『孤独のグルメ』に倣え! 個食のススメ
食欲の秋、孤独に食事を取るときが来た。SNSの影響で他人からの評価を求めがちになった今日この頃。一方で、そればかりを気にすることに「疲れた」との声もよく聞かれる。周りにもまれて自分が分からなくなった時こそ「個食」で自分を見つめ直したい。
同調
自身の判断基準は、時に他人によっても左右される。ツイッターやインスタグラムの『いいね』数が気になってしまう経験は、誰にでも覚えがあるのではないだろうか。経営学部で経営心理を研究している中西晶教授は「SNSの発展で自己評価を相手に頼る風潮が強くなった」と語る。その理由の一つに挙げられるのがアイデンティティーを確立できていないこと。特に10~20代は「他人に認められたい」という気持ちが強い。だが重要なのは周囲の目よりも自分自身の価値観。そのためには「一歩引いて自分を見つめる時間が大事」(中西教授)だという。他人と常につながっている状況は疲れるものだ。たまにはスマホの向こうの相手だけでなく、自分と対話してみよう。
個食
その一つの方法となるのが一人飯。今や女性が一人で牛丼屋に行くことも珍しくない。10月に新シリーズが放送される『孤独のグルメ』をはじめとし、食事にまつわる数々の作品を手掛けてきた久住昌之氏は「他人は関係ない」と語る。元来、食事は個人の営みであり、周りに気を遣うものではない。『孤独のグルメ』の主人公である井之頭五郎も作中で語る。『モノを食べる時はね誰にも邪魔されず自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ』。自分のペースで食事を取ることで、自分を見直す機会となるだろう。幸いリバティータワーのある神保町には幅広いジャンルの飲食店が点在している。食うにはもってこいの食欲の秋。自分を見失いそうになったそこのあなた。今秋、一人飯デビューはいかがだろうか。
【綾部禎】
久住昌之さんインタビュー抜粋
――『孤独のグルメ』の制作秘話は
「90年代終わりのバブルなグルメブームを嫌だと思っていた編集者が、「もっと日常的な食べ物漫画を描けませんか」と依頼してきたのがきっかけです。グルメというのはたくさんお店を知っていて、おいしいものを説明できる人のことだけど、僕はそんなことに興味ありません。他人は関係ないグルメを考え〝孤独の〟グルメになりました」
――飲食店を選ぶ際の基準は
「僕はネットの情報に頼らず、自分の頭と足を使い、お店を探します。そうすると、どういうお店がおいしいのかではなく、自分はどんなお店が好きなのかが分かってくる。そしたら、ガイドもネット情報もいらなくなる。どこに行ってもあまり失敗しなくなります。神保町には長く愛されているお店がたくさんあります。都内で、数十年間続いている飲食店が多く残っているのは神保町と浅草くらいですよ。」
――久住さんにとって食べることとは
「生きているということではないでしょうか。よく「最後に食べたいものは何ですか?」と聞かれるけど、死ぬ間際なんて食べるどころではないでしょ(笑)。最後に食べたいものなんて言うのは、幻想で、お腹がすくというのは、強く生きていることです。腹が減って死にそうなんていうのは元気の証しだと思います」
◆久住昌之(くすみ・まさゆき)漫画家、ミュージシャンとして幅広い分野で活動。漫画の代表作は『孤独のグルメ』の他に『野武士のグルメ』がある
※この紙面のご購入を希望される方はこちらからお申し込みください
関連記事 RELATED ENTRIES
-
王座奪還 2年ぶり7度目のインカレ総合V
