(女子)樋口FS自己ベスト更新し総合2位 飛躍を遂げた明大勢/全日本選手権

 3日目は女子FS(フリースケーティング)が行われた。大混戦の上位争いを経て、樋口新葉(商3=開智日本橋学園)が総合2位に輝いた。佐藤伊吹(政経3=駒場学園)は今シーズンのFS自己ベストを記録し総合15位、松原星(商3=武蔵野学院)は総合16位、本田真凜(政経2=青森山田)は総合21位で全日本選手権を終えた。

 

◆12・23~26 全日本選手権(さいたまスーパーアリーナ)

 

(写真:総合2位に輝いた樋口)


 自身の思いを乗せた演技で、見る者の心を潤した樋口。冒頭でSP(ショートプログラム)では取り入れなかったトリプルアクセルを着氷させる。2本目の3回転の連続ジャンプは、GOE1.69を引き出す出来。その後もミスなく演技は構成通りに進んでいく。樋口はFSの『ライオンキング』で野生的な世界観だけを表現しようとしたのではない。「強くなって戻ってきた」ことをイメージして滑り、それを体現しようとしていた。演技後半、その言葉通りに躍動する。予定通りにはいかなかった5本目の連続ジャンプを6本目でリカバリー。リズミカルな音楽に合わせ楽しげで大胆な振り付けを踊る。観客からの手拍子も起こり、会場の盛り上がりは最高潮に。この舞台に立つまでに味わった気持ちを糧に、氷上を舞う樋口の姿に誰もが魅了された。華麗なスピンでフィニッシュを飾り、力強くガッツポーズ。温かいスタンディングオベーションに包まれながらリンクを出ると、こみ上げてきた思いが涙となって溢れ出た。「4年前とは比べものにならないくらいの力を発揮できた」。これまでの日々は、つらさも伴ったが精神的な成長をもたらした。強くなって全日本で最高の演技を生み出した。

 

 「今できることを全てやり切った」(佐藤)。観客だけでなく自身も湧かせる演技を披露した佐藤。冒頭からこわばることなく身体を使い、1本目の連続ジャンプを決める。流れを崩さずにスピンやステップのミスを抑え、演技後半に入る。観客の手拍子に呼応するかのように、表情の変化や躍動感は増し、勢いそのままに最後のトリプルサルコウも決めてみせた。終盤に向けて音楽の壮大さに負けない盛り上がりを見せ、演技が終わる直前から惜しみない拍手が起こった。「新しくしたプログラムを全日本で滑りたい」。この思いを実現させ、さらには今シーズンのFSの自己ベストを9点以上も更新。「過去最高の全日本でした」と会心の笑みを見せた。

 

 情緒溢れるピアノの旋律に身を委ね、持ち前のしなやかさを発揮した松原。冒頭のトリプルルッツを決めるも、2本目のフリップが「ダブルになってしまったのは悔しい」。だが、目標としていたノーミスへの強い意志が質の高い演技を導いた。3本目以降のジャンプを全て着氷させ、また、レベル4を取りこぼしたスピン・ステップはなかった。演技中「体力的にきついと思った」が、最後まで研ぎ澄まされた優美さで観客を引き込んだ。昨年度から進化を遂げた松原。ジャンプの改造、美しさを追求した表現、スピンやステップを絶対に取りこぼさないという意識。高みを目指した結果が、全日本の舞台で表われた。ここでの経験を生かし、残りのスケート人生を「悔いのないように」駆け抜ける。

 

 ややかたい表情でリンクに入った本田。冒頭の連続ジャンプをきれいに着氷させるも、2本目の連続ジャンプは抜けてしまう。それでも冷静さを保ち、中盤はミスのない演技を見せる。SPで抜けてしまったループも成功させた。後半では、しんみりとした曲調に合わせたステップを踏み、レイバックスピンで演技を締めくくる。両方でレベル4を獲得した。最後に一礼してリンクをあとにした本田。「もっと強くなりたい」という思いがこの先の原動力となるに違いない。

 

 多くの人の心を動かす演技を披露した明大勢。心からフィギュアスケートを楽しむ姿勢が、魅力溢れる素晴らしい演技につながった。スケーターにおける〝強さ〟の意味合いを体現し切った今大会。これからも人の心に響く演技を見せてくれる、その期待を感じさせる全日本となった。

 

[守屋沙弥香]

 

試合後のコメント

樋口

――演技後はガッツポーズから涙が見られましたが、演技を振り返っていかがですか。

 「本当に緊張で足が震えていて演技前も演技中も足の力が入らないような感覚の中で滑っていて、ジャンプがしっかり降りられるのかが不安なところもありました。でも本当に気持ちで乗り切って、落ち着いた演技で最後までいけたのでよかったなと思いました」

 

――4年前の悔しい気持ちもあったと思いますが、今回の演技にどのような気持ちを込めましたか。

 「オリンピックに挑戦するのが今回で最後だと思いながら、強い気持ちを持って臨んだ大会でした。また、今シーズンは全日本のためだけにずっと頑張ってきたので、ここで一番いい演技を出せたことは4年前とは比べ物にならないくらい力を発揮できましたし、精神的に成長したなと感じられる大会になりました」

 

