いきなり世界最強襲名 上川 金!

柔道
2010.09.21

 52年ぶりに東京開催となった、柔道世界選手権。日本は連日のメダルラッシュに沸いた。そしてその最後を飾ったのは、本学から無差別級として選出された上川大樹(営3)だった。突然の代表選出から55日、鈴木桂治(国士大教)や世界王者リネール(フランス)を撃破。「世界と戦う姿は力になった」(武田主将・法4)とその背中は明大柔道部にも感動を与えた。今、その姿に迫る。

≪王者リネール破る大金星 「大観衆の歓声を聞いて、気持ちが入った」≫

――7月に無差別代表に選出されましたが、その時の気持ちは?
「4月の全日本体重別で2位になったから、あるかなって思ってた。ラッキーだと思う」
――篠原代表監督にはどのようことを言われましたか?
「技術的なことよりとにかく気持ちを強く持てと言われた。いろいろ言われて正直ムカついたけど、『いつか見返してやる』って気持ちが出てきていい練習ができた。試合の時の最後の気持ちにつながった」
――トーナメントは強豪ぞろいでしたが?
「3回戦は100㎏超級2位の選手だったけど、事前にipadで研究した。ただやってみなければ分からない感じだったけど」
――2回戦はトラブルで試合直前に会場入りされたそうですが?
「いつものことだよ。慣れている。いつもと変わらない試合ができた」
――決勝前の心境は?
「準決勝で勝って、気持ちが切れかけていた。でも代々木の大観衆の歓声を聞いて、気持ちが入った」
――決勝のリネール戦はどんな試合でしたか?
「とにかく相手より組み手を早くすることに意識をやった。相手は腕も長いし、力も強かった。でも最後は気持ちだけだと思って頑張った。判定の時一瞬相手の旗が見えて負けたかと思ったけど、振り返ったら自分の旗が揚がっていて、歓声が上がってびっくりした」
――今大会のキーポイントはどこですか?
「全部。一試合、一試合気持ちをつくっていった。そういったものが最後に網張ったんだと思う」
――来年の世界選手権でまたリネールと対戦すると思うのですが?
「二度とやりたくない(笑)。でもやっぱり次やるときは、しっかり投げて文句なんか言わせない。フランスには勝ちたい」
――大会を通してうれしかったことはありましたか?
「実家のおじいさんが危篤で意識不明になってたんだけど、優勝の1時間前に意識が戻って、優勝の報告をしたら涙を流して喜んでくれたのを聞いた時はうれしかった」
――日本代表の中で過ごした時間はどのようなものでしたか?
「みんなフレンドリーだった。すごくめりはりがあって、練習後には冗談を言い合ったりした。常に刺激があって勉強になることばかりだった」
――チームメートや付き人に明大柔道部の仲間が居ましたがどうでしたか?
「やっぱり居てくれるとすごく精神的に違ってくる。海老沼(商3)は試合前に『勝って休みを取ろう』とか言ってくれた」
――マスコミやメディアの反応は気になりますか?
「特に気にならないね。3日もすれば落ち着くよ」
――今大会は次にどうつながると思いますか?
「かなりでかいよ。オリンピックにつながる勝利だと思う。これからの国際大会で結果が付いてくるといいね」

[取材 田中敬祐]

≪藤原監督が分析する上川≫

 今大会では国際審判を務め、世界の舞台で活躍した藤原敬生明大柔道部監督に今回の勝利の秘訣(ひけつ)を聞いた。
 「勝てる人間は武器を持っている」と開口一番に話した。今大会でも上川は切れ味抜群の足技を武器に勝ち進んだ。次に「貪欲に、かつ無心に相手に立ち向かったのが大きい。日ごろの稽古のたまものだ」と今回のメダリストたちを引き合いに、精神面が強化されたと述べた。
 上川の今後の可能性については「組み手の研究やパワー・スタミナをつけて、寝技でプレッシャーを与えられるとさらに強くなる」と「未完」の大器に寄せる期待は大きい。
 一気に世界の舞台に躍り出た上川。「この大会で上川は一皮むけた。だがまだまだこれから。(五輪への)明かりが見えたことは間違いない」。

≪海老沼、3回戦で敗れる≫

 ▼9・12 男子66kg級 海老沼――3回戦敗退
 勝負は一瞬で決まった。クナ(ブラジル)は海老沼にできたスキを見逃さず肩車で一本を奪った。右手を突き上げる勝者のクナと、ぼうぜんとする海老沼の姿は対照的だった。2回戦は難なく突破した海老沼だったが「慎重になり過ぎていた」(藤原監督)。今回は敗れてしまったが、まだロンドン五輪は射程圏内。次に期待だ。

≪柔道界での明大ブランド≫

 大体育会2番目の1905年に創部して以来、明大柔道部は学生柔道界をリードしてきた。
 歴代のOB・OGには五輪メダリストの神永昭夫氏(昭34商卒)、上村春樹氏(昭48政経卒・現全日本柔道連盟会長)、小川直也氏(平2営卒)、吉田秀彦氏(平4営卒)、園田教子氏(平11文卒・旧姓阿武)、泉浩氏(平17営卒)など柔道界の重鎮を輩出してきた。また今回の世界柔道選手権では藤原監督は国際審判として、園田助監督は全日本女子代表監督を務めるなど奔走した。
 各人の活躍の源泉は明大柔道部の姿勢「魂の柔道」だ。常に攻め、勝ちに最後までこだわることを意味する。一世紀以上も継承されるこのスタイルこそ、明大柔道部の栄光の懸け橋になっている。
◆上川大樹 かみかわだいき 営3 崇徳高出 185㎝・120㎏