水泳(競泳) 2020.11.13王者の復活だ。無観客で行われた日本学生選手権(以下、インカレ)。昨年の同大会では日大に敗れ、4年続いた王座から陥落。今大会も事前の予想では日大に及ばずとされていたが、リベンジに燃えるスイマーたちは強かった。2日目に金メダルラッシュを起こすと、勢いそのまま大会は明大の独壇場に。「予想以上でした」(佐野秀匡監督)と指揮官もうなるほどの得点を重ね、2年ぶり7度目の総合優勝を果たした。 歓喜の時 がらんとした会場に、紫紺の歓声が響き渡った。400㍍自由形の中島涼(政経3=札幌大谷)、200㍍背泳ぎの松山陸(商1=春日部共栄)がそれぞれ金メダルを獲得し、迎えた2日目最終種目の400㍍フリーリレー。「ここで優勝しないと駄目だ」(井元秀哉・法3=湘南工科大付)。3泳の井元が3位から1位に順位を上げると、最後は溝畑樹蘭(政経4=報徳学園)が体一つ分リードしてフィニッシュ。「この時点で勝てると確信した」(佐野監督)。快進撃は止まらず、200㍍自由形の井元、400㍍個人メドレーの村田翔(法4=淑徳巣鴨)ら予選通過ライン当落線上の選手たちも自己ベストを更新して決勝に進出。「〝 俺も〟という雰囲気があった」(佐野監督)。最終的に2位の日大と78・5点差をつけ、圧巻の総合優勝を飾った。 再起の時 「インカレは絶対にある」。本庄智貴主将(商4=埼玉栄)は、繰り返し言葉にした。新型コロナウイルスの影響で一時は活 動が休止に。6月の再開後もすぐには合宿所のプールが使えず、インカレの開催も不透明。チーム内には「温度差があった」(佐野監督)。本庄も再開直後に肩を壊し、内心では「終わった」と絶望の淵に立たされた。それでも「僕だけでも見せていかないと」。口下手な主将はチームのためにと、必死にリハビリに励んだ。そんな主将の姿を見て「俺もやらないと」(中西晟・営4=呉港)。4年生を中心に次々と奮起。7月にはインカレの開催も決定し、全員が同じ方向を向き始めた。練習量も「こんなにやるのか」(中西)と本音をこぼすほどに増やし、例年以上の準備を積み上げた。すると8月の東京都特別大会では出場選手のほぼ全員が自己ベストを更新。「いいチームに仕上がった」(本庄)。〝明治旋風〟は、インカレ前から巻き起こっていた。 団結の時 一人はみんなのために。明大は寮生と寮外生で練習も分かれており、コロナ禍で顔を合わせる機会も限られた。だが「チームのために戦うことを徹底的にたたき込んでいる」(佐野監督)。オンラインミーティングを頻繁に開催し、チームの意識を向上。「明大のために」。インタビューの際、口裏を合わせたように選手たちはこぼした。大会を振り返って、質問をぶつけると、本庄は確信に満ちた声で答えた。「4年間で1番のチームでした」。 【岩田純】 この紙面のご購入を希望される方はこちらからお申込みください。→年間購読・新聞販売についてREAD MORE -
インカレ3年ぶり3位
ホッケー 2020.11.13第4シードとして臨んだ全日本学生選手権(以下、インカレ)。福井工大との3位決定戦は、序盤から両者譲らぬ展開に。緊迫のSO(シュートアウト)戦を制し、3年ぶりの3位に輝いた。 リベンジ歓喜の雄たけびが、秋の大井に響いた。昨年と同じカードとなった福井工大との3位決定戦。4Q(クオ ーター)を終え、2―2の同点。勝負の行方はSO戦へ託された。一つのミスが命取りとなる状況でも「SOになったら勝てる」(DF小林弘人・政経2=今市)。練習で培った確かな自信が何よりの武器となった。1番手のMF森紘之(法3=天理)が冷静に沈めると、そこから4人連続でゴール。守りでは「日本一うまいGK」(小林)と、チームメートが信頼を寄せる守護神・野井辰真(法4=伊予)が好セーブを連発。最終スコア4―2で、3年前の全日本大学王座決定戦以来、3戦3敗の福井工大へリベンジを果たした。3年ぶりのインカレ3位と相まって「すっごくうれしい」(野井)。選手の顔には笑顔があふれた。