世界選手権、ユニバーシアード直前インタビュー(1) 新倉みなみ

2017.07.13
 世界へ3人の選手が羽ばたく。7月15~22日には世界選手権OWS(オープンウォータースイミング)がハンガリーのバラトフレッドで、7月23~30日には世界選手権がハンガリーのブタベストにて、そして8月23~28日に全世界の学生が集まる大会・ユニバーシアードが台湾の台北で開幕する。
 今年は世界選手権OWSに新倉みなみ(理工2=東京立正)が、世界選手権には松元克央(政経3=千葉商科大付)が出場権を獲得。ユニバーシアード代表には新倉、松元に加え、仲家槙吾(政経3=八王子)が選出された。
 今回、新倉、松元には主に世界選手権、仲家にはユニバーシアードについて意気込みを語ってもらった。ここでは全3回にわたって紹介する。
 海や川、湖など自然を舞台に競い合うOWSで女子5km、リレーに出場する新倉。昨秋の日本選手権OWSで3位入賞を果たしたことにより、世界選手権への出場権をつかみ取った。競泳を続ける一方で、新たな道を切り開く彼女に迫った。(この取材は5月30日に行ったものです。)

――まず、現在の状況を教えてください
 私は他のOWSの選手の方々と比べると競泳の練習が多くて、大きな試合の1カ月前くらいからOWSに向けた練習を始めるので、実は普段はあまり練習していないんです。基本は競泳の400m、800m向けの練習をずっとしています。いつもはセントラル目黒で泳いでいるんですけど、そこまで学校から1時間ほどかかりますし、また家も遠くて。練習に参加はできているんですけど、始まる時間にプールに着けないこともあって、練習量も足りてないと思っています。でもそこは先生と協力してプールを使わせてもらったり、朝練したりうまく補っています。世界選手権に出るのにも1カ月間学校を休まなければいけないので、学校と水泳を両立していくのが大変だなとすごく感じていますね。

――ゴールデンウィークにはOWS代表合宿に参加されました
 新潟医療福祉大学の先生がヘッドコーチとして来て下さいました。(新潟医療福祉大は)船で海練するくらいOWSに力を入れている学校なんです。5日間の中で90分間泳を2回やったり、2500mストレートで泳いだ直後に100mを20本全力で泳いだりと、かなりつらかったです。セントラルのスクール自体も私の先生もきついと言われてますけど、こういう練習を毎日やっているなんてすごいなと圧倒されることばかりでした。90分間泳ではプールのコースロープを全部外して、ブイを四つ浮かべてその周りをぐるぐると泳ぎ続けて、あとは給水ですね。全部手作りで、釣り竿の端に籠を付けただけみたいな簡単な作りなんですけど、そこに入っているボトルを取る練習をしました。それ以外は競泳みたいにビート板も使わないですし特殊な道具は一切使わないので、1日20kmほどただひたすら泳いでいました。

――そもそもOWSを始めたきっかけは
 年に一回お台場で1500mだけ海で泳ぐお祭りみたいな大会があって、それにセントラルの選手は出場するんです。高校1年生で初めて出たんですけど、その時は「海なんて別にやらないし」と思っていました。でも高校3年のジャパンオープンのプログラムに、800m・1500mの長距離専門選手向けに、9月のOWSジャパンオープンのチラシが入っていて。高校生の中で2番以内に入ればジュニアの遠征にも行けると書いてあって、先生に出場を勧められたのがきっかけです。私の中では高校生で1番になるという目標で挑んだんですけど、結果全体の2番でA代表にも選んでもらえて。「あれ?一回でやめるつもりだったのに」と正直思いましたけど、そのまま今に至ります(笑)。

――最初からOWSに向いていたということでしょうか
 正直に言ってしまうと、競争率が低いというのは大きいかもしれないです。でもまず海で10km泳ごうとする人自体そんなにいないじゃないですか。メンタル的にきつい部分が絶対にありますし、私自身も最初はすごく嫌でした。周りでも「絶対海は嫌だ。10km泳ぐことよりも海が怖い」と言う選手が多いです。そこに関してのチャレンジ精神はあったと思います。あとは良くも悪くもあるんですけど、割とずっとペースが変わりません。特に上げられないし、特に落ちない。一度離されてもずっと泳いでたら追い付いているということがよくあって、同じペースで泳ぎ続けられるというのも一つ理由ではあるのかなと自分では思います。それと、10kmずっと6ビートで打ち続けています(※6ビート=2ストロークの間にキックを6回打つこと)。他の方々は腕でかいてかいて進むんですけど、私は元々の泳ぎがキックを使わないと進まない泳ぎで。足を打っている分、泳ぎ自体のテンポがすごく遅くて一人だけゆっくり泳いでるように見られてしまうんですが、キックは人より多く打ってます。

――競泳と異なり、選手同士の激しい接触が印象的です
 もう本当につらいですよ。日本の選手にはそんなにいないんですけど、海外の選手は平気で頭をつかんで沈めてきたり、肩を思い切り押さえ込んできたり。でもやり返すと倍返しで返ってくるので、私のポリシーはやられてもやり返さない(笑)。逃げて、泳ぎやすい場所を探します。いかに冷静でいられるかですね。初めての海外レースの時は、それだけでダメージを受けて心も折れてしまったんですけど、最近はうまくすり抜けて泳げるようになりました。

