではないなというのは思います」
――試合前のルーティンについてお話いただけますか。
「私は試合のときに、コーチと目を合わせて深呼吸を3回して1回しゃがんでから出ていくというルーティンがあります。ルーティンは私も大切にしているのですが、なんで大切かというと、どんなときでも自分の軸をぶらさない、それだけやったらとにかくそこはぶれてないからと思えるし、安心材料になるかなと思うからです。どんなことでもいいのですが自分のしていることに対してルーティンをつくることで、一度落ち着くことができるかなと思います」
――ルーティンはどのようにして決まりましたか。
「集中するのに深呼吸が必要で、先生に小さいときからずっと『深呼吸3回してから出ていきなさい』と言われていたのでずっとそうしていました。私にはそれが一番合っていて一番落ち着けるし集中して出ていけますし、先生と通じることができるのですごく大切な時間です」
――ルーティンの大切さを感じたときはありますか。
「私は試合に出ていくときに緊張してしまうので、気持ちを落ち着かせることだったり、自分が自信をもって取り組んできたことを一旦その場所でその時間に一瞬でもざっと考えて、深呼吸しながら『ここを気を付けなきゃいけない、今日はこういう気持ちで試合に臨みたい』と思いながら出ていけるので、大事にしていることで大切だなと思うところです」
――コーチの方はどのような声掛けをしてくださるのですか。
「ルーティンのときは目を合わせて言葉は何も発さないのですが、ルーティンに入る前は、いつも自分が自信に満ちあふれるような言葉を掛けてくれて。『今までこれだけやってきたし、あとはそれを出すだけだから』と、その言葉を最後に言ってもらうことで大丈夫と思えますし、自信を持って本番に臨むことができます」
――「ここまでやってきたから」というのがあって初めて自信を持つことができますか。
「絶対にそうだと思います。これだけやってきたし、試合の直前までそれを崩さなければ絶対大丈夫ですし、もしそれができなくなったとしても他のことで補えばいいので、その対策も考えながら練習や生活をして、もうここまでやったから大丈夫と思ったその先まで考えて、貯金を使うみたいな感じにしています」
――明大で過ごしてきていかがですか。
「自分も含めて個性的で、自分を持っているなという人はたくさんいると思っています。自分のやりたいことを極めることができたり、学びたいことをどのように学んでいくかなどを考えることができたりします。また相談窓口も充実していると思うので、そういった意味で自分がやりたいことを大切にできるところがすごくいいところだなと思います」
――明大で関わる人から受けた刺激はありますか。
「同じ部活の人だけではなく他の部活の子と関わる機会があるので、それこそ明スポの新聞を読んだりツイッターやインスタグラムなどを見たりして『こんなことがあったんだ』『この人こうやって頑張っているんだ』と知ることができます。それをモチベーションに変えて自分もこういうふうにしたいと思えるようになっているので、それはすごく大きいかなと思います」
――1年生の時のことを振り返ってみていかがですか。
「大学に関しては大変だったなという記憶が多かったです。高校から大学に行くといろいろなことが変わるし、自己責任で自己管理しなければいけないところが大変でした。どんなふうにして要領よく授業を受けていくかというのも考えましたし、それがあったから2年生から4年生までうまくいっているのかなと思います。友達の助けや周りの人の支えもあったと思うのですが、いい経験になったなと思います」
――和泉キャンパスや明大前周辺で好きな場所はありますか。
「今は工事をしていて入れなくなっているインターナショナルラウンジです。あとは食堂とメディア棟にはかなりいたかなと思います。明大前周辺だと、コヒヌールですかね。チーズナンがおいしいです」
――和泉キャンパスからも程近い下北沢のカレー屋さんに行くというお話を伺いました。
「『茄子おやじ』さんですね。店主の西村さんが連絡をくださっていつも応援してくださるのでうれしいです。よく食べるのがスペシャルカレーで、ビーフや野菜など全て入っていてゆで卵も乗っています。いつもそれのご飯少なめを食べています。カレーがおいしいのでお店に行くのですが、西村さんがとても応援してくれるところ、お客さんと店員の人みたいな関係ではなく一緒にいられる感じがあってとても落ち着くので好きになりました」
――最近のマイブームはありますか。
「神宮球場に六大学野球を見に行っていました。硬式野球部の子と仲良くさせてもらっていて、授業で会ったりもしますし遊ぶ仲でもあるので見に行って応援しました」
――息抜きには何をしますか。
「死ぬほど寝るか友達と遊ぶか温泉に一人で行くかですね。温泉は調べて都内の銭湯に行きます。サウナにも入るので、銭湯とサウナが両方あるところに行きます。サウナを極めているわけではないのですが、汗をかきたいときやすっきりしたいときはサウナに入ったりしますし、体の流れがあまり良くないときは汗をかいたら元通りになったりするので使います。『絶対この温度で! 』みたいなものはないです(笑)」
――今の趣味はありますか。
「洋服を見るのが好きなので、調べてみたり買ったりしています。(趣味にトランペットを挙げていたことがあると思います)今も吹きますし習っています。いろいろなことをした方がいいですよ(笑)。すごく真剣にやるというよりかは趣味としてやっていて、気分転換になります。そこまでうまく吹けないですけど、今はリストの『愛の夢』を練習しています。自己満足でやっているので人前では絶対に吹きません(笑)」
――スケートの練習の計画はどのように立てていますか。
