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伊勢DeNA3位! 父の言葉に救われ、飛躍遂げた変則右腕

硬式野球 2019.10.31

 変則右腕がプロの扉を開いた。伊勢が横浜から3位指名。夢舞台で〝横浜優勝〟の立役者となる!

大夢VS悪夢

 「ああ夢か」。指名漏れした自分がぼう然と立ち尽くす。ドラフト前、最後の登板を終えた10月5日から、伊勢は悪夢を見るようになった。森下は1位指名が確実。一方で、実績も乏しければ大学日本代表の経歴もない。覚悟して臨んだ秋季リーグ戦ではたったの1勝。「こんな投球してたら……」。不安は日に日に増していった。

 ドラフト当日、緊張した面持ちで会場に入った。じっとできず座席から何度も離れる。その姿は打者に相対する右腕とは別人だった。重圧からの解放は突然訪れる。18時17分「イセヒロム」。その瞬間「うおぉー」という歓声が上がり、一人胸をなで下ろした。「相当みんなを不安にさせた。プロでファンの方を不安にさせないようにしたいです(笑)」。記者会見で笑いを取る。ようやく普段の伊勢が戻ってきた。

心灯した言葉

 明確な目標を持たず始めた大学野球。特に2年次は肩痛で身が入らない。日常生活の怠慢や問題行動。「問題児。ろくな人間じゃなかった」。当然、ベンチ入りも果たせなかった。「野球部を辞めてくれ」。突如言われた善波監督からの退部勧告。本気で野球を続けるか、迷った。「もう大夢のユニホーム姿を見れないのか」(母・多恵さん)。熊本の母にも心配を掛けた。大学もまともに行かず荒んだ日々。相談を持ち掛けた相手は父・強三さんだった。「反省して次につなげることが大事。厄年だから気にするな」。人生で良いときもあれば悪いときもある。「腐ったらいけない」。父の言葉を胸にもう一度前を向いた。

 真剣に向き合い始めた3年次春には3勝を挙げ、防御率は森下に勝った。「良い責任感が出てきてくれれば」(善波監督)。今年は明大のエースナンバー〝11〟を背負った。日本一に輝いた6月の全日本大学選手権。最速151㌔をマークした準決勝・東農大北海道戦は圧巻。7回被安打1の好救援を見せた。「あの活躍があって今日がある。問題児じゃないですよ」。常に厳しい言葉を掛けてきた指揮官も褒めたたえた。どん底の2年前とは一転、明大を代表し、プロで戦う権利を得るまでに成長。本人も周りも想像しなかった光景だった。

 横浜で輝く星となれ。「高校も大学も私立。たくさんのわがままを言った」。高校3年次のバイト経験からお金を稼ぐ苦労も知る。だからこそ両親には人一倍、返したいものがある。「簡単ではないけど活躍して恩返しを」。目指すはシーズンを通して登板できる中継ぎだ。「いろいろな人に応援してもらえる人になってほしい」(強三さん)。あまたのピンチを救い、仲間にもファンにも認められたとき、伊勢大夢の恩返しは達成される。

【坂田和徳】

◆伊勢 大夢(いせ・ひろむ)熊本県出身。九州学院高時代にはエースとして春夏甲子園出場を果たした。右投右打。181㌢・86㌔

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