(12)越川芳明部長インタビュー

2015.12.06
(12)越川芳明部長インタビュー
 第4回は、今年から明大サッカー部の部長に就任された越川芳明文学部教授にお話を伺いました。「ロベルト・コッシー」の異名をとる越川部長のサッカー部への熱い思い、そして学生たちへの期待を語っていただきました。

――今年、副部長から部長へと就任となりました。今年はここまで、どんなお気持ちでサッカー部の部長を務めておられますか
越川部長
:部長という仕事は基本的には学生の面倒を見ることだと思っています。大学生とは第一に学業があるので、そのサポートが第一かなと思います。授業に出て単位をちゃんと取ってもらうとか、4年生で卒業してもらえるようにサポートすることが一番ですかね。試合が土曜日だったら日曜日に八幡山に行って、選手たちになるべくたくさん会って、したくない勉強の話をさせます。取りにくい難しい科目が何なのかを聞いたりして。すると、農学部の「細胞情報制御学」とか、法学部の「民法総則」とか、商学部の「国際マーケティング論」とか、こっちがめまいがするような難しい科目を取っているんだな、と、再認識させられます。サッカー部全員となると70人近くになるので、レギュラー選手だけでなく、全員に目を配ることが大事だと思っています。いきなりゼミ生70人を持ったみたいな感じがしますね(笑)。学業でドロップアウトしないように! ということは、前の別府部長のやり方を応用したものです。それが部長としての一番の使命だと考えています。勉強ができなかったり、色んな悩みを抱えたりしているとプレーに悪影響を及ぼします。だからそれを取り除いてやりたいな、と。ただし、全部手助けしては学生たちの主体性が失われてしまいます。だから、彼らの自主性は尊重しながら、向こうから相談にきてくれるのを待つということですね。それが部長としての僕の仕事だと思います。

――明大サッカー部の強みはどこにあるとお考えですか
越川部長
:サッカー部の方針として、文武両道での人間教育を打ち出しています。監督をはじめスタッフは選手たちに、人間としての成長が結果的にサッカーの幅を広げ、プレーの質を高めると言っています。この間、差波(優人・商4=青森山田)がリーグ最終2試合で考えられないようなシュートを決めました。今まではパスを出したり、フリーキックやコーナーキックでゴールを演出したりすることが多くて、ヒーローになることはあまりなかった。試合後のコメントで、「あれは自分だけの得点ではない」と言っていたことにも、彼が一回り成長したのを感じました。ああいったゴールが生まれたのも、彼がしっかり勉強をやり、難しい科目の単位を取れてきた安心感があったのかな(笑)。トップチームでもセカンドチームでも、監督やコーチがちゃんと目を配っていますよ。トップチームだけが強ければ良いわけではない。僕も含めて全員がサッカーとの関わりを通じて、人間的に成長することを、新しいことにチャレンジすることを目標にしています。そうすることで、サッカー界でも、サッカー以外の世界でも、たんに日本だけでなく、国際的に通用する人間を育成する。それが明治のサッカー部の良さでも強みでもあると思います。監督やコーチも常に新しいことにチャレンジしていているし、また選手の場合、たとえば下部のチームに落ちた時には、ともすればモチベーションが下がりかねないけど、どんなところでも、どんな時でもハードワークできるかどうかが大事です。部員の中には、主務の仕事、学連や体育会の仕事、いわば縁の下の力持ちの仕事を精一杯やっている者もいて、僕は、ある意味、彼らから学ぶことが多い。子育てすると分かりますが、親は子供から学ぶのです。70人の子供たちから学べるのだから、うれしいね(笑)。試合の時、スタンドで歌って応援する部員たちの姿勢も真剣そのもので、常に他校を圧倒しています。そういった選手たちが自然に育つ明治の土壌を大事にしたいです。