――得点が出た時はどのような気持ちでしたか。

 「自分が目標にしていたのは140点だったので、それを大きく超えられたのが良かったのと、自己ベストで終えられたのでとてもホッとしました」

 

――SPを折り返した時点で、1点差の中に2位から5位の4人がいる状況で、過ごした2日間というのは、どのような気持ちでしたか。

 「こういう僅差でFSを迎えることになると思っていたので、誰が上にいってもおかしくないという気持ちで、とても緊張して昨日の練習も考えながら滑っていました。その中で自分は自分の演技をすれば点数を出してもらえるということを分かっていたので、周りを気にしないでしっかり自分の演技をすることを目標に頑張りました」

 

――この4年間大変なこともあったと思いますが、自分を支えてきた気持ち、原動力になった気持ちは何ですか。

 「この五輪シーズンということだけを考えると、4年前は本当に勝つことだけを考えて狭い気持ちの中でスケートに向かっていて、スケート本来の楽しさや面白さが感じられないまま試合に向かっていたり、そのままシーズンを過ごしていたりしていました。でもこの1年、2年くらいは本当にスケートに向き合ったというか、自分の中でスケートが楽しいというか、練習でつらいことはたくさんありますし、試合でも結果が付いてこなかったり自分の力が発揮できなかったりすることもありましたが、それもプラスに変えるような気持ちで今シーズンずっと戦ってきました。それが大きく変わりましたし、今回の全日本も五輪に行くことだけではないのがスケートだなと思って、結果が付いてきてもそうでなくても、良かったと思えるようにずっと練習してきたのでそれが出し切れたのがとても良かったと思います」

 

佐藤

――今シーズンの序盤はあまり調子が上がらない中、最高峰と言われる全日本にここまで持ってこられた理由は何でしょうか。

 「今まで全日本に4回出場してきても自分が完璧だと思えた演技がなかったのですが、今回は序盤がよくなかっただけに徐々に上げてきていたので、『今度こそは本当に力を出し切るぞ』という強気な気持ちでいたのが良かったのかなと思いました」

 

――今回の全日本を振り返って「今年の全日本は私にとってこうだった」と一言お願いします。

 「過去最高の全日本でした!」

 

――1月のインカレに向けて改善したいところなどはございますか。

 「シーズン序盤に予定していたFSのジャンプの構成よりは、今は少し落としてしまっていたので、時間がないですが、戻したいです。戻せなかったとしてももう少しジャンプの流れや幅を出すことで加点がもう少し取れると思っているので、そういう少しずつの積み重ねをしていい点数を出したいと思います」

 

松原

――今年度の全日本はご自身にとってどのようなものでしたか。

 「全日本は楽しみな試合でわくわくしますし、一番緊張します。この大人数のお客さんの前で演技するのがとても楽しみで、この全日本で滑ることができてとてもうれしいですし、来年も出られるように頑張りたいと思います。昨年と比べると、昨年はジャンプを跳べる自信がないまま跳んでいて常に不安な状態でした。今年は自分の中で『こうすれば跳べる』というのがつかめてきていて、だからこそそれを大会で出し切れないことはやはり悔しいという感じです」

 

――今回が4度目の出場となりますが、初出場の時に比べてこの4年間の成長をどのように捉えていますか。

 「順位はどんどん下がっていて、表面上だけで見たらどんどん駄目になっていると思われてしまうかもしれません。自分の中では初出場の時が一番動けていた時で、ピークだったのかなと思います。そこからしっかりと全日本を逃さず毎年出られている自分というのは誇っていいのかなと思っています」

 

本田

――今日はどのような気持ちでリンクの上に立ちましたか。

 「昨年の全日本の後からしばらくジャンプというものから離れていて、久しぶりに跳んだ時に本当にここまでジャンプが戻せると想像していなかったので、まずそこは自分にとっては良かった部分かなと感じています。SPでも3回転の連続ジャンプを決めることができて、数カ月前の自分だったらそれですごく満足していたかなと思いますが、練習の状態も含めて少しずつ前の状態に戻ってきていると感じています。アイスダンスの選手の演技も試合の前に見て、本当に涙が出るような素晴らしい演技で、皆さんの演技にとても感動しました。私もそのような演技、スケートができるようにしたいなとも思いました。また、久しぶりに『もっと自分はできるんだぞ』と、他の選手を見ていて、あとは練習の状態も含めて思えているので、来年もこの舞台に戻ってきたいです。本当に競技生活も後ろを数えた方が早いような年齢にもなってきているので、一つ一つの試合を大切に、スケートを続けるのなら完璧な演技を目指したいと思いますし、過去の自分を超えるような演技をしたいなと思っています」

 

――1月には明治大学の選手としてインカレにも出場されますが、今回の大会を踏まえてどのような練習をしていきたいですか。

 「最近は新横浜でよく練習しているのですが、関西の方が昔からの幼馴染みたいなお友達がいましたが、新横浜のリンクでは先生が一番の友達というような状況でずっと生活をしています。でも明大の選手は、練習リンクは違いますが、会うたびに優しくしていただくので、そういう先輩方の足を引っ張らないような演技をしたいなと思います。また、今回久しぶりに『ここをもう少し改善したいな』という細かい部分の改善点を見つけられたので、そこを練習して改善していけたらと思います」