世界選手権ダブルス銀・森薗 特別インタビュー「僕の卓球人生、ここが分岐点」

2017.06.13
 5月29日から6月5日にかけて行われた世界選手権。森薗政崇(政経4=青森山田)が、大島祐哉(木下グループ)とのダブルスで日本男子48年ぶりとなる銀メダルを獲得した。そんな森薗に世界選手権での活躍、そして今後について独占インタビューを行った。(この取材は6月9日に行われたものです)

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森薗 48年ぶり世界複銀

――48年ぶりの銀メダルを獲得した感想をお願いします
「まず第一にすごくうれしいなっていうのが素直な感想です。前回(2015年)は悔しい負け方(準々決勝、中国ペアにマッチポイントを握りながら敗戦)をして、この2年間、何回も夢にあの場面が出てくることがありました。その悔しさをばねに、大島さんと2人で苦しい2年間を過ごしてきて、その集大成が48年ぶりの銀メダルということで、本当にうれしいです」

――今回も中国ペアにリベンジはかないませんでしたが、正直な気持ちとして、今大会はうれしさと悔しさのどちらが勝っていますか
「当然うれしさの方が大きいです。48年間、誰もできなかったことを僕と大島さんの二人で達成できました。喜ばないとこれまで倒してきた相手にすごく失礼だし、まずはこの結果に喜んで、その後に『決勝はどうして負けたんだろう』ということを反省して、次に生かせたらいいなと思っています」

――大島選手と決勝後に話し合いなどは
「決勝が終わってホテルに帰って、少し一息ついてから、大島さんと2人でああでもない、こうでもないって試合のことを話し合いました。決勝に関して言えば、本当に中国相手に勝てる試合でした。全てのセットで9点目を先に取ったんですけど、そこから勝てませんでした。なんでだろうと考えた時、勝負所でのちょっとした“ひらめき”だったり、個人の能力の差だと思いました。相手は世界ランク2位と3位なので、本当にそこしかないかなと。ダブルスのペアリングの力としては僕らが世界一だという自信があるので、負けるとしたら個々の能力とちょっとした“ひらめき”、そういうところかなと」

――“ひらめき”とは
「今大会から“ひらめき”という言葉を使いだしたんですけど、世界選手権は7セットマッチっていう長丁場で、ずっと同じことをやっていても勝てないから、どこかで何かを変えなければいけないんです。その変えるタイミングというのが、相手に余裕があるときに変えたりしても対応されちゃって、変えたのに『あ、だめだだめだ』ってどんどん悪循環になっていくのが怖い。だから、8―8、9―9ってすごい怖いけど、そういうところで変えられるだけのメンタルの強さが必要だなって思っていたんですけど、それが“ひらめき”かなと僕の中では解釈しています」

――決勝の場面で3セット目を奪われた後、森薗選手のプレーがアクティブに変わった印象を受けました
「三つ接戦を落として、気持ちが切れそうだったんですけど、そこでもう一回気持ちを入れ直すことができました。世界選手権だと1セット取ったら何が起こるか分からないので、相手も怖いし緊張します。逆に吹っ切れて思い切ってできました」

――中国人選手と対戦して見えた課題は
「これといって変わったことはないですね。ただただ個々の実力を上げるために、いろんな場を経験する、もっと激しく多く練習する、本当にそれだけだと思います。強くなるのに近道というものはないから、これまでやってきたことを、負けたとしても自信を持って地道に続けていく、それだけしかないと思います」

――中国人選手は超人的なプレーをしていましたが
「いや、そんなに変わんないですよ。シングルスはすごい強いけど、ダブルスに関しては練習したもの勝ちです。俺と大島さん、世界ランク22位と63位であんだけいい試合ができたんですから。ダブルスは1+1=2じゃなくて、それが100にも200にもなるような競技です。悲観はしていません」

――準決勝は苦手な韓国ペアにリベンジしました
「韓国ペアは本当にダブルスが強いペア。これまで0勝2敗だったので、すごく研究、対策しましたね。それでいい流れで試合が運べました。その時テレビ東京が錦織さん(圭選手・ユニクロ)の方の中継やっていたのかな。だけど、フランスは雨で、ちょうど中断になったのが僕らの試合入る直前で。で、中継がこっちに流れてくると聞いて『うわ、俺地上波初生放送だ』って思ったらすごい緊張しちゃって(笑)。やばいなーと思っていたんですけど、でもメディア今回いろいろ取り上げていただいて、2試合生で出してもらえて、いろんな人に自分の試合を見てもらえるというのはスポーツ冥利(みょうり)に尽きると思って、スポーツやっていて本当に良かったなと思いました。僕らは卓球をやりながらじゃないと、自分のいい部分を表現できないので。卓球を通してみんなに表現する職業なので、見てもらえたことが本当に良かったなと思いますね」

――準決勝、決勝ではチキータが特に切れていた印象があります
「チキータは今大会通じてかなり良かったですね。ミスもかなり少なくて良かったです。僕の今大会ベストチキータが、準々決勝3セット目、5―10で負けていて、10―10で追い付いて、そこからリードして、最後の1球思い切り振り抜こうと思って打ったら、すごいいい感じで入りました。それが僕のベストチキータです」