――前期はなかなか勝てない時期もありましたが
越川部長
:明治のやっているスタイルは時間が掛かるんじゃないか、と誰かが言っていました。FWに大きい選手をそろえて、ロングボールを放り込んで事故を起こさせて点を取るという戦法が手っ取り早いのかもしれないけど。明治はパスをつないでいくので、熟成するのにウィスキーと同じで時間が掛かる。時間を掛ければ掛けるほどに良くなるのかなと。7月にユニバーシアードもあり、そこに選手を取られて、熟成期間が短かった。それと、前期は素人ながらに見ていてもったいない失点が多かったですね。あっけない形での失点もありました。山越康平(法4=矢板中央)もケガでいなかったし、守備も色んな意味で熟成していなかったのかな。でも、その頃、栗田監督(栗田大輔監督)に聞いたら、ディフェンス陣に山越や髙橋(諒・文4=国見)や室屋(成・政経3=青森山田)のいない分、河面(旺成・政経3=作陽)らの下級生も経験積んで、レギュラー陣と比べてもそん色ないですよ、と言っていました。ひとつの現象に対してとても多面的な物の見方ができる監督だな、と感心しました。

――そんな苦しい時期には何か言葉を掛けられたのですか
越川部長
:僕の出番は負けた時に出てくるのかなと思います。部長は試合が終わった後に一言選手たちに言うだけです。5月ごろには勝てないことが続いて、あとでチームの好不調を折れ線グラフにしてみれば、あの時が一番ボトムです。いつまで続くのかな、下手したら最下位かなという雰囲気もありましたよね。その時には『ポジティブ。とにかくポジティブに行こう。こういう時こそチャンスだ』と、言っていました。やっている本人たちは必死ですからね。次につながるように促してあげないと。あの時もそうだけど、4年生が中心になって、試合後よく、選手たちだけで自主的に話し合いをしています。誰だって浮き沈みはありますよ。僕は60年以上生きていますけど失敗の連続です。でも、どんな時でも発想の転換が大事。たとえネガティブな状況でも、それを踏み台にすれば飛躍できる。失敗しないと成長できない。チームも負けないと成長できないんですよ。でも、じゃあわざと負けてもいいのかということになるとそれは違う。もちろん勝つことを目指して戦う。それでも、負けてしまったら課題を見つけようとすることが大事。その課題に真摯に取り組むことで成長できる。誰も戦いに行って負けようと思う者などいません。でも勝負だからどちらかは負けるんですよ。人間だから失敗します。負けたり失敗したりしたら、次に何をすべきか材料をもらったということでポジティブに捉えれば良いと思います。だから、若者がよく使う「持ってる」とか「持ってない」という言葉は好きじゃありません。自分の失敗を直視できないから運や偶然のせいにするのです。そういう言葉を軽々しく使う選手はどこかで成長が止まると思います。

――大学スポーツにおいては4年生の存在が非常に重要だという言葉がありましたか
越川部長
:学生スポーツにおける4年生の存在は大きいと思いますよ。関東リーグの1部チームはどこも強くて過酷なリーグです。学生たちの団結力(チームワーク)がないと勝てない。4年生が必死な姿を見せるとか、4年生がリードしていくことが大事です。プレーだけじゃなくて、僕がよく見ているのは、4年生が試合中に声を出しているかなと。やっぱり4年生が声を出していかないと下級生はついてきませんよ。特に後半残り10分とか、いちばんきついところで4年生が声を出して鼓舞することで後輩たちもついていく。古い考え方かもしれないですけど。後期に、早稲田に負けた時に『4年生がしっかりしてくれ!』と、言いましたね。それは試合に出ている人、出ていない人に関わらずにね。「親父の背中」っていう言葉がありますけど「4年生の背中」というかね。

――和泉竜司主将(政経4=市立船橋)は、どんなキャプテンでしょうか
越川部長
:和泉は高倉健じゃないですか。あまりしゃべらないですけど、背中で引っ張っていくタイプというかね。ゴールを決めるのもそうですけど、和泉は前の方でディフェンスをよくやりますね。あれが彼の主張なんじゃないですか。得点だけでなく、ディフェンスでハードワークするところも、無言で他の選手たちを鼓舞しているのかなと思いますよ。後輩のFWたちも、その姿をまぶたに焼き付けておいてほしいです。

