(19)鎌田佳朗 頭を使い成長し続けた4年間
派手なバレーの影にこの男あり。今年安定して好成績を収め続けたバレーボール部。集大成となる全日本インカレではベスト8で涙をのんだものの、その強さは本物だった。そんなチームを支えたのが4年生で唯一コートに立ち続けた鎌田佳朗(法4=東亜学園)だ。秋季リーグでは自身初となる個人タイトル・レシーブ賞も受賞。プレー以外にもコートでは最上級生として積極的に声を出し、後輩たちを盛り立てた。その一方でここまでに至るまでの4年間の道のりは決して平たんではなかった。挫折を味わい這い上がった、鎌田の軌跡に迫る。
直面した壁
相手のサーブを正確に返球し、攻撃ではブロックの脇を正確に打ち抜く。派手さこそないものの、「粘りのバレー」を掲げる明大に欠かせないオールラウンダー。これが現在の鎌田のプレースタイルだ。しかし、高校時代の鎌田の姿は今とは全く異なる。ポジションは今のサイドアタッカーではなくミドルブロッカー。現在でこそ関東屈指の守備は「(セッターの)僕から見ても下手で、常にパスレシーブで怒られていた」と後輩の上林直澄(法3=東亜学園)。「頭の悪いバレーをしていた」と本人が語るように、当時は恵まれたジャンプ力に頼り切ったバレーをしていた。そんな鎌田に大学バレーは非情な現実を突き付けた。当時の関東大学1部には石川祐希(キオエネ・パドバ)や小野寺太志(JTサンダーズ)といった、後に日本代表のスタメンに名を連ねる選手が多数在籍。「中大や東海大の選手が怖かった」(鎌田)。1年目はピンチサーバーとして自身のプレースタイルを模索する日々が続いた。さらに1年次の終わりには椎間板ヘルニアも発症。手術を受け、長期離脱を余儀なくされた。
ケガの功名
だが、このプレーができない期間が鎌田のバレー観を変えた。「自分は身長もあるわけでもないし、パワーもあるわけではないのでレシーブもできる選手じゃないといけない」。まず、課題の打力向上のために今まであまりしてこなかった筋力トレーニングに取り組み始めた。守備面では1学年上の小川智大選手(平31政経卒・ウルフドッグス名古屋)に師事。「本当にサーブレシーブはこの人がいなかったらもっと下手くそだったと思う」(鎌田)。大学ナンバーワンリベロだった小川選手から学んだのは相手レシーバーの心理の裏をかく返球やレセプション時の意識の持ち方。「考えてバレーをするようになった」と鎌田は今のプレースタイルを確立し、2年次の秋季リーグからはレギュラーの座を獲得。そして「パスレシーブが同じ人と思えないくらいうまくなった」(上林)。4年次の秋季リーグにはレシーブ賞を受賞するまでになり、30パーセントだったスパイク効果率は89パーセントにまで上昇した。そして、鎌田の成長とともにチームも成長。昨年のインカレでは4年ぶりに表彰台に登るなど、関東の強豪へと変貌を遂げた。
(写真:4年間で格段に打力が向上した鎌田)
精神的主柱
4年間で変わったのはプレーだけではない。それはコートでの役割だ。「4年になるまでは個人主義という感じだった」と下級生の時は周りを見る余裕がなかった。だが考えてプレーをするようになったことで視野が広がり、より周りを見られるようになった。そして、その発見は鎌田のコートでの声の出し方も変えていった。最上級生になった今年は練習からチームを引っ張ることを意識。「周りに対して良いことも悪いこともしっかり言うようには意識した」と後輩の意見も積極的に吸い上げ、練習に身が入らない同期には注意もした。「自分がチームの中で一番バレーをやったという自負もある」。鎌田はこの1年間プレーだけでなく、誰よりもストイックにバレーと向き合った。「一つの発言に対してどうしてと考えるようになってくれれば、もっとこのチームは強いチームになる」。バレーに真摯(しんし)に向き合った鎌田だからこそ、残したこの言葉の持つ意味は重い。
(写真:声でもチームを引っ張り続けた鎌田)
卒業後はバレーからは完全に離れる鎌田。VリーグDivision1にもリベロとして獲得に興味を持つチームは複数あった。だが「プロとしてやっていくというのは覚悟がないとできないし、バレー以外のことにも目を向けたい」とそれを断り一般企業に進む。バレー一筋16年、ついぞ日本一にはなれなかった。個人賞も大学4年次のレシーブ賞のみ。そんな競技歴の中でも特に大学の4年間からは数多くのことを学んだ。「人との接し方やどうすれば人が付いてくるかを学べた濃い4年間だった」。明大の屋台骨を支え続けた男は静かにコートを去る。
[前田拓磨]
◆鎌田 佳朗(かまたよしろう)、法4、東亜学園高、182センチ・68キロ。趣味は筋トレ。ベンチプレスは高校時代の70キロから100キロまで上がるようになった。
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