DF橋本岳樹主将(文4=山梨学院)ら主力選手にけがが相次いだ中、新星たちが輝きを放った。FW大岡凌磨(政経1=今市)、DF高松雄飛(法1=丹生)、FW三松勢矢(営1=今市)のルーキー3人が全試合でスタメン出場。攻守にわたり、代役以上の活躍を見せた。昨年を上回る3位の座をつかんだのは「1年生の活躍が大きい」と小池文彦監督も太鼓判を押す。今大会で4強入りしたことで、12月に行われる全日本選手権への出場権を獲得。昨 年は社会人の強豪・岐阜朝日クラブに初戦負けを喫したが、フルメンバーで挑めば勝機は十分。「日本一へ向け、最後のスタートを切る。 【中野拓土】この紙面のご購入を希望される方はこちらからお申込みください。→年間購読・新聞販売についてREAD MORE -
コロナで消えた「普通の引退」 大会中止が相次いだ今、最上級生の気持ちは/連載「real」第2回
明大スポーツ新聞 2020.11.13東京六大学野球の開幕を皮切りに、再開の一途をたどる大学スポーツ。その裏で、大会が開催されないまま4年生の引退を迎える競技もある。卓球部は今年、出場予定だった全ての学生大会が中止に。「今までで一番悔しい」(立藤颯馬主務・文4=松徳学院)。集大成を示す場もなく終わった最後の1年。甲子園中止に涙を流す高校球児が報道される一方で、大学スポーツの現状が注目されることは少ない。連載「real(リアル)」第2回は、コロナ禍で揺らいだ最上級生たちのラストイヤーに焦点を当てる。引退の重み 大学スポーツにおいて「引退」の持つ意味は、とても重い。学生の身分を卒業し、社会へ羽ばたく前の最後の1年。卒業後、競技を続ける人も一握り。仲間と全力を出し切り、花道を歩いて終えたいと誰しもが思う。消えた1年 「新型コロナウイルスの影響で、中止とします」。9月12日、六大学野球の再開に盛り上がるその裏で、全ての学生大会中止が突き付けられた――。 リーグ戦通算 47 回の最多優勝記録を誇る明大卓球部。 その主将に今年、エースの龍崎東寅(商4=帝京)が就任した。「今までで一番濃い1年を過ごしたい」。目標は、ここ4年遠ざかっている主要3大会の3冠・グランドスラム。全日本選手権王者の宇田幸矢(商1=大原学園)ら新戦力も加入し、絶対の自信を持っていた。 そんな中、緊急事態宣言が発令。5月の春季リーグ戦中止が決定し、部は一時解散に。全体練習がなくなるなど、活動にも制限が掛かった。「次いつ試合があるか分からない」。目標を失いながらも「インカレと秋季リーグ戦は開催されるんじゃないか」。 横目には他競技が次々と再開へ動き出している。卓球も開催できるはず。残る大会に望みを懸け、自主練習に励んだ。 しかし、実際に開催が決まった大会は一部の選手に用意された個人戦のみ。4年間追い掛けたグランドスラム。最後はそれを、全員で目指す機会すら失った。「やり切れない」。確かにあった自信をぶつける場もない。こんな幕切れは、誰も望んでいなかった。同月、部では4年生の引退が決まった。再会の影で 「気を引き締め直して」。卒業まで残り数カ月。これから競技を続ける人がいれば、幕を下ろす人も。今は寮に残り後輩の成長を見守りながら、それぞれ新たな道への準備を始めている。未曽有の状況 下でひっそりと身を引いた最上級生たち。心残りは尽きない。だが過ぎ去った時間はもう、戻らない。 最後の1年、仲間と共に戦う機会のないまま引退を迎えた卓球部。一方で、どの部もコロナ禍で少なくない影響を受けた。大歓声の中で。胴上げをして。本来ならあった「普通の引退」が失われた。大学スポーツの日常は取り戻されつつある。一方で、かけがえのない時間を奪われた人がいること。私たちは目をそらしてはいけない。【福田夏希】この紙面のご購入を希望される方はこちらからお申込みください。→年間購読・新聞販売についてREAD MORE