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強い明大野球部支える〝人間力野球〟の精神

硬式野球 2019.06.12

 節目となる40度目の優勝を果たした明大野球部。長い歴史を振り返るとき、人々は故・島岡吉郎元監督(昭11政経卒)の〝人間力野球〟を思い浮かべる。今も〝御大〟と呼ばれる島岡元監督と教え子である善波達也監督。「立ち姿が似ている」(平田勝男氏・昭57法卒・現阪神タイガース2軍監督)と言われる2人の指揮官に迫る。


人間力野球

 「ここはプロの養成所じゃない。ここは世の中に社会人を供給する場なんだ」。そう声を大にして言った島岡元監督が築き上げた〝人間力野球〟の土台。根本にあったのは、学生野球は教育の一環であるという考えだった。ただ勝つための野球ではない。いかに勝利を挙げるかに加えて、学生たちが世の中で通用する人間へと成長することを追い求めた。その中で成し遂げた15度のリーグ優勝は野球部の歴史の中で今も輝きを放っている。

 大学で4年間を過ごしても、次は社会人1年目。社会に出てから困らないように「4年生が先頭に立って嫌なことをやりなさい」。島岡元監督自ら素手で便器を洗ってみせたこともあるという。上級生がトイレ掃除やごみ拾いに率先して着手。その成果が選手としてだけではなく、一人の人間としての成長だった。


善波イズム

 善波監督も島岡元監督から直接、薫陶を受けた一人だ。「偉ぶらないし、人の話は聞くし、律義さも持っている」と野球部OBで現・スポーツニッポン特別編集委員の落合紳哉氏(昭53商卒)は指揮官の人柄をたたえる。監督就任12年目を迎えた中「(選手たちが)社会に出て困らなければいいなというのを基本に考えている」(善波監督)。明大野球部において〝人間力野球〟はいまだアイデンティティーであり続けている。

 「何とかせい」「死んでも塁に出ろ」と厳命する島岡元監督の下で決死の覚悟で優勝を目指した大学時代。その経験を生かしつつ、今の時代に合わせた指導でチームを率いている。プロの世界で活躍する柳裕也選手(平29政経卒・現中日ドラゴンズ)は「チーム全員で乗り越えていくような課題を常に監督が与えてくれた」と大学時代を振り返る。


名将の采配

 常日頃から選手をよく観察し、実戦の中で力を発揮させる。優勝を決めた法大2回戦。7点差をつけられ迎えた4回表。2死二、三塁の好機に経験の浅い日置航内野手(商1=日大三)を代打で起用し、適時打で反撃の口火を切った。「自分たちとは違う感覚で野球を見ている。名将ですよね」(北本一樹内野手・文4=二松学舎大付)。その優れた観察眼で9度天皇杯を明大にもたらした。善波監督の指導が結実し、史上40度目のリーグ優勝を果たした今季。「空の上で御大が喜んでくれていると思います」(善波監督)。復活したイノシシワッペンと共にこれからも歴史を刻んでいく。


【荒川千那】


◆島岡 吉郎(しまおか・きちろう)昭11政経卒。昭和27年に明大監督に就任し、独特の精神野球で硬式野球部を根本から改革した。計64季の在任で通算15回のリーグ優勝に導き、多くの名選手を育て上げた


◆善波 達也(よしなみ・たつや)昭60文卒。卒業後は東京ガスで競技を続け、平成16年に硬式野球部コーチに就任。平成20年からは監督を務める。以来9度のリーグ優勝を果たし、春秋連覇も2度達成した


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