――今シーズン印象に残っている試合はありますか
越川部長
:たくさんありますね。でも特に三苫(元太・政経4=アビスパ福岡U-18)の劇的な同点ゴールは印象に残っていますね。どうしても劣勢で起死回生というのが強く残りますね。流経に0-1で負けていて、最後にギリギリで決めましたよね。体を投げ出すような捨て身のシュート。あとは、差波が後期の専大戦の時に決めた終了間際のゴール。0−0で引き分けたら終わりという崖っぷちだったからね。あとは、後期の国士舘戦かな。山越とか小出(悠太・政経3=市立船橋)とかが後ろでがっちりと敵のエースの松本孝平君(国士大)を抑えたじゃないですか。2-1で勝ち、国士舘を首位から引きずり降ろし、逆に明治は5位から3位に浮上し、首位戦線に食い込んでいきました。そんな劇的なゴールやがっちりとした守備というのが印象に残っていますね。他にも、アミノバイタル杯とか、挙げたらキリがありません。

――ベンチではどのような心境で戦況を見つめておられますか
越川部長
:僕は、ベンチの中で唯一の素人ですよ(笑)。記者と一緒でメモを取っているんです。だから、わりと冷静に見ています。もちろん点を取ったりするとうれしいですけど、すぐにメモに戻ります。でも、ときたま遠くて誰が取ったのか分からないんですよ(笑)。ベンチって選手と同じ目線だから、立体感がなくて見えにくかったりもするんですよね。だから、隣のトレーナーの人に聞いたり、後で公式記録とかもらって、ああこうだったんだということもありますね。明大スポーツとかサッカー部マネージャー日記とかも参考にしていますよ。僕、素人だから、試合前でもハームタイムでも何も言わないんだけど、でも、後期最終戦の慶大戦の時だけは言わせてもらいました。前半を終えて0-1で負けていました。ハーフタイムに監督やコーチから的確なアドバイスがありました。でも、選手の様子を見ていたら、みんな暗い顔をしているのね。せっかくこれまで勝ち続けてきて、自分たちで素晴らしい舞台を整えたのに、主役は誰なのか!? 思い出してほしかった。慶応には優勝の目はない。明治にはある。まだ45分もあるんだから、『君らなら2点取れる!』と激励したの。またスタートから始める気持ちで、『まず1点取ろうよ』とね。そしたら、和泉が後半始まってすぐにゴールを決めてくれました。同点になったらもうこっちのもんですよ。もちろん、普段は部長として監督やコーチの邪魔しないように心掛けています。戦略的なところにでしゃばらないようにしていますし、でしゃばる知識もないんですけど、1回だけでしゃばらせてもらいました。栗田監督にお願いして言わせてもらいました。あの1回だけですね、試合中に何か言ったことは。もう二度と言いません(笑)。

――最後にインカレへ向けての意気込みをお願いします。
越川部長
:関東リーグと違いインカレはトーナメント戦で、負けたら終わり。だから僕もいつもと違いベンチでは熱くなりますよ(笑)。昨年2回戦で仙台大に足をすくわれたので、リベンジしてほしいですね。でも今年の選手たちは集中力があって、アミノバイタル杯とか総理大臣杯を見ていても、短期決戦は得意としています。しっかり準備をして悔いのない試合をしてほしいです。監督やコーチは百戦錬磨なので、あとは選手たちが試合で基本に忠実に普段の力を出し切れば、ゼッタイ優勝できます!

――ありがとうございました。

次回は和泉竜司主将(政経4=市立船橋)、瀬川祐輔(政経4=日大二)、小谷光毅(政経4=ガンバ大阪ユース)の対談です。更新は明日12月7日です。お楽しみに!

[鈴木拓也]