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(3)世界水泳 福岡大会2001年から2023年へ

水泳(競泳) 2023.07.12

 世界選手権(以下、世界水泳)がこの夏、福岡県で開幕する。パリ五輪を翌年に控えた世界中のスイマーたちが福岡の地で熱戦を繰り広げ、日本の夏をさらに熱くさせることは間違いない。そんな世界水泳の歴史の中でも、前回日本で開催された2001年福岡大会は水泳界にとって大きな意義を持っていた。日本ではそれから2度目の開催となる今大会。2023年大会は二度の延期を乗り越え、世界水泳に参加するすべての人に未来に出会ってほしいという『WATER MEETS THE FUTURE』のコンセプトの下、さらなる未来を作り出していく。

 

世界水泳とは

 1973年、ユーゴスラビア(現セルビア)の首都ペオグラードで第1回大会が開催されて以来、現在に至るまで世界最高峰の選手たちが出場してきたかつては不定期で行われていた世界水泳だが、2001年の福岡大会以来、2年に1度、夏季五輪の前年と翌年に開催されるようになった。夏季五輪に次ぐ世界規模の大会として、特に五輪前年の世界水泳は夏季五輪の前哨戦として位置づけられている。ゆえに毎大会トップスイマーたちによりハイレベルな争いが展開され、世界新記録が連発されることも少なくない。また、この大会では五輪において正式種目となっていない50メートル平泳ぎ、バタフライ、背泳ぎがプログラムに含まれていることも注目すべきポイントの一つである。

 

2001年福岡大会への称賛

 世界水泳が福岡の地で行われるのは今回が初ではない。福岡で初めて開催された2001年大会は、現在に至るまでの水泳界において大変重要な意義を持つ大会となった。この2001年大会は2つの“初”となる試みが実施された。

 

~世界初の国際大会基準の仮設プールの設置~

 当時の福岡市内には、世界水泳に必要な50メートルプールの数が足りていなかった。全種目の円滑な実施にはプールの数を増やす必要があるものの、プールの新設となると、費用や維持費に膨大な維持費が掛かってしまうことが懸念された。そこで福岡市はヤマハ発動機に協力を要請。大会期間中にのみ一時的に競技場を運営する方式、後に「福岡方式」とも呼ばれた、仮設プールでの開催を試みた。驚くべきは、着工から完成まで掛かった期間はわずか2週間という点。さらに解体、撤去は1週間で完了した。この「福岡方式」は大規模なイベントのたびに多額の費用や時間を掛けて施設を建設しなければならない、という従来の観念に一石を投じ、後の大会にも大きな可能性を残したのだ。

 

~現在ではお馴染みの映像表現の誕生~

 2001年福岡大会に注目する全世界の人々に向け、国際映像ホスト配信業務を行ったテレビ朝日はさまざまな技術を導入した。中でも、スタート時に各レーンの水面にバーチャル国旗や選手名が表示される映像表現や、いわゆる『世界記録ライン』で知られる、現世界記録のペースを示すボーダーラインをレースの展開と並行させる演出は今大会が起源となっている。その他にも、飛び込みの選手と同時に落下させて撮影する『ドロップカメラ』などといった新技術がテレビ観戦を盛り上げた。このような革新的なバーチャル技術や撮影の新手法は、テレビで応援する人々にも緊張感や没入感を与え、選手たちの活躍ぶりをより一層引き立てることに成功した。また、同じく一分一秒のタイムを競う陸上競技においても、後にこの演出が採用されるなど、他競技にも影響を与えることとなった映像技術が生まれた大会として知られている。

 

日本で22年ぶりの開催~2度の延期を乗り越えて~

 当初は2021年に開催される予定だった今大会。新型コロナウイルス感染症の影響で東京五輪が延期されたことに伴い、世界水泳も2022年に延期した。しかし、その年も日本で猛威を振るうウイルスの流行はさらに脅威を増し、またもや2023年への再延期を余儀なくされた。2度の試練を乗り越え、2023年7月14日から30日までの17日間にわたって福岡県福岡市の4会場で満を持して開催される。今大会は、競泳、飛込、ハイダイビング、水球、AS(アーティスティックスイミング)、OWS(オープンウォータースイミング)の全6種別75種目が実施される。また東京五輪では実現しなかった有観客での開催も決まっており、世界中から集まった観客の大歓声に包まれる会場で、トップスイマーたちがしのぎを削る。

 

『一人一花運動』でおもてなし

 この夏、福岡市は地域一体となって世界中から多くの人を迎える準備をしている。その中でも『一人一花運動』は、福岡市を花で彩り、世界水泳に訪れる選手や観客に向けておもてなしのフラワーロードを作り出そうという取り組みだ。この運動では、博多駅周辺の大博通り沿いにある会社や店などが協力し、福岡市から配布された寄せ植えプランターに鮮やかな花々を植え、道沿いを彩る。さらには市民や企業が主体となって道路や公園の既存の花壇の手入れも行っている。またこの活動の一環として、博多区の福岡国際会議場前には大会マスコットの『シーライ』と『シャーニー』の花のオブジェが設置された。色とりどりの花が使われ、迫力のあるこのオブジェは今大会のシンボル的な存在となるだろう。このような行政や街に住む一人一人の花づくりによって、美しい花に囲まれながら博多駅から会場までの道のりを楽しむことができるのも今大会の魅力の一つだ。

 

2023年福岡大会はどのような大会になるのか

 本大会のコンセプトは『WATER MEETS THE FUTURE』。2001年の福岡大会から継承してきたテクノロジーのさらなる進化により“水泳の未来”を、世界中の人々とつながりを感じることで“地域の未来”を創出する。そうした未来に、人々が出会ってほしいという思いが込められている。選手のトップレベルの争いはもちろんのこと、テレビ中継の革新的な映像技術や、福岡市の地域ぐるみの取り組みにも注目すると今大会をより一層楽しめるに違いない。

 

[橋本太陽]


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