――OWSならではの魅力や面白さは
 OWSは毎回会場も違いますし、天気や潮の流れによってもタイムが全然変わってきます。今まで10km泳いで一番速かったのが1時間58分、長かったのが2時間20分なんですね。なので世界新とかもないですし、タイムを競うのではなくて順位だけを競ってる。競泳はタイムが全てで少し固い感じもしますけど、それに比べるとラフな感じですね。あとは波の流れを自分で読んで、部分部分で呼吸の方向や泳ぐ位置を考えるので、作戦次第では有利にも不利にもなります。考えて泳げば泳ぐほど、泳力に差があっても追い付くことができるというのも面白いです。どの集団のどの位置にいたら泳ぎやすいかとか、いかに10kmを楽に速く泳ぎ切るかを常に考えてます。ここが魅力でもあり難しさでもありますね。

――レース内での駆け引きについて教えて下さい
 この集団から離れたらおしまいだと思ったら、集団がペースを上げたら上げますし、変に突出して出て行っても後で飲み込まれるだけなので、本当にその時々です。水温によっても違って、低い時は最初から思い切って行かないと体が温まらないですし、逆に高い時は最初から行き過ぎてしまうと給水があっても後で苦しくなる。時間帯でも、朝早いと最初の2kmくらいは全体的にアップみたいな感じですし、いろんなレースパターンがあります。その時の状況や周りに合わせていく感じですね。

――同じOWS代表の貴田裕美選手(コナミスポーツクラブ)は、これまでに2度オリンピックに出場されています。その存在というのは
 10km泳ぐということは練習量もそれだけ必要なわけなので、30歳を超えてもなお第一線で活躍し続けているというのは、本当にすごいという言葉でしか言い表せないです。30歳まで泳ぎ続けられるかは別として(笑)、貴田さんみたいな選手になりたいなと思いますし、目標です。(貴田選手も)かなり足を打つ泳ぎ方。というのもキックを打っていないと、後ろから足をつかまれてしまうんです。なのでバシャバシャと進まないキック、でも後ろを泳ぐ選手にとっては泳ぎにくいキックを打っているので、そういう部分も勉強していかなければいけないですね。競泳人生もOWS人生も長い分、ブイの回り方や集団の切り抜け方などすごい技術を持っていらっしゃいます。でもそれは聞いたり教えてもらったりしたところで、実際にできるようになることではないですし、プールで練習できることでもないです。日本の試合でも難しい部分があるので、海外のレースにいっぱい出て経験を積むしか練習方法はないのかなと思っています。

――やはり国内大会と国際大会とでは大きく異なりますか
 高校3年の10月に出場した香港のワールドカップで、初めて海外の恐ろしさ、OWSの恐ろしさを知りました。周りは背も大きいしごついし、当たったらめちゃくちゃ痛いし。本当に自分はまだまだなんだなと感じた試合でした。結果も40人中30番くらいでぼろぼろで、やっぱり海外は違うなと。日本だと出ている人数自体が少ないので、結局貴田さんと幸美ちゃん(森山・日体大)と私が束になって泳いでも3人。でも海外になると20人とか30人が一斉に同じブイを回ることになるので、位置取りも手前で回れるか外側になるかでだいぶ変わってきます。海外での経験はやっぱり大事だなと思いましたね。

――OWSと競泳の位置付けは、ご自身の中でどのように考えていますか
 私は何だかんだ競泳が好きで、その中でも特に400m自由形の選手と言われたいです。今すごくOWSの成績が上がってきて、競泳はやめたみたいに思われがちですけどそんなことはない!(笑)。実際練習は競泳を多くしてやっているわけですし、クラブの先生とも「二つをうまく並行してやっていきたいけど、一番の軸は競泳で」という話をしています。初めて日本選手権とジャパンオープンに出たのが中学1年生で、そこからずっと出続けていたんですけど、今年大学2年生にしてどちらも出れなくて。競泳としてはかなりスランプに陥ってるので、まず来年はそれを戻すというのが一番の目標です。もちろんOWSも頑張りたいと思ってますけど、自分の中の一番は競泳。OWSも競泳のために始めた部分が少しはあるので、競泳が好きですし、競泳を頑張りたいという気持ちが一番にありますね。

――OWSは2020年に開催される東京五輪の正式種目でもあります。
 もちろんチャンスはつかんでいきたいですし、できる限りの所まで行きたいとは思っています。でも実はまだオリンピックのこととかあまり考えられていなくて、それまでに自分が勉強や就職などを含めてどうなっているのかも分からないですし、オリンピックまで続けるのか続けないのか、今すごく悩んでいます。でも今の時点で決まっていなくても、もし来年、再来年でこれは狙えるという位置に立てた時に、自分も本当に本当にオリンピックに出たいってなれていたらいいなと思います。

――最後に世界選手権に向けて意気込みをお願いします
 初めて出場しますし様子も全く分からないので、最低限の目標はしっかり泳ぎ切ること。途中棄権も全然あり得る競技なので、自分の力を100%出し切って泳ぎ切ることが第一の目標です。私は世界水泳に出たらきっと何かが変わると思っています。今のこのふわふわした状態から自分はOWSが本当に好きなのか、やっていきたいのかやっていきたくないのか、オリンピックを本気で目指せるのか目指せないのかを再確認する試合にしたいです。

――ありがとうございました

♥新倉みなみ(にいくら・みなみ) 理工2 東京立正高出 163cm セントラルフィットネスクラブ目黒所属 自由形長距離専門。日本選手権OWS女子10kmでは2時間4分28秒で3位入賞

[横手ゆめ]