――アジア選手権で半月板がずれるケガを負いました。世界選手権ではフットワークをフルにつかっていましたが、怖さは
「いやもう何にも。試合に入るときはアドレナリンが出ていて、ケガをしていても痛みを感じないような体になります。その点何も問題はなかったんですけど、すぐ次にジャパンオープンがあるので。気が抜けてケガをしないようにしっかりケアしたいです」

――春リーグ最終戦ではダブルスのみ強行出場(記事はこちら)。そこでレシーブなどを確認できたことはプラスに働きましたか
「それは絶対あると思います。用具もかなり直前まで迷っていて、いろいろ試したり変えたりしていて。実戦感覚がないまま試合に入ったら、最終戦の前の日に全身がすごく痙攣(けいれん)しちゃって、チームにも申し訳なかったけど棄権させてもらいました(記事はこちら)。それでも、その感覚のまま世界選手権に入るのが嫌で。『ダブルスだけ出させてください』とお願いして、そこでいい感覚でできたことは今回の結果につながりました」

――前回大会からの2年間の苦しさはどういうものでしょうか
「自分の中で『あの試合はあそこで終わって、僕の卓球人生はこれから続いていくよ』ってどれだけ自分の中で割り切っていたとしても、結局は朝起きて夢に出てきて思い出して、すごい苦しい気持ちになって。僕らはワールドツアーで勝つために卓球をやっているんじゃなくて、五輪や世界選手権で結果を出すために卓球をやっています。だから、いくらインド、カタールのワールドツアーで連続優勝したり、ポーランドで優勝しても、結局、中国が出ていない時に優勝してもなかなか満たされる瞬間が来なくて。優勝するたびに『俺、何のために卓球やっているんだろう』ってすごい自問自答の連続でした」

――モチベーションは今回の世界選手権にあったということでしょうか
「そうですね。どれだけ勝っても満たされなかった気持ちについて考えてみたら、世界選手権で負けて『その悔しい気持ちは世界選手権でしか晴らせない』という心があったので、ここしかないなと。『僕の卓球人生、ここが分岐点だな』と強く思ってやりました」

――世界選手権が終わった今、次のモチベーションは
「これが全てと思って卓球してきたわけじゃないので。僕の卓球人生はこれから8~10年続くわけであって、これで終わりという気持ちも全くないです。でもモチベーションをどこに向けているかというと、卓球はオールシーズンあるので。休みがないから、またすぐにジャパンオープンある、チャイナオープンあるっていうずっと試合は続いていくから、抜くところは抜く、入れるところは入れる。それをずっとやってきましたから。大して変わらないです(笑)」

――2014年に大島選手とペアを結成してから、どのような点が成長しましたか
「実は、やっている当事者の俺らからすると、何が良くて何が悪いかというのは、あまり分かるところじゃないんです。けど、強いて挙げるなら、大島さんと長く組んだことによって、大島さんの考えていることが手に取るように分かる感じで、大島さんも僕の考えていることが手に取るように分かります。言葉を交わさなくても、次をやることがお互いはっきりしているから、だから勝負どころでもパートナーに任せることができるし、大島さんも俺に任せることができます。そういうところが一番大きいんじゃないかなと思います」

――大島選手の他に、三部(専大)と組んで全日本選手権を2回制していますが、ダブルスの名手としての極意はありますか
「ダブルスって僕に合っている種目なんです。僕は器用ではないけど集中力は高くて、いろんなことをやれって言われると難しいけど、一つのことを絶対やれって言われたら何としてもやるくらいの集中力を持っているので。ダブルスはやることが決まっているんですよね。サーブのコースも片方しかなくて、あと長さだけ、回転だけ。それを見て、ねじ込む。やっぱり一番大事なのは自分がミスしないことです。自分がミスしちゃうと、パートナーも不安になってその後のプレーが集中できなくなります」

――2年後の金メダルは見えてきましたか
「2年後にまた大島さんと出られるかは分からないです。日本も強いし、僕自身ももっともっと頑張らなければ駄目だけど、もし大島さんとまた組むってなって、出させてもらえる機会があるならば、今回の決勝を経験したのはすごく大きいなと思います。決勝もそんなに悪い集中力じゃなかったんだけど、もっともっと入り込めたんじゃないかなっていうのがちょっとあったかな。雰囲気が全然違うし、間合いも全然違うし、普段の自分が自分じゃいられなくなるところだ、っていうのが分かったので、もしもう一度あの舞台に行ったときに、もっと平常心でできるんじゃないかな」

――最後に、ファンの方々にメッセージをお願いします
「連日、深夜から明け方まで日本の卓球ファンみんなが応援してくれて、本当に力になりました。僕と大島さんの力だけでは世界選手権2位は取れませんでした。今回2位を取れたのは、これまで支えてくれたスタッフの方々やファンの方々の力のおかげって思っているので、感謝しています!」

――ありがとうございました

◆森薗政崇 もりぞの・まさたか 政経4 青森山田高出 160cm・50kg
左シェーク・ドライブ型。4月5日生まれ。今季は主将を務める。大島選手とのペア結成は2014年8月、チェコオープンから。

[木村亮]