「練習に関してはとても細かく設定していて、もともと自分の目標もありますし、目標を達成するために何をすればいいのか、小さく小さくして目の前のことから達成できるようにしています。自分の練習が朝昼晩1時間ずつあって、その中で今日の朝の1時間はどういうことをしてどのように夜につなげていくかを考えながら生活をしています。一つの自分の大きな目標に対して小さな目標をどんどん積み重ねていく、それをクリアしたときに大きなものがつかめると思うので、とてもこだわりを持って取り組んでいます」
――目標を軸にして練習するというスタイルになったのはいつごろですか。
「昔からそうだったなとは思いますが、自分も成長して考え方も変わってきて、その中でより自分がどういう風になりたいかどのようにしたらそうなれるのかを細かく細かく考えられるようになりましたし、そういった余裕が出てきたと思います。小さい時は自分の親やコーチから言われてきたことただやるだけでしたし、自分がなりたい姿ややらなければならないことを親やコーチが設定してくれていました。大学も同じだと思うのですが全て自己責任でやらなければいけないので、自分で計画を立ててどのようにしたら目標を達成できるのかを考えることが今できているのかなと思います」
――立てた目標は頭の中で留めておくのか、それとも書き出したりするのですか。
「両方ありますね。時間がなかったりするときはそこまでできなかったりして、それこそ要領の話になりますが、そういうことはできるときにやるのでいいと思っていて。自分がぱっと思い付いた時、このようにしたほうがいいと思った時に書き出したり、いろいろ分からなくなってごちゃごちゃした時に書き出したりもしますし、それこそ五輪が決まる時、昨シーズン終わるまではずっとノートを書いていてそこに全て書き出していました」
――ずっと書こうと思った理由はありますか。
「自分の頭で思っただけだとなかなか体に入ってこないというか、書き出すことによって自分がどう思っているのかを整理できるので書こうと思いました」
――ノートを見返したりする時間もあるのですか。
「あります。調子が良くなったときと悪くなったときどちらもあるのですが、例えば自分の調子が悪かったときに調子が良かったときはどのようなことをしていたのか、調子が悪いときにどうなっていたのかなという感覚などを書いているので、そういうのを見ながら整理していって、自分がどのようにしたらいいのか、先生に聞きたいことなどを確かめています」
――ノートを書いてきて、良かったなと思ったことはありますか。
「自分がその時に思ったことが書いてあって面白いなと思いますし、どういう気持ちでここまで取り組んできたのか、昨シーズンは大事なシーズンだったので、そういうときに自分のモチベーションがどうだったのか、気分が乗らないときやできていないときにどのようにしていたのかを見返すことができるのでとてもいいなと思います」
――北京冬季五輪の際にも書いていたのですか。
「今までしたことがない経験だったので全てがとても新鮮に見えて、その一つ一つを『今日の練習はこうで、景色はこうだった』など感想みたいなのをつけていただけなので大したことは書いていないです。ですが、その時のワクワク感などはそういうところに書いていることで、見返したときに自分もあんな気持ちだったなと思えます。そして、このように思いながらやりたいなと思えるのではないかなと思ったので気が付いた時には書くようにしていました」
――スランプに陥ったことはありますか。
「何回かありました。ジャンプがうまく跳べるときの感覚が狂ってしまって、自分ではうまく跳べているつもりでも見てもらうと全くうまく跳べていなかったりして。自分の感覚が研ぎ澄まされていないときにスランプになりやすいかなと思います。気持ちの面ではとてもつらいですし『なんでうまくいかないんだろう、なんでこれじゃだめなんだろう』という気持ちでいっぱいでした」
――そこからどのようにして抜け出しましたか。
「別のところから攻めていったといいますか、スケートだけが全てではないので、1回スケートから離れることだったり、トレーニングの面で自分の体がどうなっているから跳べないのか、体の使えていない部分などを見直して、いろいろなところから見直したことが多かったかなと思います」
――なぜつらいときがあってもスケートを続けられているのですか。
「同じようにスケートをしている子、自分みたいになりたいと思っている子、もちろん同期もそうですし、みんな一つの目標に向かって頑張っていて、それぞれの目標に向かって練習して生活しているので、自分もそのようになりたい、そのようにしていかないといけないと思って。大学まででスケートを辞める人もいますしそのまま続けていく人もいるので、とにかくそこまでは継続して自分がやってきたことを続ける、けじめとしてそのように思うので、そこは変わりなく頑張りたいかなと思います」
――スケートをやる上において原動力になっているものはありますか。
「自分が思っている以上にたくさん応援してくれる人がいて、それは自分が知らないところまでたくさんいます。それもとても力になりますし、友達や親やコーチなど身近な人がとても応援してくれているのも感じて、伝えてもらって感じる部分もありますし自分が一緒にいて感じることもあって、それを大切にしていきたいですし、自分が頑張れる理由になっているかなと思います」
――最後に受験生に向けてメッセージをお願いします。
「私は受験を経験したことはありませんが、それなりに同じような空気感を味わったことや緊張する場面を経験してきました。とても不安になることがあると思いますが、それだけ自分がやってこられたと思えば大丈夫ですし、やってきたことをそのまま出せば大丈夫なので! 変に考え過ぎず、うまく自分のメンタルをコントロールしながら頑張ってほしいなと思います」
――ありがとうございました。
[守屋沙弥香]
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